先日、タイで働いていた友人と久しぶりに再会した。

「今何してるの?」と聞くと「住所不定無職だよ」と答えが返ってきた。

住所不定無職。本来なら焦りと絶望でいっぱいになりそうな状況だが、彼の笑顔はここ数年間で最も清々しかった。

 

会社員が向いていないと気づくのに、10年かかった

友人は有名な私大を卒業後、大手保険会社に入社した。明晰で行動力もある彼は、先輩からもお客様からも可愛がられた。

地道な努力を重ね、30歳では年収1000万円を稼ぐほどになっていた彼は、誰もが羨むザ・エリートだった。

 

ところがある日、彼は突然会社を辞めてしまう。そして、縁もゆかりもないタイという土地で働き始めた。これまでとは全く畑違いの業界に転職した。

現地採用(※駐在とは異なり、現地の雇用基準で働く)という立場で入社し、年収は3分の1以下に減った。

だが、彼は持ち前のコミュニケーション力を発揮し、タイでも十分に活躍した。次々と人脈を作り、仕事は順調に進んでいた。

 

しかし2年が過ぎたある日、会社を辞めることにした。そして日本に帰国し、住所不定無職になった。

「日本で8年、タイで2年。結局10年間会社員をやってわかったことがある。

「何?」

俺、やっぱり会社員向いてないんだよ。

「…え、今更(苦笑)?でも10年間は会社員やってきたんでしょ?向いていないなら、そんなに長く続かないんじゃない?」

「うん、確かに10年間、会社員だった。でもやっぱり向いていないんだよ。向いているからできたんじゃなくて、向かないことを受け入れるのに、10年必要だったという感じかな。」

 

昔から集団行動ができないのは知っていた

友人の言葉は、スッと心の中に入ってきた。私もそうだったからだ。

彼との共通点は、「会社員は向いていないのは薄々知っていたけど、やっぱり向いていないな」と受け入れるまで、一応会社員を頑張り、数年かかったことである。

 

私の場合、会社員、、、というより組織人として向いていないのは今に始まった事ではない。思えば小さい頃から、権力に盲従することができない子供だった。

「何で先生は、先生という肩書きだけでそんなに偉そうなんですか?学校という閉ざされた社会を出ても、人間として本当に尊敬できる人なんですか?」

と真正面から先生に質問し、呼び出しをくらったこともある。

そんな調子だから、体育会系の部活に入った時も先輩から目をつけられたし、クラスを仕切っていた女子からも嫌われていた。ただ、不思議なことに友達が少ないわけではなかった。こうした私の世間とは少しズレた(?)部分を好きだと言ってくれる友人もいたし、なぜか高く評価してくれる先生もいた。

 

大人になってちょっとだけうまく立ち振舞えるようになったけど…

それでも大人になって、いよいよ周囲の同調圧力に負けてなんとなく就職してしまった時、始めて組織人としてそれなりの人生を歩み始めることとなった。

正直、最初は会社の理不尽さに相変わらず疑問を感じることもあった。しかし学校にいた時よりも、納得しながら日々を過ごせていた。なぜなら、会社の上司や先輩に恵まれていたからだ。

(一部を除いて)「いいからやれ」「気合と根性だ」という理不尽マネジメントをする上司は少なかった。

 

「大島さん、疑問を持つことは素晴らしい。けど仕事は人と一緒に進めるものだから、無駄に波風を立てる必要はないんだよ。」

こんな風に、私の疑問に対し、多くの先輩が自分の経験を踏まえ、自分の言葉で説明してくれた。そういう人たちと一緒に居られる間は、実際に楽しく組織人として働くことができた。

 

ただ業績がよろしくなくなると、「いいからやれ」「気合と根性が足りない」派の勢力が増していった。尊敬できる先輩は次々に辞めていき、やがて人も仕事もつまらなくなった。

そしてその後2回の転職を繰り返したが、結局学校のような組織に逆戻りしてしまった。

皆が素直に「そうだね」と従えることも、私はつい「なぜですか?」と言ってしまう。すると、先生っぽい上司に呼び出しをくらい、元学級員っぽい感じのお局先輩に目をつけられる羽目になる。

 

こんな風に同じような失敗を何回も繰り返し、「私はとことん組織人に向いていないな」と再認識するに至った。ここまで来るのに、友人は10年、私は5年必要だった。

でも本当の事を言うと、組織人が向いていないだろうということは、とっくの昔から気づいていたのだ。

 

「やっぱり」というサインを無視しないほうがいい

もしあなたが「”やっぱり”会社員は向いていないかも」と思うのであれば、かなり高い確率で向いていないんじゃないかと思う。「やっぱり」と思うということは、自分が会社員に向いていないと、内心気付いているということだ。

なのに、なぜかそんな素直な感情を、自分で認めることが憚られる。

なぜなら、あまりに周りの人が普通に会社員をやっている(ように見える)からだ。むしろ優等生だったあなたは、ついつい自分もできて当たり前、何なら人並み以上にできて当たり前と思っているのではないだろうか。そんな人に限って実際器用に仕事も出来て、会社でうまく立ち回ることもできたりする。

 

だけど、自分に嘘をつき続けるのは結構辛いものだ。嘘をつき続けると、感情が鈍くなる。自分が本当は何がしたいのかよくわからなくなってしまう。だから、もし一瞬でも「あ、会社員向いていないかも」と思う時があったら、ぜひそのふと湧いた感情を大切にしてみてほしい。

 

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−筆者−

大島里絵(Rie Oshima):経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールに渡星し、現地で採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのち独立。現在は「日本と世界の若者をつなげる」ことを目標に、フリーランスとして活動中。

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