これは私が妻から聞いた話。
* * *
大学の先輩に、アナウンサーになった方がいる。
彼がいつも言うのは、「アナウンサーは話す仕事ではなく、聞く仕事である」といった内容だ。
バラエティ番組の司会や報道の現場での聞き込み、ヒーローインタビューなど、アナウンサーの仕事は多岐にわたっている。
テレビを見ていれば、アナウンサーはずっと話している印象だが、違うそうだ。
厳密にはきっと、相手が話したい内容を聞き出すための一言を、発するのが仕事なのだろう。
* * *
3年前の秋、私は愛媛県松山市のバーで修行をしていた。
松山を訪れたことがある方は知っているかもしれないが、 赤ちょうちんとキャバクラとバーがひしめく、活気ある繁華街である。出張で訪れる会社員も飲みに出てくるため、 私の働いていたバーに県外の客が来ることは珍しくなかった。
同伴や仲間内で来られる場合もあるが、一見さん達は大体ひとりで現れる。
「食べログ見て、来ました」
松山に根付いたバーとしては、あたたかく迎えようと思う。それに、私はたったひとりの女性バーテンダー(新米)だった。
マスターは常連との会話に忙しく、ほかの手練れバーテンダーはドリンクを作るのに手一杯。 必然的に、私は男性ひとりで来られた一見さんの相手をする役だった。
とはいえ、お酒を楽しむオーセンティックバーなのであって、ガールズバーではない。 ただし、彼らに心を煩わせるのは接客業として失格である。
いやしかし、仕事の内容や出身地を聞くのは、失礼に値することもあるのだ。
悪戦苦闘する私を見かねて、マスターはヒントを教えてくれた。
「バーテンダーの仕事は、相手が話したいことを聞くこと」
ある日、忙しくない曜日の忙しくない時間帯に、また一見さんがやって来た。
大抵は、ファーストオーダーを聞いた後に「このお酒、お好きなんですか?」と問いかけるのが最初の会話だ。
その男性は、お酒の話を皮切りに、話題は好きなおつまみへ。
さらりさらりと慎重に話を進めていくと、彼が言う。
「ご存知でしたか? 市販のソーセージって、加熱しなくても食べられるんです」
彼は、自分の仕事である市販のソーセージの話がしたくて、バーに来ていたのだった。
* * *
私は、「なるほど」と膝を打つ。
世の中には、話したい人がたくさんいる。 むしろ、「話したい」「聞いてほしい」は確固たる本能だとも思う。
今ではSNSなどで、自分の言いたいことがいくらでも言える世の中になった。
でも、例えば出張先の見知らぬバーテンダーにこっそり自慢して次の日には忘れたり、 自分から言うのは憚られる内容を、アナウンサーの質問に乗せることで気が軽くなったり、 そういう欲求は、決して消えることはないだろう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前: ゆうせい 企画、執筆、編集、モデルを提供する「カンパニオ」代表。
ぱくたそでフリー素材モデルとして不倫素材や、記者風素材を提供している。映画大好きの愛妻家を自負しているが、恋愛映画や恋愛系コラムは苦手。とにかく水曜どうでしょうが大好きでしかたがない。
Twitter:@wm_yousay ブログ:http://huniki.hatenablog.com/「雰囲気で話す」