これは私が妻から聞いた話。

 

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大学の先輩に、アナウンサーになった方がいる。

彼がいつも言うのは、「アナウンサーは話す仕事ではなく、聞く仕事である」といった内容だ。

バラエティ番組の司会や報道の現場での聞き込み、ヒーローインタビューなど、アナウンサーの仕事は多岐にわたっている。

テレビを見ていれば、アナウンサーはずっと話している印象だが、違うそうだ。

厳密にはきっと、相手が話したい内容を聞き出すための一言を、発するのが仕事なのだろう。

 

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3年前の秋、私は愛媛県松山市のバーで修行をしていた。

松山を訪れたことがある方は知っているかもしれないが、 赤ちょうちんとキャバクラとバーがひしめく、活気ある繁華街である。出張で訪れる会社員も飲みに出てくるため、 私の働いていたバーに県外の客が来ることは珍しくなかった。

同伴や仲間内で来られる場合もあるが、一見さん達は大体ひとりで現れる。

「食べログ見て、来ました」

松山に根付いたバーとしては、あたたかく迎えようと思う。それに、私はたったひとりの女性バーテンダー(新米)だった。

 

マスターは常連との会話に忙しく、ほかの手練れバーテンダーはドリンクを作るのに手一杯。 必然的に、私は男性ひとりで来られた一見さんの相手をする役だった。

とはいえ、お酒を楽しむオーセンティックバーなのであって、ガールズバーではない。 ただし、彼らに心を煩わせるのは接客業として失格である。

いやしかし、仕事の内容や出身地を聞くのは、失礼に値することもあるのだ。

 

悪戦苦闘する私を見かねて、マスターはヒントを教えてくれた。

「バーテンダーの仕事は、相手が話したいことを聞くこと」

ある日、忙しくない曜日の忙しくない時間帯に、また一見さんがやって来た。

大抵は、ファーストオーダーを聞いた後に「このお酒、お好きなんですか?」と問いかけるのが最初の会話だ。

その男性は、お酒の話を皮切りに、話題は好きなおつまみへ。

さらりさらりと慎重に話を進めていくと、彼が言う。

「ご存知でしたか? 市販のソーセージって、加熱しなくても食べられるんです」

彼は、自分の仕事である市販のソーセージの話がしたくて、バーに来ていたのだった。

 

* * *

 

私は、「なるほど」と膝を打つ。

世の中には、話したい人がたくさんいる。 むしろ、「話したい」「聞いてほしい」は確固たる本能だとも思う。

今ではSNSなどで、自分の言いたいことがいくらでも言える世の中になった。

でも、例えば出張先の見知らぬバーテンダーにこっそり自慢して次の日には忘れたり、 自分から言うのは憚られる内容を、アナウンサーの質問に乗せることで気が軽くなったり、 そういう欲求は、決して消えることはないだろう。

 

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【著者プロフィール】

名前: ゆうせい 企画、執筆、編集、モデルを提供する「カンパニオ」代表。

ぱくたそでフリー素材モデルとして不倫素材や、記者風素材を提供している。映画大好きの愛妻家を自負しているが、恋愛映画や恋愛系コラムは苦手。とにかく水曜どうでしょうが大好きでしかたがない。

Twitter:@wm_yousay ブログ:http://huniki.hatenablog.com/「雰囲気で話す」