無印良品、といえば日本人で知らない人はほとんどいないだろう。元々は「西友」というスーパーマーケットのプライベートブランドだったのだが、母体から独立し、今では世界に冠たる日本のブランドとしての地位を確立している。

 

現在では日本に385店舗、海外には25カ国、295店舗を構える、日本企業としては海外比率が最も多い会社の一つだ。

さて、ご存じの方も多いと思うが、1989年に設立されたこの会社は、設立以来10年、驚異的な成長をとげ、1999年には売上1000億円、利益136億円をあげるという「小売のスーパースター」だった。

しかし、ユニクロやニトリ、ダイソー、ヤマダ電機などのライバルが出現し、業績を延ばす中、無印良品はかつて持っていた強みを失い、業績は2001年には38億円の赤字。株価も約40000円から約2000円へ暴落。あるアナリストは、「小売が一度崩れて、復活した例はない」と述べたという。

 

「無印良品は終わった」誰もがそう思っていたその時、社長に就任したのが、現会長の松井忠三氏だ。

結論から言えば、氏は会社を6年で売上が1.5倍、利益を72億円とし、「奇跡」ともいわれるV字回復を成し遂げた。

その氏が高知県でセミナーを行うという。(ストロングポイント社 セミナー)ということで、高知まで行き、セミナーに参加してきた。

非常に役立つ内容であったので、面白かった部分をシェアさせていただきたいと思う。

 

無印良品はなぜ伸びたのか

松井氏の話は「オイルショック」から始まった。時は1980年。高度成長が終わりを迎えた年だ。

当時小売の主役であった「百貨店」は、初めてその座を「スーパーマーケット」に明け渡す。三越がダイエーに売上で抜かれたのだ。

そして、時代は大きく変化したことを誰もが認識した。

ダイエー、ジャスコ、イトーヨーカドーなどのスーパーマーケットは、この年からこぞってPB(プライベートブランド)を出すようになる。もはや、ナショナルブランドを扱っていれば良い時代ではなくなった。

 

そして、遅れてPBに参入したのが無印良品の母体であった「西友」だ。西友は後発であるがゆえに、PBにも差別化を求められた。そこで生み出されたのが、「わけありだが、品質も高く、安い」というPBを生み出すことだった。

 

だが、当時のPBは、お世辞にも「品質が高い」と呼べるようなものではなく、「安かろう、悪かろう」だった。

無印良品は当初40アイテムでスタートし、徹底的な合理化によって、「品質は高いが、安い」を実現した。その方策は次の3つである。

・素材を見直す(例えば、マッシュルームの缶詰は中心部の形の良い部分だけでなく、回りも使う)

・工程の点検(それまで他社はしいたけを大きさ別に売っていた。そこでしいたけを大きさ別に選別せず、染色や漂白もしなければ、半額で出せた)

・包装の簡略(ティッシュは中身だけ売る。醤油や油も中身だけ売る。売れ残った時の容器の廃棄損もなくなった。)

 

コンセプトは、「余計なものをそぎ落として、最後に残ったものを売る。」

 

他にも、ワイシャツは、値札を切るとどこのものかわからないくらいシンプルなものを売る。ひたすら機能のみで勝負する。例えば、広告には有名人を使わない。なぜなら、「機能だけで勝負」したいからだ。

結果的に、この戦略は大当たりし、「無印良品」は、西友というスーパーマーケットの枠を超えた、日本を代表するブランドとなったのである。

 

絶頂から凋落

ところが、2000年にはいり、最初の「減益」が彼らを襲った。社内は大混乱、衣料品がまず悪くなった。衣料品の部長が3年で5人変わるなど、迷走ぶりに拍車がかかった。

原因は単純なことだった。要は、「怠けていたツケが、回ってきた」のだ。

無印良品の取引先からは、あの時のことを振り返るとこう言われるそうだ。

「あの当時の無印は、本当に不遜で傲慢だった。」

競合も強くなっていた。百貨店のクオリティを7がけで売るというモデルは既に時代遅れで、ユニクロやダイソーの台頭により、強みはとうの昔に消滅していた。

 

松井氏、改革断行

松井氏はこのようなときに、会社を引き継いだのである。

氏は冷静に社内を見渡し、「贅肉を削ぎ落とすこと」から始めた。水ぶくれした企業を筋肉質に変えるため、かなりの痛みを伴う改革を行った。

・経営陣の刷新

・不良在庫の処理

・不採算店の閉鎖、縮小

・リストラ

以上を1年ちょっとで一気に行ったのである。会社は大きく変わり始めた。

そして、氏は次に「無印良品の戦略の再構築」を行う。

 

戦略の再構築

1.「単なるシンプル」から、「ハイクオリティ・ベーシック、リーズナブルプライス」へ。創造的な省略により究極のデザインを生み出すブランドへ。

2.「属人的なオペレーション」から、「仕組み化、マニュアル化。」へ

3.「企画力」重視から、「実行力」重視へ

4.上記を徹底するため、人の配置を考えぬく

 

1.により、「安売り」ではない、「ほんとうに良いもの」を追求できることが決定された。

2.により、あらゆる店舗、海外店舗であっても、同様のクオリティの店舗運営が可能になった。

3.により、あらゆる仕事に締め切りが設けられ、全社的なタスク管理が実現した。

そして、4.により、1から3が、確実に実行された。

 

特に突き抜けているのが2.と3.だ。

彼らはMUJIGRAMという店舗オペレーションマニュアルを世界で運用し、月に全体の1%を書き換える、という執念に近いレベルでの徹底したマニュアル運用を行っている。それは現場からの意見を確実に吸い上げ、隅々までベストのオペレーションを浸透させる強力なツールとなっている。

また、DINAシステム、という全社的なタスク管理システムが構築されており、あらゆる議事録が公開され、全てのタスクの締め切りと責任者が「見えるように」なっている。これにより「やり忘れ」というものが、他社に比べて劇的に少ない。

 

まとめ

ただ、いろいろとやっているように見えるが、突き詰めて言えば松井氏のやったことは、

「考えたことを紙に落とし、確実に実行できる人間に任せる」ということだけだ。

松井氏は最後にこう言った。

「社風を変えるのは、そんな難しいことではない。決まったことを決まったようにちゃんとやる、これが一番会社を強くする。」

実際、それが一番難しいのであるが。

 

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(2024/3/26更新)

 

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