仕事がうまく行かない時は誰にでもあるだろう。
そんな時、「このままではダメだ。もっと真剣に、もっと頑張らないと」と思うかもしれない。
しかし、かなり昔に訪問した企業の経営者が、「つらい時には頑張っちゃいけない」と言っていたことを思い出すたびに、
「真面目すぎるのも考えものだ」と思い直すのだ。気楽に、固執せず、多少不真面目くらいで丁度良い。
とはいえ、彼の「頑張っちゃいけない理由」は少し変わっていた。
彼の会社は80名程度の規模の会社で、5年連続で売上、利益とも伸びている会社だった。私は「さぞかし優れた経営をしているのだろう」と、内情を聴くため、インタビューをさせていただいた。
私が単刀直入に
「5年連続で売上、利益とも伸びているのは、何が理由なんですか?」と聞くと、
彼は一言、
「運だね。」
と言った。
「運だよ。完全に。大したこともしていないし、できることをやってるだけ。来年業績が悪くなったとしても、全くおかしくないよ。」
謙虚な経営者は少なからず存在するが、これは度をすぎている。
「しかし……謙虚ですね」
「謙虚?本気でそんなこと言ってるの?買いかぶりすぎだよ。商売は、本当に運なんだよ。」
「そうなんですね。」
「頑張ってやっても、うまくいくかはわからない。手を抜いても、うまくいく時はうまくいく。会社なんてそんなもんだよ。」
「社員はどう思ってるんですか?」
「さあ……どうだろね。私は真面目に考えすぎるな、って言ってますよ。成果が出るかどうかは時の運。」
「それでよくこの業績が出せますね……」
「ま、だから皆好きなことしかしないんじゃない。皆大人だから、何も言わなくても大丈夫なんだよ。」
「ちなみに、業績が悪化したら、どうするんですか?」
「仕事がなくなるだけ。」
「給料は?」
「払えなくなるねえ」
「それで?」
「それでオシマイ。」
「……」
とりつくシマがない。私はインタビュー能力の無さを痛感した。すると彼は言った。
「アンタ真面目だねぇ、そんなんじゃ会社つらいでしょ。」
「い、いや……そうでも」
「インタビューで、成功法則でも探そうとしてるの?ムダムダ、たいてい眉唾だから。うまく行かない時、まじめに考えると、余計うまく行かなくなるから。」
「なぜですか?」
「大体、うまく行かないのは、頭が固くなって、前提が間違ってるからさ。」
「例えばどういうことでしょう?」
「そうだね、例えば、八百屋やってるとするでしょ?近くにスーパーができて、お客さんをとられて窮地に立たされたとする。そこで何する?」
私は何となく正しそうな回答をした。
「……スーパーでは満たせない、お客さんのニーズを掴んで、スーパーと差別化するか……専門化…ニッチを狙う?」
経営者はまあそうだよな、という様子で頷きながら言った。
「ビジネス書にはそう書いてあるやね。戦略やら、差別化らやら。でも、そんなにうまく行かないって。選択肢が狭すぎるよ。っていうか、まじめに考えすぎ。スーパーの近くの八百屋なんて、よほどじゃなきゃ儲からないって。」
一蹴されてしまった。
「良いかい、実際正しかったのは、店閉めて、そのスーパーで働くことだよ。スーパーの野菜売り場の店員として。みんな同情してくれるし、ノウハウも貯まる。
しかも、もう知り尽くした世界でしょ?絶対に他の人より成果出るから。店を続けるより安定するし、店があるんだから、住むところはあるでしょ。スーパーで働いて、ノウハウと人脈を貯まったらまた八百屋やりたきゃ、独立すればいいじゃない。」
「……それを受け入れろと……。」
「だからさ、時代の流れには逆らうなってことだよ。何かに固執せず、楽にやる方法を考えるんだって。そこを勘違いしてると、仕事なんて辛いだけだよ。会社と仕事に、真剣になりすぎると、視野が狭くなるから。絶対に。」
「なるほど。」
「私は基本的に真面目な解決策を選択しないようにしているんだよ。それが例え直感に反していても、大抵正しい。」
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殆どの企業において、営業は目標達成が厳しいとき、行動量を増やして対応しようとしていたように記憶している。
だが、ほとんどの場合行動量を増やしたとしても、余計に辛くなるだけである。要するに今のやり方に固執しているだけなのだ。
まじめに考えすぎずに、目標を達成するには。むしろ行動を減らして、目標を達成するにはどうするか。そう考えなければ、ほんとうの意味で良い仕事はできない。
サラリーマンの給料は上がらなくなっているという。だから、それを上げるためにますます頑張り、過労やうつになる人も多い。
だが、上の経営者が言うように、「もっと真面目に頑張る」という選択肢は多分間違っている。むしろ給料を上げる事に固執せず、サラリーマンの給料は上がらない、という前提で考える。
出世して、月に5万、給料を上げるのは恐ろしく大変だが。副業なら「頑張らずに」月5万くらい稼げる可能性はある。「転職」という選択肢もあるだろう。
世の中は、そういう「まじめに考えない」ことが結果的に成果に繋がることも多いのだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
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