世の中には、数千、数万の仕事術がある。
効率化、自己実現、スケジュール管理、アンガーマネージメント、モチベーションアップ、コーチング……。
それらはきっと、仕事をするうえで役に立つのだろう。
でもわたしは、それらのノウハウを前に、声を大にして言いたい。
「小手先のテクニックうんぬんより、ちゃんと約束を守れよ!!」と。
約束をまったく守らない記者から取材を受けた
先日、とある新聞の取材を受けた。
取材の日取りを決める際、「事前に質問状がほしい」とリクエスト。それに対し、「取材の1週間前には送ります」と、記者自身が期限を設定した。
しかし、取材の1週間前になっても連絡がこない。
わたしが「質問状どうなっていますか」と確認のメールをして、やっと送ってくれた。
そして取材当日、わたしは
「別の取材で発言を都合よく切り取られて迷惑したことがある。細かいことをごちゃごちゃ言うつもりはないが、一応目を通しておきたいので、記事を確認させてくれ」
と伝え、了承してもらった。
しかし数週間後、「本日記事が掲載されました!」というメールが届く。
え、わたし事前に確認してないけど? なに勝手に掲載してるの??
「どういうことですか」と問いただしたところ、「事前に確認してもらうのはむずかしい。完成後に送ればいいと思っていた」というふざけた返事が。
記事を送るのなんて当然なんだから、わざわざ「内容を確認させてくれ」って言った時点で事前確認だってわかるだろ……。
事後確認なら、「公開したら教えてください」って言うよ……。
そのうえ、「記事が掲載された」というメールに記事が添付されていないことで、ますます腹が立った。
記事公開後に送ればいいと思っていたくせに、公開された記事すら送ってこないとはどういう了見だ。事後確認でいいと思っていたのなら、せめて事後確認できるように記事を送れよ。
あーあ、取材なんて受けなきゃよかった。
仕事術を売っているくせにビジネスマナー0のプロブロガー
仕事をしていれば、こういった納得のいかない場面には多々遭遇する。
「炎上目的のタイトルはつけないでくださいね」と最初にお願いしたのに、挑発的なタイトルをつけられたので抗議したら、「事前に教えてもらえるだけありがたいと思え」とそのまま記事を公開されたり(案の定著者のわたしが叩かれた)。
長年寄稿させていただき、心から尊敬していた編集者から連絡を無視されるようになり、預けた記事がすべてパーになったり。
映像系の専門学校の学生の課題に協力し、「完成したら見せてほしい」と言ったのに、インタビューが終わってから一切の連絡がこなかったり。
もう5年以上前になるが、当時流行っていた「好きなことを仕事にして生きるプロブロガー」の人たちと仕事をしたときもひどかった。
返事が適当で遅い、金をケチって振り込まない、都合が悪いと「この話はなし」と言って白紙にする、こっちが断ると信者たちに「勇気のない人は成功しない、先日こういうことがあった」と事実をねじまげて伝える。
ブログ運営のオンラインサロンを開き、トークライブに登壇し、SNS集客ノウハウをnoteで売っているくせに、ビジネスマナーはゼロ。
口では大きなことを言っていても、人として不誠実な人はいくらでもいる。
だからわたしは、常々思うのだ。
ビジネススキルやノウハウは大事だけど、小手先のテクニックよりも人として大事なことがあるでしょう、と。
人として大切な「約束を守る」3つのかたち
人として大事なことの根底は、「約束を守ること」だ。
「約束を守る」には、「言ったことをやる」「期限を守る」「丁寧にコミュニケーションする」の3つのかたちがある。
そのどれもが大事で、この3つをすべて実行することで、人との信頼関係を築くことができる。
まず一番大事なのが、言ったことをやるということ。
当たり前のことなのに、これをないがしろにしている人は多い。「やる」と言ったのにやっていなかったり、「やらない」と言ったのにやっていたり。
もちろん、人には事情があるから、予定通りいかないことはある。
でもそれならその事情を説明し、謝り、理解してもらうように努めるのが誠意であって、約束を反故にしていいことにはならない。
言ったことをやる、それが信頼の基礎だ。
期限を守るというのも、当たり前なのにできていない人が多い。
なんでライターがきっちり締め切りを守っているのに、メディアの検品が2週間音沙汰なしなんだよ! こっちが2週間音信不通だったらそっちはすぐ案件停止するくせによぉ!!
と思うこともあるが、「締め切りってなんですか? おいしいの?」という態度のライターもたくさん見てきたので、まぁそんなものなのだろう。
いや本当ね、働き始めてびっくりしたよ。
「期限守らない人ってこんなにいるんだなぁ」って。
だからこそ、ちゃんと期限を守ることに価値が生まれるのだ。
そして、丁寧にコミュニケーションすることも大切である。
「約束を守る」とはいっても、「約束」自体の認識がちがえば、自分は約束を守ったつもりでも相手からしたら話が違う、となってしまう。
さきほどの例でいえば、わたしは取材記事の事前チェックをお願いし、記者は事後確認でいいだろう、と思っていたことなんかがそれだ。
これに関してはわたし自身、取材依頼を受ける前に明確に言質を取っておくべきだったと反省している。
ちょっとしたコミュニケーションのサボりが、後々の信頼関係に大きな影を落とす。
「大丈夫だろう」と甘く見積もらず、細かいことまで丁寧に伝えなくてはいけないのだ。
信頼できるのは相手の能力よりも人間性
いくら能力が高くても、約束を守らない人は信用できない。信用できない人とは仕事ができない。
でも「約束を守りましょう」なんて、だれも教えてくれない。
約束を破ったところで、「こいつはダメだな」と見限られるだけで、いちいち怒ってくれる人もあまりいない。
だって約束を守るのなんて、当然のことだから。
とはいえADHDなどの理由で、その「当然」ができずに苦しんでいる人もいる。
そういった事情を抱える人は、できること、できないことを説明し、「できます」と言ったことを完遂することで信頼を積み重ねていけばいいんじゃないかなぁと思う。
時間を守ることが難しいのなら、時間を決めてミーティングを設定するのではなく、「この日なら何時でも電話に出られます」と伝えて、相手の都合のいいときに電話をかけてもらうようお願いするとか。あくまで例だけど。
多少できないこと、苦手なことがあっても、それを伝えてできることを必死にやれば、ある程度は理解してもらえるはず(致命傷にならないレベルなら)。
最善を尽くしても理解してもらえない環境ならば、そこに身を置いていても苦しいだけだろうから、場所を変えたほうがいい。
話は単純で、コミュニケーションを怠り、できると言ったことをやらず、約束を守らなければ、信用はしてもらえない。それだけだ。
当たり前のことをきちんとやることが最も大切である
最後に、『とんねるずのみなさんのおかげでした』などの人気番組を手がけ、「深夜のカリスマ」と呼ばれた敏腕プロデューサー、マッコイ斎藤氏の言葉を紹介したい。
常識というのはなんでしょう。
それは一つひとつの行動を丁寧にするということです。
人に会ったら挨拶をする。ゴミが落ちていたら拾う。お年寄り。に優しくする。小さい子供を助けてあげる。遅刻をしない。初対面の人に対しては目下の人でも、お店の人でも敬語で話す。そういったごく当たり前のこと。
でも偉大な人ほど、そういう当たり前のことを徹底しています。
ビートたけしさんは、初対面のときから丁重な敬語で話しかけてくれました。
ホリケンは、仲間の挑戦を応援してくれるし、絶対に人の悪口を言いません。
いくら毒を吐いていても、無茶苦茶なことをしても、「あの人はふだんすごくちゃんとしている人」だと周囲はわかっています。
出典:『非エリートの勝負学』非エリートの勝負学
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この「常識」には、「約束を守ること」も含まれる。
人として当たり前のこと。でも、適当になりがちなこと。
それをいかに普段からちゃんとやっているかで、その人への信頼度が決まる。
もちろん、わたしだってすべての約束を守れているわけではない。
でもできるかぎり誠実でありたいと思っているし、約束を守ってくれる人と付き合いたいと思う。
小手先のテクニックなんて、あくまで+α。
意識高い系の本を読んでいるヒマがあったら、言ったことをちゃんとやって、期限をちゃんと守って、相手とちゃんとコミュニケーションを取ったほうがいい。
最終的に信頼できるのは、相手の能力よりも人となり。
すべての人間関係、仕事は、「約束を守ること」からはじまるのだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち (新潮新書)
- 雨宮 紫苑
- 新潮社
- 価格¥760(2025/06/06 01:22時点)
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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