今回も、妻から聞いた話。

 

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8年前、高校生になりたての15歳で、初めてのアルバイトを経験しました。

とにかくお金が欲しかったのと、身近なチェーン店はダサいと思っていたのとで、 背伸びをして横浜駅のおしゃれな商業施設にある、オイスターバーで働き始めました。 オイスターの意味を知ったのは、アルバイトをし始めてからでした。

23歳になった今でもあまり寄り付かないような、大人っぽいオーシャンビューのお店でした。 とうぜんそこで働く人たちは、イケイケ大学生や人生を謳歌しているフリーターの方ばかり。 つまり、地味で人見知りで世間知らずだったわたしは、来るところを完全に間違えたのです。

 

それから3ヶ月経ち、言わずもがな馴染めないままに、わたしはお店を辞めました。 以降、いくつものアルバイトや派遣、インターンなどを経験し、現在はIT企業で働いています。

あの15歳のときに感じていた、 「仕事が分からなくてつらい」「職場に馴染めなくて寂しい」気持ちは、 8年経った今でも忘れることはありません。鮮明で、強烈で、残酷でした。

 

 

就業時間内だけが仕事だと思っていたけど、間違いだった。

小さなことで言えば、メニューを見て覚えること。 きょうの予約を確認すること。きょうのシフトを把握すること。 きょうのおすすめをシェフに聞いておくこと。

これらは、フロアに立つ前に把握しておくべきことでした。

今ではとうぜん、自社そのものに関連したり、業務に直結したりする本や記事は、 就業後の帰り道であろうが土日のネットサーフィンであろうが、目を通しています。

8年前のわたしであったら、就業時間外にそんなことをするなんて信じられない、と驚いたと思います。 しかし、「限られた就業時間をインプットに割くのはもったいない」なんて、時給で働く15歳が考えられるわけもありませんでした。

 

つまらない仕事こそ、必要だった

オイスターバーのキッチンスタッフだったので、 一番最初に任されたのは生牡蠣の殻剥きでした。

身が大きくしっかりとした隠岐の岩牡蠣もあれば、小ぶりで味わい深い厚岸の真牡蠣もありました。 まずその名前を覚えて、見分けられるようにして、身を崩さぬよう殻が入らぬよう殻を剥いていきます。 貝柱を美しく見せられるかが、非常に大切なポイントでした。

しかし何度やっても上手くいかず、怒られてばかり。 「あなたがやればいいじゃない」と喉から出そうになるくらい、 教えてくれる先輩のほうが遥かに上手で、よっぽど素早い手さばきでした。 こんなに無力に晒されることがあるのかと、辛かったことを覚えています。

でも、今考えれば至極普通なことでした。 手に職のない新人はまず、みんなが出来て当たり前のことを出来るようになること。

そうでないと、仕事は始まらなかったのです。

 

一緒にご飯を食べたい、と声をかければよかった

まかないを一緒に食べる時間も、バイトをこなすうえで必要なコミュニケーションです。

でもわたしは、恥ずかしくて恐れ多くて、一緒に食べましょうとは言えませんでした。 それぞれ仲の良い数人で固まって、まかないを食べていました。 どこへ混じることもできず、そっとひとりで食べていた牡蠣のリゾット……。

 

今で言えば、ランチの誘い合いを指していると思います。 仕事忙しいかもしれない。お腹の空き具合ちがうかもしれない。 わたしはお肉食べたいけど向こうは魚かもしれない。

先約があるかもしれない。そもそもわたしとランチ食べたくないかもしれない。 特に話題がないかもしれない。楽しくなかったら次は誘いにくくなるかもしれない。

 

そう、今だって、すごく悩みながら声をかけたりします。とはいえやっぱり新人は、一生懸命輪に入ろうとすべき、と思います。 そこにどんな、知られざる仲の良し悪しがあったとしても。

「一緒にごはんを食べて仲良くなりたいと思っています」と意思表示をすることが、 職場で何よりも大切なのだと学びました。わたしはきっと、ひとりが好きな人だと思われたのでしょう。 俯いてまかないを食べていたら、とうとう全く、誘われませんでした。

にこにこしたり、アイコンタクトとったり、お皿を洗うときに「美味しかったですね」と言ってみたり……声はかけにくかったけど、せめて誘って欲しいオーラを出していればと、悔やみます。

 

人と同じことをしてもダメ。

思えば初めて、年の離れた人とコミュニケーションを取る機会でした。 距離感をつかめておらず、悪戦苦闘したことを覚えています。

わたしと年齢が一番近かった人は、高校中退してフリーターをしているヤンキーな女性でした。 すごくはつらつとしていて、みんなにいじられ愛されていた存在でした。

でも、仕事の仕方やコミュニケーションの取り方を真似てもうまくいくとは限りませんでした。むしろ、うまくいかないことばかり。

 

今では、わたしは彼女じゃないと十分に理解ができます。

だって、わたしは彼女のようにヤンキーでもなければ、 高校を中退したわけでもタバコを吸っているわけでもなく、 年上の彼氏がいるわけでもありませんでした。キャラクターがまったく違うわけです。

 

彼女がこう言うから面白い。彼女がこうやるから面白い。背景のキャラクターに面白さがあることを、 中学校生活を通しても、わたしは知る由がありませんでした。

世の中にはたくさんの人がいて、たくさんの背景があり、 それによりコミュニケーションが様変わりすることをしりました。

 

いやなことを我慢して続ける必要はない。必ず何かは残る。

お店を辞めたあと、求人のフリーペーパーで吟味し、また新たなアルバイトを始めました。

そこで働き始めたファミレスもぜんぜん馴染めなくて、 その次のコンビニでは店長と喧嘩して辞めちゃって、 派遣のバイトもめちゃくちゃつまらなくて1回で辞めたのですが、その後ブックオフで働き始めたら、本当に仕事も楽しくて、いい職場でした。

じぶんの好きな音楽のCDが売れたら嬉しかったし、初めて手に取る漫画だらけでわくわくする日々でした。

 

8年前を振り返ると、 始めたら続けなくてはいけない、 できるまでやらなくてはいけない、 馴染むまでいなくてはいけない、そう思っていました。

でも、間違っていました。

じぶんが「違う」と思ったら、我慢せずに別の場所を探してよかったのです。

わたしは、オイスターバーを辞めたときに、 「牡蠣の剥き方とルッコラサラダの作り方しか教わらなかったな」と思っていました。 でも、そんなことはないぞと、今になって自分を励ましています。

初めての仕事に、これからの仕事すべてに関わる大切なことを教えてもらいました。

 

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(2024/4/21更新)

 

【著者プロフィール】

名前: ゆうせい 企画、執筆、編集、モデルを提供する「カンパニオ」代表。

ぱくたそでフリー素