人事評価を行う際「ポテンシャルや意欲を評価しよう」という会社が多数あった。
ポテンシャルとは潜在能力、すなわち、
「まだ現れてはいないが、いずれ開花するであろう能力」や
「一生懸命やれば伸びるだろう、と期待される能力」
のことだ。
これは要するに「やるときはやる」の言い換えである。したがって、ポテンシャルを評価する、とは
「今は結果が出せていないが、能力は高いのだから、それを加味して評価を落とすのは辞めよう」
という考え方だ。
こういった考え方は、一見すると温情もあり、長期的目線で人を育成しよう、という良い会社に見える。
だが、そう考えない人々もいる。
私が以前訪問した会社の経営者は、こんなことを言っていた。
「ポテンシャル評価とか、意欲を評価しようという会社があるじゃないですか。あれ、最悪ですよ」
「他の会社では結構行われている気がしますが……」
「やめたほうがいい、と私は思いますね。」
「なぜでしょう?」
「見込みはだいたい外れるからです。「こいつはできそうだ」と思った人が期待はずれだったり、期待をしてなかった人が努力して成果を出したり。要するに人のポテンシャルなんてものは、よくわからないし、主観的な評価になりがちです。」
「人に期待するのは悪くはないと思いますが……」
「ポテンシャルは、そんな話とは違いますね。どっちかといえば「思い込み」に近いレベルだと思います。それって公正ではないと思いませんか?」
「……」
「納得してないようですね。では、一つ質問します。「ポテンシャル高いなこの人」と感じるのはどんな時ですか?」
「……そうはっきり問われると、難しいですね。学歴、発言、ヤル気……私が聞いたところではそんな会社が多いですかね。」
「なるほど。発言や肩書、態度からポテンシャルがわかる、本当ですかね?」
私は戸惑った。
「……いえ、おそらくでたらめです。採用面接がうまくいかないのと同じですね。」
「でしょう。なので「能力はあるはず」や「ポテンシャルは高い」と言った話は、ウチでは一切、評価とは関係ないと考えています。」
「では、何を見るのですか?」
「現実に、どんな成果を出したかと、どんな行動をとったかです。これしかありません。」
なるほど、「やればできる」「意欲がある」と形容される人はそれなりの数を見てきたが、「行動してない」「成果を出していない」ではダメだということだ。
その経営者は淡々と言う。
「以前、ウチの社員で「意欲も評価してください」って言ってた人物がいました。私は一切そう言った話を聞きません。意欲なんてものは、行動と結果だけで語るものです。口ではありません。」
「厳しいですね。」
「人間は所詮、口ではなんとでも言えるんです。頑張りたい、とか前向きにやりたい、とか。なかには資格を取りたいとか、英語ができるようになりたい、って人もいます。まあ、いうのは勝手です。でも、それを評価対象にするか、といえば、それはないです。」
「なるほど。」
「もちろん期待はします。私は人に期待したい。だけれども、評価は「ポテンシャル」などという言葉に逃げてはいけません。現実を直視させなければ、人は堕落しますから。」
私は彼に質問した。
「では、御社の評価はシンプルですね。」
「行動と結果、それが評価のすべてです。なぜ、他の会社が評価基準をゴチャゴチャいじくり回しているのか、理解に苦しみますね。」
「短期的な業績だけを追い求めることにはならないですか?」
「それは短絡的ですね。目標の建て方次第だと思いますよ。長期的な目標、短期的な目標はバランスよく設定しなければダメです。」
「なるほど。」
「血も涙もない成果主義だっていう人もいました。でも、そういう奴に限って何もしていない。今は皆「客観的かつ公平で良い」と言ってくれます。もちろん、それが私の目指した世界です。」
正直、私は「冷たい人物だ」という印象が拭いきれなかった。
だが、社員の言葉は私のそれとは違った。
「失敗しても、きちんと行動していれば、次の機会には全く関係なくチャンスが与えられます」
「うちの社長は、「こいつはダメなやつだ」って言うレッテルを貼ったりすることがないので、働きやすいです」
「上司から評価される間に、自分で自分の評価はわかります。」
社員の言葉に取り繕う様子は見られなかった。社長は「行動」でそれを示しているのだろう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
・安達裕哉Facebookアカウント (安達の最新記事をフォローできます)
・編集部がつぶやくBooks&AppsTwitterアカウント
・最新記事をチェックできるBooks&Appsフェイスブックページ
・ブログが本になりました。
「仕事ができるやつ」になる最短の道
- 安達 裕哉
- 日本実業出版社
- 価格¥1,540(2025/06/09 13:50時点)
- 発売日2015/07/30
- 商品ランキング108,470位