イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)新規事業を興すことは、起業にとって不可欠の活動の一つだ。どんな商品であれ、10年も経てば陳腐化し、価格競争に曝されるようになる。

一旦価格競争に陥れば、利益の出ない事業を続けさせられる羽目となり、大きく成長することは望めない。

 

したがって、起業は新規事業、あるいは事業まで行かなくとも新製品くらいは、継続的に市場に向けて提供していけなくてはならない。

しかし、その成功率は資源が潤沢な大手企業であっても10個に1個あればいい方である。なぜ、新規事業の成功率は低いのだろうか。

 

その問に対する一定の答えとして、ハーバード大のクレイトン・クリステンセンはその著書である「イノベーションへの解」で多くの企業の調査結果からこう述べる。

 

「刺激的な成長事業に乗り出そうと奮闘する起業にとっての根本的な問題が、優れたアイデアの不足であることは殆ど無い。問題は、アイデアが形成されるプロセスにある。革新的な可能性を秘めた新しいアイデアでさえ、既存顧客を一層満足させるための計画に容赦なく作り替えられてしまう。」

 

わかりやすく言えば、「経営者や中間管理職が、既存の顧客を満足させようと頑張るあまり、革新的なアイデアを潰す」ということだ。

 

クリステンセンによれば、破壊的イノベーションは、既存の大手企業が「できればあまり付き合いたくない」と思っていた顧客を拾うことから始まる。利益率も低く、トラブルを起こしやすく、そして、商品リテラシーも低い層だ。

したがって、組織の中では、「そんな儲からない客は捨ててしまえ、もっと利幅を大きく取れる、上位層の顧客に集中するんだ」と号令がかかり、ビジネスのアイデアはそのように作り変えられる。

 

しかし、実際には「できればあまり付き合いたくない」層にたいして、圧倒的なローコストオペレーションを確立して望めば、大手企業が「付き合いたくない」と思っていた顧客のみならず、今までその商品を使うことを考えてすらいなかった新しい市場を作ることができる。

そして、そういった新しい市場は、往々にして既存の市場に比べ極めて大きい。

 

そして、破壊的イノベーションを持ち込んだ会社は、そこで獲得した圧倒的なローコストオペレーションと、新たに得た大きな市場を元に、上位企業に戦いを挑む。

かくして古い大手企業は衰退し、破壊的イノベーションを持ち込んだ新興企業が勝利する、という訳だ。

 

 

従って、経営者や管理職は、自社内で生み出されたイノベーションの種に関して、次の質問をしなければいけない。

 

・これまでカネや道具、スキルがないという理由で、これを全く行わずにいたか、専門家に料金を支払ってやってもらった人が大勢いるか?

(潜在的マーケットサイズ)

・顧客は、この製品やサービスを利用するために不便な場所にあるセンターに行かなければならないか?

(現状の製品の不便さ)

・市場のローエンドには、価格が低ければ、性能面で劣る(が十分良い)製品でも喜んで購入する顧客がいるか?

(価格への圧力)

・ローエンドの「過保護にされた」顧客を勝ち取るために必要な低価格でも、魅力的な利益を得られるようなビジネスモデルを構築できるか?

(コスト構造)

 

AmazonのCEOである、ジェフ・ベゾスはこの理論を説明した「イノベーションへの解」という本を、従業員に向けて「必ず読ませる3冊の本」の1冊としたという。

憶えておいて損はないのではないだろうか。

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)