誰かに仕事を依頼するのが苦手な人は結構いる。
マネジャーになったにも関わらず「自分でやったほうが早い」と手を動かしてしまう人も数多くいるが、それではマズい。
当然のことながら、相手にこちらの依頼を確実に遂行してもらうスキルは、必須であるとともにマネジメントの要諦でもある。
だが「こちらの依頼を確実に実行させる」と一口に言っても、その実践はそれほど簡単ではない。例えば、簡単な打ち込み作業を、あなたがアシスタントにお願いするとしよう。
「こちらの営業資料のデータを、急ぎ、エクセルに打ち込んでほしいんだけど」
アシスタントの方は言う。
「今日は結構忙しいんですが……」
「夕方までになんとか!」
「わかりました。」
しばらく後に様子を見ると、期待通り打ち込まれている……と思いきや、少し見ていくとなんかデータがおかしい。
「ここ、間違ってますよ」と指摘すると、「あ、すみません」と直してくれた。
だが、あなたは少し不安だった。もう数箇所、データを細かく見ていくと、他の部分も少しずつミスがある。
おいおい……、ミスだらけじゃないか……。
と、あなたはつぶやいて、アシスタントの人を呼ぶ。
「これ、他の場所にも結構ミスがあるんだけど、きちんとチェックした?」
「いえ、急ぎだとうかがったので、ひとまず打ち込みました。ミスが多少あるかもしれません。」
「かもしれません、じゃないよ。これって大事な営業のデータだよ。間違っちゃ困るんだよ。」
アシスタントの方はムスッとしている。
「わかりました。もう少しお時間をいただけますか。」
あなたは疲れてつぶやく
「こんなの、言わなくてもわかるだろうに……。」
さて、何が悪かったのだろうか。
もちろん、アシスタントの責任にすることもできる。「仕事への取り組みの姿勢がダメなのだ」と糾弾することもできよう。
だがこのアシスタントの責任にしても、同じようなことが再発する可能性はある。
実際、あなたが本当に得たいのは、「だれの責任かを特定する」ことではなく、「同じミスを起こさないこと」ではないだろうか。
そう考えていくと、これは「頼み方」がマズいという結論に達する。つまり、悪いのは発注者であるあなただ。
発注者の頼み方が変わらない限り、また同じことが起きる。このアシスタントが起こさなかったとしても、人が変わればまた起きる。
もちろん
「いやいや、どう考えてもミスをしたアシスタントが悪いだろう」という方も多いと思う。
それは理解する。
だが、たとえこのアシスタントがミス無く仕事をしていたとしても、先ほどの
「打ち込んでほしいんだけど」
という依頼は、ある意味「最低の依頼の方法」と言える。
なぜなら「仕事の品質管理水準」を相手に委ねていることになるからだ。実は「品質管理を相手に委ねる」のは、最悪の依頼の方法なのだ。
私は新米だったころ、コンサルタントの上司からこう習った。
「コンサルの現場ではお客さんに宿題を出すだろう。」
「はい。」
「例えば、営業の業務フローを作って欲しいとき、お前ならどうやって宿題を投げる」
「ええと……ぎ、業務フローを作って欲しいんですが、お願いできますか? でしょうか……。」
「ああ?そんなんでお客さんがキチンと作ってくると思ってるのか。」
「す、すみません。」
「依頼というものは、どの水準のものを作って欲しいのか、きちんと確認をしなければ、絶対にきちんとしたものは挙がってこない。」
「はい。」
「フローを作るときは、どの形式で作るか、どの粒度で作るか、どの範囲で作るか、そういったことを細かく定めないと、めちゃくちゃになるぞ。依頼前に、フォーマットをきちんと協議するんだ。」
品質管理を相手に委ねてしまう依頼の仕方は、たとえどんな水準のものが上がってきたとしても文句は言えない。それは「発注者がサボっているだけ」なのだ。
ただ、勘違いしないでいただきたいのは、「品質の水準」は相手に示すが、「品質の管理方法」は相手に任せても良いということだ。
管理方法まであれこれ指示をすると、箸の上げ下ろしまで細かく指示をすることになり、かえって効率が落ちる。
よって、先ほどの依頼であれば、このように頼むのが望ましい。
「営業の分析用の資料を、急いで作って欲しい。明日の夕方に使うから急ぎで。精緻に分析をする資料だから、ミスが絶対にないようにお願いしたい。」
「わかりました。」
「ミスをなくすために、どうするかイメージ湧く?」
「はい、前にもやりましたから。表のレイアウトはこの資料と同じでもいいですか?違うとチェックしにくくなるので。あと、私ともう一人で、ダブルチェックをかけたほうがいいですか?」
「うん、そうして欲しい。」
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プロジェクトマネジメントにおける世界標準規格「PMBOK」において「プロジェクト品質マネジメント」の項目の一節には、最新の品質マネジメント手法では、以下に示す点が重要であると述べている。
検査よりも予防
品質とは計画され、設計され、プロジェクトのマネジメントやプロジェクトの成果物に組み込まれるものであり、検査によって実現されるものではない。
トヨタ自動車は「品質は上流工程である設計で作り込む。検査では品質は向上しない」というコンセプトをもち、設計を品質管理の要とする。
そう考えれば、上がってきた成果品に対して、作業者であるアシスタントにガミガミ言ったとしても、品質はほとんど向上しないことがよく分かるだろう。
依頼における品質管理は、最初の段階で「どの程度のものがほしい」をきっちり明確に示すことが肝心なのだ。
適当に依頼しておいて、「こうじゃないんだよなぁ〜」とか言ってしまう管理職は、品質管理の初歩から、勉強し直したほうが良いだろう。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第4回テーマ 地方創生×教育
2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)
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