営業スマイルが嫌いだ。
「ああ、この人は今営業スマイルをしているな」とはっきり感じる時の不快感は言葉にならない。
笑顔なのに笑顔に見えない。少し気持ち悪いとさえ思う。「もう笑わないで」と心の中で強く念じるが、念じても伝わらないのが残念である。
この不快感について知人に話したところ、「そんなに不快に思わなくても……」と言われてしまった。
「確かに不自然だと思う時はあるけれど、あなたが言うほど不快ではない。むしろ頑張っていることが伝わってきて応援したくなることもある」とのこと。
営業スマイルをプラスに受け取る人もいるのか、と心底驚いた。
とはいえ不快感は時間がたてば消えていく。冷静になって考えてみると、かなり失礼な感情だったと思う。
営業スマイルをしていたように見えたあの人は、もしかしたら自然に笑っていたのかもしれない。
自然な笑いを私が勝手に作り笑いだと決めつけてしまっただけかもしれない。
相手の笑顔を作り笑いだと決めつけた上に気持ち悪いだなんて、失礼この上ない。
要は受け止め方の問題だ。逆に私が自然な笑いだと受け取っていた笑顔の中には、営業スマイルも数多くあったことだろう。
実際にどうであるかは関係なく、見る側の受け止め方が全てであり、見る側は勝手に不快に感じたり心地よく感じたりする。
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自然/不自然の話でよく出てくるのが整形の話である。
自分がしたいかしたくないかはさておき、自分とは全く関係のない他人の整形に対しても賛否両論ある。そして否定的な意見の一つとして「不自然さ」が挙がってくる。
人工的な顔に違和感を覚える人が多数いることは充分理解できる。それは整形する人もわかっているはずである。それでも整形したいと思う人はいるし、実際に整形する人もいる。
そして整形する理由が自己満足だけだということはまずないだろう。自己満足ももちろんあるだろうが、やはり他者からの目線はかなり意識しているはずだ。
多少不自然であったとしても、綺麗さが求められているから整形する。整形することによるメリットがあるから整形するのだ。
営業スマイルも、整形に通じる部分がある。整形ほど意図的にするものではないにしろ、笑顔が求められているから笑う。笑顔がメリットをもたらすから笑うのである。
こう考えると、「不自然だから/不快だから辞めて」というのはかなり身勝手な発言だと思えてくる。綺麗さが求められる世の中だが、生まれつきの顔は選べない。笑顔での接客が求められる世の中だが、誰もが自然に笑顔になれるわけではない。
「不自然だから整形しないでよ」
「でも整形しなかったらこの不細工な顔だよ?」
「・・・・・・」
「どっちがいい?」
こう聞かれて、自分ならどちらを選ぶのだろう。
「不自然だから営業スマイルは辞めてよ」
「でも笑わなかったらこの仏頂面だよ?」
「・・・・・・」
「どっちがいい?」
こう聞かれて、自分ならどちらを選ぶのだろう。
自問自答する。すぐに答えは出ない。すぐに答えが出ないこと自体が答えなのかもしれない。
「不自然だから/不快だから辞めてよ」と相手に求めるのであれば、まずはこちら側が相手に綺麗な顔や笑顔での接客を求めるのを辞めるところから始めなければならないのではないか。
それらを求めるということは、整形や営業スマイルを求めているようなものだと自覚するべきではないか。というのは言い過ぎだとしても、少なくともこちら側が求めていること自体が誰かの整形や営業スマイルの一因になっていることは間違いない。
綺麗な顔になるために努力できることは整形以外にもある。笑顔で接客するために努力できることは営業スマイル以外にもある。
だから営業スマイルに不快感を覚えた自分が悪いとは思わないし、そもそも不快感は自分でなかなかコントロールすることができず、自然に感じてしまうものだから仕方のないことだと思っているけれど、ただ1つ言えるのは、自分の器の小ささを実感したということである。
ではまた!
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(2024/3/26更新)
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[プロフィール]
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
著書「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)
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