人はだれでも、スランプに陥る。
売れない、書けない、話せない……
今まで悩むこと無くスラスラできていたことが、急にできなくなる。
それがスランプだ。
できればスランプは避けたい、好調を維持したい、と思う方も多いだろう。
しかし、本当にそれで良いのだろうか。
*****
少し前、スランプ中のイチローに対するインタビューを見た。クールだが快活なイチローの表情は暗く、噛みしめるようにぽつりぽつりと話す、イチローらしからぬその姿に驚いた。
インタビューアーは、「今の感触は?」と聴く。
イチローは答える。
「感触は……かなり行けるだろうな、と思ってます。結果と感触は全くちがう。ただ、紙一重の所でずっと、結果が出ない。」
インタビューアーは聴く。
「どういうことでしょう?」
すると、イチローは、去年は逆に打てないはずなのに、打てているのがおかしい、と思っていた、と答える。
「逆に今は、あと少し、という感覚。もちろん打てていないので、少しずれているはず。そこに何かがあるはず。それが何なのか、見つけづらい……。」
*****
禅問答のようだが、イチローの言うことは本質を突いている。
スランプとは何なのか。個人的には
「なんとなく感覚でできていたことを、理詰めで捉えて再現可能にしようとする過程で発生する、停滞の状態」
と定義している。
わかりにくいと思うので、「ブログを書くこと」で例えてみる。
Mさんは「発信が大事だ」という知人からのアドバイスに従い、ブログを書き始めた。
当初彼は「とにかく毎日書けば良い」というアドバイスのもとにどんどん突き進み、1ヶ月ほど連続して更新することができた。
周りでもたまに
「読んだよ」
というコメントをもらい、Mさんは「ああ、ブログって面白いな」と思っている。
そしてついに、Mさんの記事が大きく読まれることになった。インフルエンサーの一人がMさんの記事を取り上げ、ブログへのアクセスが急増したのだ。
それまで1日のアクセスはせいぜい数百だったものが、突如として1万、2万というアクセスになった。
彼は有頂天だ。
「ついに自分もブロガーとして認知されるようになった」
と少なからず自負も生まれた。
ところが、ブログへのコメントを見ると肯定的な意見だけではない。
「つまんね」
「こいつ何いってんの?」
「ゴミ記事」
など、傷つくコメントもついている。知人に相談すると「あー、よくあることだから気にしなきゃいいよ」と言われるが、気にするな、というのも難しい。
Mさんは「もっと面白いものを書かなきゃダメだ」と、意気込む。
そこで彼は勉強を始めた。「ブログの書き方」に関する本やサイトを読み漁り、ブログの勉強会にも足を運び、あるべき姿を模索する。
ところがその後すぐ……
突如としてMさんは記事が書けなくなる。
書きたいテーマはある。だが、言葉にならない。どうしても書けない。何を書いても、平凡でつまらないものに見える。
1ヶ月連続更新できた頃の自分が、どうやって記事を書いていたのか、もう思い出せない。
*****
ジブリの名作アニメ「魔女の宅急便」では、主人公であるキキの「飛べなくなる」というスランプが描かれている。
飛べなくなったキキは友達の画家に、「飛べなくなった」と悩みを打ち明ける。そんなキキに、画家は言う。
「魔法も絵も似てるんだね。私も よく描けなくなるよ」
「ほんと? そういう時 どうするの?私、前は何も考えなくても飛べたの。でも 今は分からなくなっちゃった。」
「そういう時はジタバタするしかないよ、描いて 描いて 描きまくる」
「でも やっぱり飛べなかったら?」
「描くのをやめる」
「散歩したり、景色を見たり、昼寝したり……何もしない。そのうちに急に描きたくなるんだよ」
「なるかしら……」
「なるさ、さあホラ、横むいて!——私 キキくらいの時に、絵描きになろうって決めたの。絵描くの楽しくてさ、寝るのが惜しいくらいだったんだよ。それがね、全然 描けなくなっちゃった。描いても気に入らないの。それまでがマネだって分かった。どこかで見たことがあるって、自分の絵を描かなきゃって……。」
「苦しかった?」
「それは今も同じ。でも絵を描くってこと、分かったみたい。」
新しい技能、コンセプトにふれ、自分の目が肥えてくると、今まで作っていたものよりも一段上のものが見えるようになる。
だが、技術は追いついていないので、それを現実に手を動かして作ろうとすると、ギャップが生まれ、手が止まる。
これがスランプの正体だ。
イチローも、Mさんも、画家も同様である。
そんな時は、彼らのように「ジタバタする」しかない。ひたすらアウトプットを繰り返し、自分のイメージと、自分の技術とを少しずつすりあわせていく。
そう言う意味では、スランプこそ、新しいステージへの関門なのだ。新しい世界が見えたからこそ、スランプになっているのだから。
一流になるために、
「努力」
「根性」
「継続」
が必要とされる所以が、ここにある。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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