子供は言うことを聞かない。
いや、聞かない、というと不正確かもしれない。正確に言えば、おそらく耳には聞こえているのだろうが、言ったことをこちらの望むタイミングではやらない、と言うべきか。
なぜ子供は言うことを聞かないのか、正月、久々に子供と遊ぶ時間が長かったので、ずっと子供を観察していた。
すると、彼らはいくつかの理由でこちらの要求を後回し、あるいは無視する。
1.今、別のことの優先度が高い。
2.嫌いなこと・面倒なことである。
3.やり方がわからない。
詳しく見ていく。
1.今、別のことの優先度が高い。
ほかの事に夢中になっていると、ほぼ100%、子供は言うことを聞かない。
レゴで遊んでいる最中に、「本を片付けろ」と言ってもまずレゴを辞めることはないし、人形遊びに夢中の時に「ご飯なので手を洗え」と言っても「わかってる」と言って、そのままである。
かと言って、「本の片付け」や「手洗い」を子供が嫌っているのかと言えば、そうでもない。他にやることがなければ、素直にやるときもある。
ここからわかるように「優先度を切り替える」という行為は、子供にとってはそれなりに難しい行為なのだ。
そこで、優先度を切り替えてもらう工夫が必要となる。
まず、最も労力がかからないのは「言って、放置する」である。「本を片付けろ」と言って、すぐに片付けなくても放置する。子供がレゴに飽きて次のことを始めようとした時に、「本を片付けてからしなさい」と言うと、存外、すぐにやる。
人形遊びも同じで、「ご飯なので手を洗いなさい」と言って放置する。食卓に皆が着いていると子供も食卓に来るが、「手を洗ってから」と言うと、素直に1回で洗いに行く。
これを見て分かる通り、子供には「優先度の切り替えに適したタイミング」と言うものがあり、多少時間はかかったとしても「子供を待つ」ことで解決できることは多い。
次に有効なのは「こちらの希望を伝える」ことだ。
「お父さんは本を片付けて欲しい」と、子供の目を見て頼む。この場合、すぐにやってくれることもあるが、大抵は「何でー?」と聞かれる。この「何で」にきちんと向き合うことで、解決できることも多い。
そこで「きれいな家が好き」や「片付けをきちんとできる子供が好き」とこちらの気持ちを伝える。注意点は「やるのが当然だから」というあるべき論で言わない点である。
「あるべき論」は子供に対して説得力を持たない。常識が大人と子供では異なるからである。だからここで重要なのはむしろ「好き嫌い」の話だ。
そしてここでは親に対する信頼が問われていると言っても良い。「この人のためなら」という気持ちは子供も持っているものだ。普段から一緒に過ごしている時間が多ければ、素直に聞いてくれるときもある。逆に、子供に大して時間を使っていないのに「このときだけ親のために何かせよ」と言っても聞いてくれるわけがない。
ここまで書いてきたように、基本的に「子供にとって優先度を切り替えること」は非常に時間がかかる。
「待ち」も「説明」も、即効性を期待できるものではない。
だから、一番の問題は「緊急性が高い」ものである。「直ぐにやらなければならないこと」については大抵の場合、大きな声を出したり、夢中になっているものを取り上げてしまうことがよくある。
だが、強引に優先度を切り替えさせても、子供は泣きわめくし「お父さん嫌い」となって信頼を失う。したがって、これは「事後の説明」が重要になる。
「なぜ強引に辞めさせたのか」を説明できなければ、子供は親に対して徐々に不信感を持つようになる。
したがって、強引に事を進める場合は「命の危険」や「社会的に絶対に許されないこと」について適用されることが望ましい。
以上を見て分かる通り「優先度の切り替え」は常に忍耐を伴う。
強引にやらせることは可能だが、それは「信頼」との引き換えであることを忘れてはならない。
2.嫌いなこと・面倒なことである。
子供は嫌いなことは絶対にやらない。泣いてもやらないことがほとんどである。この場合「強引にやらせた」としても、習慣が定着せず、形だけの実行になり、時間の無駄になりがちだ。
例えば「ひらがな」の勉強をさせようとして、書き取りなどをやらせたとする。だがこれらは単なる「反復作業」であり、面白くもなんともないものである。
したがって子供はやらない。泣きながらやっても、使った時間の割には身につくものは少ない。
ここで必要なのはもちろん「面白くもない作業に対する意欲を作り出すこと」である。
例えば本を読んであげる。すると自分でも本を読みたくなって、「ひらがな」が読めるようになりたくなる。
あるいはサンタに手紙を書くとプレゼントが届くことを伝える。手紙を書くためにはひらがなが書けなくてはならない事を伝える。するとひらがなが書けるようになりたくなる。
こんな具合である。
だが、前項と同じくこれもひたすら時間がかかる。
だが人間はロボットではない。プログラムすればすぐに反応する、という存在ではない。
長い目で見れば、必要なのは「勉強する」という行為を強制することではない。それは多くの場合逆効果となる。そうではなく親が「勉強は面白い」という体験を作り出すことが重要なのだ。これは長期的に見て意味がある。
したがって、「嫌いなことに対する意欲」というのは、環境に対する工夫と、親の「知恵を絞る」という忍耐・情熱の複合的な産物であり、こちらも「即効性」を期待できないものである。
3.やり方がわからない
さて、子供が「優先度も切り替えて」「意欲もある」のに、止まってしまうことがある。
それは「やり方がわからない」ときだ。
例えば「おもちゃを片付けなさい」と言っても、子供が戸惑ってしまい、何もできないことが多々見受けられた。
「結果」は見えており、やらなければならないことも知っているのに、体が動かない状態は、大抵の場合「やり方がわからない」ことに原因がある。
この場合、最も効果的なのは「一緒にやってあげる」である。
叱りつけるだけでは逆に子供が萎縮してしまい、かえって何もできない子供になってしまう。必要なのは「一緒にやろうか?」という声掛けである。
この「一緒にやろうか?」という声掛けは魔法のように効く言葉で、こどもは一気に行動的になることも多い。
「じゃあ、まずは散らばっている本から一緒に片付けよう」
「つぎは、散らばっているおもちゃを、おもちゃ箱に入れよう」
「次は、ゴミを拾ってゴミ箱に入れよう」
という片付けのプロトコルを共有して、一緒に動くだけでもかなり能率が上がる。
いろいろなことがごちゃまぜになって、散らばっている状態ではなく、整理して「ここからやると良い」と親が自らの身を持って示すことで、子供はできることが増えていく。
強制的に「子供に言うことを聞かせる」のは実際には信頼感という代償を伴う。
子供も人である。
つまり、「人にやってほしいことを依頼する」のと、何らやるべきことに変わりはない。
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