先日、久しぶりに昔の職場の同僚と会って話をした。
そして、今もその人は同じような仕事、つまり企業向けのコンサルタントをしている。
コンサルタントは一般的に「論理的思考」の素養が重要であると見られるケースが多いだろう。
これはマッキンゼーなどの名を関した本のテーマが「ロジカルシンキング」などに偏っているケースが多いからかもしれない。
しかし、現実には現場で最も要求されるのは「相手に行動してもらうスキル」である。
御存知の通り、多くの人は論理では説得されにくい。なぜなら論理による説得は多くの場合、当事者が「ねじ伏せられた」と感じるからだ。
論理はあくまで補助であり、実際には「あなたの言うことだからやってみよう」という、感情よりの意思決定をする人が圧倒的多数である。
したがって「相手に行動してもらうスキル」に長けていなければ、コンサルタントとしての成功はない。
それに卓越していたのが、その人だった。
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私はその人について、「コンサルティング会社をやめた」と他の方から聞いていたので、仕事について尋ねた。
「まだコンサルタントをやってたんですね。」
「仕事が好きなんです。」と、その人は言った。「そういえば、色んな人と仕事をして思ったんですけど。記事のネタになるかと思いまして。
「何ですか?」
「行動できなくて困っている人に声かけるとき、いちばん大事なのは何か、ってことなんですけど。」
「はい。」
「普通は、困っている人がいたら「なんとか解決してあげたい」って、思いますよね。で、アドバイスを色々とする。でも、それって多分間違ってるんですよ。アドバイスしても相手は動きません。」
「アドバイスは意味がない?。」
その人は言った。
「誰かに相談をした時、ピタリとハマる解決策をもらった記憶ってありますか? 多分、ほとんどの人は無いと思います。アドバイスって、相手に届かないんですよ。」
確かに、「ぴったり来るアドバイス」が提供されるというのは、珍しいかもしれない。
例えば「上司と意見の食い違いが多くて困っている」という相談をしたら、「飲みに誘ったらいいんだよ」というアドバイスを貰った人は結構多いのではないだろうか。
そしておそらく「それで解決するなら、誰も苦労しないよ」と思ったことだろう。
アドバイスは「正解」であったとしても、それを本人がやれるかどうかは別の問題だからだ。
「テレアポのやり方がわからない」という相談は、実際にはテレアポのやり方を聞いているわけではない。テレアポのやり方は隣の人を見ればわかるし、本にもインターネットにもある。
テレアポができないのは、電話を怖がっているからである。
「起業のやり方がわからない」という相談も、実際には起業のやり方を聞いているわけではない。
心のなかでは「うまくいくかどうかなんて、誰にもわからない」ことは本人だってわかっている。起業ができないのは、起業を怖がっているからだ。
実際、多くの起業セミナー講師はこれを熟知している。
したがって「やり方」を淡々と解説するものより参加者が欲しがる「勇気」を与えるものの方が好まれる。(だからこそ、中身はないけれど、意識を鼓舞するだけのような怪しいセミナーも多い。)
だから、多くの場合の相談は本当は「やり方」を聞かれているわけではない。他者のアドバイスの本質は「こうやればいいじゃない」である。
だが、「こうやればいいじゃない」が怖いから、本人は悩む。だから、結局アドバイスは役に立たない。
相談を受けている時、真に必要なのは、相手の「恐怖」を取り除いてあげることである。
私は彼女に言った。
「なるほど。でも、それが正しいならどうしたら良いんですか?アドバイスしても、それをやれない人がほとんど、と言うのはそのとおりだと思いますけど。」
「困ってる人がいたら、状況を聞くだけで十分なんです。実は。話し相手がいるだけで、悩みなんてほとんど自己解決するんですよ。要するに相手に「壁打ち」してもらえればいいんです。」
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そういえば、こんな話を聞いたことがある。
「解決策を考えている」と言っても、殆どの人は考えているわけではなく、「なんとなく悩んで」いるだけだと。
悩んでも「行動できない」は克服できない。
行動するためには「私は今、◯◯をしなければならない」と行動すべきことを自分で言語化し、恐怖を克服して決意をしなければならないのである。
そして、そのために良い方法の1つが、「悩み」という曖昧なものを、誰かに話すことであろう。
正体の見えない「悩み」は怖いが、他者にそれを話すことで悩みが明るみに出て、やるべきことがはっきりする。
そうすれば「行動」につながる。
そう考えれば「人から相談を受けたら、状況を聞くだけで十分」と言うのは、彼女の言うとおり、真理なのだろう。
(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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