こんにちは、ビルマテル株式会社、取締役の白井 龍史郎と申します。

弊社はアイデアやデザインなどの知的財産を権利化し、商品化する、いわゆる知財を基にした事業をしております。

前回は、熱中症を予防する、涼しい「穴あき」のヘルメットを製作し、特許を取得するに至った経緯をお話しました。

「160万個以上売れたヘルメット」の特許を持つ会社の話。

 

そこには、特許に繋がる2つのアイデアがありました。

◯通気性を良くするため、ヘルメットに穴を開けるための二層構造

◯頭にヘルメットをしっかり固定するアジャスター

そしてこの2つの特許が、世界でも珍しい「熱中症を予防するスポーツ用の帽子につながりました。

 

それが、Airpeakというスポーツキャップです。

このスポーツ用の帽子は、「熱中症に効果のあるスポーツキャップ」として、2017年世界トライアスロンシリーズ横浜大会の公式CAPに採用されています。また、U13.U15.U18のニュージーランド野球代表やモトクロス日本代表も協賛させて頂いており、現在私たちのBtoCビジネスの中心となりつつあります。

 

では、どのようにこの製品を開発したか。

今回はそんな話をしたいと思います。

 

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5年ほど前のことです。

「穴の開いたヘルメット」で一応の成功を収めた我々は、次の新製品開発を開始する必要がありました。

いくら特許で保護されていると言えど、その権利は永遠ではありません。また、もっと大きな市場に進出したい、という強い思いもありました。

 

ただ、我々にはBtoCビジネスの経験はありませんし、独自の消費者向けブランドを持っているわけでもありません。

 

そこで考えた末、まずは「我々の特許が、他の製品に生かせそうなこと」を探すことにしました。

ここに、5年に渡る長い製品開発の旅が始まったのです。

 

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まず、「使えそうだ」という判断を下したのは、ヘルメッシュの時に重要な特許となった、後頭部のアジャスター部分です。

アジャスターには夢がある(と思います)、それを帽子につけてみたらどうだろう。

つけてみました。

……

………

何かちがいます。

 

そもそも帽子はファッションアイテムなため、プラスチックの剥きだした見た目はあまり良くありません。

じゃ、アジャスターを隠したらどうでしょう。

うーむ……

……

……

どうでしょう。

 

なんとか売れるかもしれません。

ということで、思い立ったが吉日です。実はこれ、神戸の某大手スポーツメーカーに持っていきました。

 

担当者の方、とても丁寧に対応していただきました。

……が、やんわりとお断りをいただきました。

 

そうですよね。

やっぱり、大人の帽子にはあまり、アジャスターは要らないんです。また、プラスチックがゴツゴツして、かぶり心地もあまり良くありません。

そこで一旦、我々は帽子については、アジャスターから離れることにしました。

 

なお、余談ですが、諦めの悪さが弊社の強みです。「靴ひも」や「時計のバックル」、更には「パワードスーツ用アジャスター」として、アジャスターを使えないかどうか、現在も下のような試作品をつぎつぎに作っています。

結局、製品開発は諦めずに試作品を作り続けることが大事だと、私は思います。

(ご興味ある方は、ご連絡をください!)

 

 

話を帽子に戻しましょう。

そこで、もう一回原点に戻って、そもそも我々が最初に成功した「ヘルメット」は

頭を冷やすことが発想の原点であることに立ち返りました。

 

すなわち、「頭を冷やして、熱中症を予防する機能」を帽子に持たせることです。

頭を冷やすには、額に風を当てる必要があります。

つまり、帽子の額に「窓」をつければ良いのでは?

それが、こちらです。

………

うーむ、まあ試作品ですから、完成度が低いのはご愛嬌です。

なんとか、精度が上がれば売れるかな?

 

 

……でも、実はこれ、大失敗でした。

 

まず、技術上の問題がありました。このパーツを帽子に縫い合わせることが非常に困難なのです。

浅草橋の帽子作りの工房を数十軒回りましたが、「布」と「プラスチック」を縫い合わせると耐久性に問題が起きやすく、どこからもいい回答を得られませんでした。

また、あとで考えれば当たり前なのですが、本質的には額だけに風を取り入れる窓を作っても、風が抜ける道がないため、全く涼しくないのです。

 

ここにおいて、きちんとした製品を作るには、生産上の課題と、風の通り道の課題、この2つの問題を同時に解決する必要がありました。

 

そこで我々は

「プラスチックと布を縫い合わせるのが難しければ、帽子のパーツの殆どを、プラスチックで成形してしまおう。」

「帽子の前面に、風を取り入れる穴を開け、額と帽子の間に空間を作って涼しく感じるようにしよう。」

と考えました。

つくりました。

このサンバイザー型の試作品を帽子屋さんにもっていったところ、

怒られました。

 

帽子屋さんから言われたのは、立体的なものは、帽子として作れない、という趣旨のことでした。

「帽子は、使うときには立体的に被るけど、作るときには平たく潰して、ミシンをかけて作るんだ。平面にできるような柔らかい素材じゃないと、帽子には向かないよ。」

なるほどです。

つまり、帽子をミシンで縫っていく過程では、帽子はぺしゃんこになっているのです。

 

そんなことも知らないで帽子を作るなって話かもしれないですが、我々は大真面目でした。

そして、その帽子職人の方は、言いました。

「既存の帽子は、中に芯材が入っている。それと同じ形で作ってくれれば、縫製できる。」

 

我々は芯材のことすら知らなかったのです。

ですが、帽子職人の方々は通いつめた我々に、親切にも教えてくれたのでした。

 

その後、我々はやわらかく、芯材の形に加工できる素材を探しました。

 

下が、東急ハンズで買ったり、色々と取り寄せた素材の候補です。

(我々の素材探しは東急ハンズから始まります。)

また、芯材に対応するためにはサンバイザー型とは全く違うデザインを考えなければいけませんでした。

素人だった私達は東急ハンズに粘土を買いに行き、芯材として使えるデザインを試行錯誤します。

つくりました。

 

元特許庁の意匠部門の方とお会いする機会があり、「これは特許権ではなく意匠権で守るべきである。」というアドバイスを頂きました。海外と知的財産権で渡り合う為には従来の特許では弱いと考えていましたが、意匠権で弱い部分を補うこともできるようになりました。

粘土で作ったツバ芯デザインをもとに、サンプルを発注しました。

届きました。

これを帽子職人にお持ちしたところ、嬉しいことに初めて

「可能性がある」

と言われました。

そして、ついにプロトタイプが完成しました。

こちらです。

まだ理想の形とは言えませんが、やっと帽子になったのです。

風が帽子の中に流れ込む新しい帽子ができたのです。

 

更に、Airpeakを一緒に作っていた帽子職人さんが、Airpeakのコンセプトに合った「サイドを二層構造とし、風が横からも流れ込む」という特長を持った帽子のデザインを考えてくれていました。

ただ、二層構造はヘルメットではスタンダードになりましたが、帽子業界では異端でした。

そのような背景もあり、職人の方々にはなかなか受け入れてもらえなかったのですが、ここまで来て、逆に私達のために試行錯誤を繰り返してくれていたのです

それがこれです。

開発開始からここまで、すでに約5年の月日がかかっていました。

そしてついに、最後の「販売」にこぎつけます。

私達は実際にお客さんの反応を確かめたいと思い展示会に出る事にしました。

 

それが

アメリカのオーランドで開催される世界最大のゴルフ展示会であるPGA(米国プロゴルフ協会)の展示会です。

新ブランドで、しかも商品は帽子だけです。このような企業は他に出展していません。周りの方々からは「やめた方が良い。」とたくさんの助言を頂きましたが、思いきって出展しました。

結果は惨敗でした。

……。

 

 

しかし、学ぶことは数多くありました。

本質的にはお客様の反応は悪くはなかったのですが、2つの問題点が浮き彫りになったのです。

◯本当に風が抜けていくのか。「頭を冷やす」という効果は、数値的に実証されているのか。

◯ツバが硬すぎる

の2点です。

 

効果検証に関しては私たちで施設を借りて行っていましたが、まだ信頼性と言う点で実力不足でした。

ツバが硬すぎる問題に関しても、さらに検討しなければいけません。

 

ただし、コンセプト自体は間違っていないとの確信を得たことも事実です。

展示会参加後、さっそくこれらの問題を解決するために、新たな試行錯誤が始まりました。それは、Airpeakの正式な製品化に繋がる最大で最後の壁となったのでした。

 

To be continued……

Airpeak販売サイト

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