コンサルタントをしていた頃、仕事の一つに、「ヒアリング」があった。組織で働いている人に聞き取りを行い、その企業と業務をより深く理解するために行うものだ。
もう15年以上にわたり、何百、何千という人へこの「ヒアリング」を行ってきた。
そして先日、この「ヒアリング」に関して、ある方から
「コンサルタントは、ヒアリングをなんのためにやっているのか?」
と聞かれた。
別に隠すほどのものでもないので、「業務、人間関係、文化の理解」「課題の発見」など、一般的なことを答えたが、
「本当にそれだけか」と改めて問われた。
どうやら、会社にコンサルタントが入ったらしく、色々と聞かれるとのこと。
意図がわからないので、どこまで正直に答えてよいのかわからないらしい。
「そのコンサルタントが同じ考え方でヒアリングしているかは、わからないよ」
とお伝えしたが、「それでもいい、参考に」というので、少し話をした。
実は、あまり表に出ないが、ヒアリングの目的は上に挙げたことだけではない。
例えば、その他の目的の一つが、「個人のバイアスの強さの判定」だった。
このようにお伝えすると、さらに
「嘘をつく人がだれなのかが知りたいってこと?」
と聞かれた。
「ちがいますよ。ウソをつく人は少ないです。」
と答える。
誤解のないように言っておくと、意図して嘘をつく人はほとんどいない。
大半のひとは善良である。
そうではなく、繰り返しになるが、見ているのは「個人ごとの、バイアスの強さ」である。
もっと単純にいえば、「思い込みの方向性と度合い」を見ている。
実際、現場で人から聞くことのできる話は、様々な思い込みのため「事実」が非常に見えにくい。
人の言ったことをそのまま信じるわけには行かないのである。
例えば、
・Oさんが「課題」といっても、実際は部署の成果にとって全く課題ではないケースも多々ある
・Tさんは部長から低い評価を受けているので、Tさんの部長に対しての評価も妥当な線より低くなる
・Hさんが「お客さんのクレームが多い」と言っていても、彼が完璧主義であり、実際にはクレームは十分少ない、と言えることもある
・Uさんが「部署の雰囲気が悪い」と言っていても、実はUさんがコミュニケーション下手なだけであることもある
このように、善良であるからと言って、その人の言うことが事実かといえば、これは全く別の問題なのだ。
たとえば、こんな話があった。
あるコンサルタントが「全社の平均に比べて残業が多い部署」の社員たちへ、「残業を減らすにはどうしたら良いか」について、ヒアリングを依頼された。
そんな時、コンサルタントは「残業を減らすにはどうしたら良いか」とストレートには聞かない。
できるだけ余計な価値観を入れたくないので、
「労働時間についての課題はありますか?もしあるなら、どのようにすれば解決可能ですか?」
と聞く。
そして、おそらくそのときには
「特に問題はないですよ」という方と、「メチャメチャ忙しいですよ」という方が分かれるだろう。
しかし、もちろんその言葉を、そのまま事実として扱うことはしない。
必ずその発言に対して「各人の実際の残業時間」を調べる。
その結果、「特に問題はないですよ」という方の残業が突出して多かったり、逆にあまり残業していないのに「忙しいですよ」という人がいたりするのである。
その「ちょっとした食い違い」こそが、バイアスである。
残業が80時間でも「問題はない」とする人と、残業が30時間でも「忙しい」とする人は、同じものを見ていても、全く捉え方が違うのだ。
そして、コンサルタントはそこに着目する。「彼らが事実をどのように解釈しているか」がよく分かるからだ。
このように、「発言」と「事実」の差を、評価や生産性、課題の有無、部署の雰囲気などついて一つ一つ、ヒアリングで確認していく。
するとその人の「思い込みの度合い」「思い込みの方向性」は、浮き彫りになる。
そして、バイアスが強すぎる人は、一般的に仕事の成果があがっていない事が多い。(これももちろん、全員の成績と、人事評価を確認しながら行う)
それは、物事を客観的に見る力が弱いからだ。
解決策が「事実」に即して立てられているのではなく、「思い込み」に対して立てられてしまうと、その解決策は大抵機能しない。
以上のような理由から「ヒアリング」は、その人の実力を判定するのに、非常に有効な手段といえる。
(余談だが、会議での発言も、同じようである ⇒ 「事実」と「解釈」を明確に区別しない会議は、恐ろしく効率が悪い、という話。)
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
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2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
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・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
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3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
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