都市と星(新訳版)この世のおよそありとあらゆる欲望がすぐに叶う世の中とは一体どのような世の中なのだろうか。

「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」

「マルクス主義」を勉強したことのある方ならば、これがユートピアであるということを知っているだろう。

 

もちろん現在の世の中でユートピアは存在しない。絵空事である。しかし、思考実験としてこのような世の中があったらどうなるか、ということを想像してみることは極めて面白い。

また、この問いは様々なものに拡張できる。例えば、「もし、十分な給料を受け取っていて、好きな仕事をして良い」と会社内で言われたら、社員はどう動くだろうか?

 

これ対して正面から取り組んだ意欲作が、アーサー・C・クラークの「都市と星」である。

 

「2001年宇宙の旅」の原作者として、アーサー・C・クラークはその名を広く世に知られている。

SFというエンターテイメントの形式をとっているにも関わらず、その作品は隅々まで徹頭徹尾、哲学的な問を我々に投げかける。

最も面白い、と呼ばれる作品は「幼年期の終わり」という作品だが、これは「人類はこれからどこに向かうのか?」という問いを軸に据えている。ご興味のある方はぜひご覧頂きたい。(最終章はとても泣けます)

 

それとは異なり「都市と星」は、閉鎖空間の中に生きる究極の人類の話だ。

 

人類はかつて星星の間を飛び、かつて無いほどの繁栄を極めた。

だが、ある事件を契機に人類は地球から離れることができなくなり、そしてある一つの都市に閉じこもることになった。そこでは人類は自らを改良することで、寿命は数世紀となり、死んだ後も記憶を保持して転生する。望むものは即座に手にはいり、皆好きな職業につき、科学、芸術、哲学などはかつて無い高みに達している。

その都市の中で人類は10億年を過ごした。そして10億年が経った後、ある特異な人間が生まれる。彼はこの都市の中で唯一、「転生」を経験していない人間だった。そして、彼は本能的に過去に何が起きたのか、外の世界はどうなっているのか、という謎を解明すべく、探索を始める。

 

「Free」の作者であるクリス・アンダーソンは「あるものが潤沢になると、すぐに別のものが希少となる」と述べる。

物質、金銭、そして社会的な地位、愛情など、現代社会において不足していたものが究極に潤沢になった世界で人類は何を求めるのか。おすすめの一冊だ。

 

 

 

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