「あんまり長生きなんてしたくないんだよね。若い頃にしっかりと人生を楽しんで、太く短く40歳ぐらいで死ぬ方が、細く長く生きるよりも全然いい」

こういう事をいう若い人は結構多い。僕も若い頃はこんな感じの事をよく言っていた。

 

ところが働き始めた後、ある程度年配の方と接するようになってみて、この世に未練がある人が驚くほど多いという事がわかり非常に驚いた。

この人達に詳しく話を聞いてみると、この人達も若い頃は太く短く生きるのが理想だったけど、実際に自分が40~60になってみると昔は忌み嫌っていた細く長くの生き方に執着するようになってきたというのだ。

 

この思考の変換点が一体どこに起因するのかをずっと考えていたのだけど、最近になってやっと納得いく回答が頭の中でえられた。

人は、残りの人生が下り階段のみで構成されると凄く命に執着するようになる生き物なのだ。

 

今回はその話をしようかと思う。

 

若者が楽観的なのは人生が上り階段のみで構成されているから

人間、目の前に上る階段があるのは楽しい。身長が伸びていったり、スポーツが上達していったり、若い頃は無かった老獪さをみにつけていったりと、人には成長という素晴らしい機能が備わっている。

若さというのは可能性であり、可能性というのは明るい未来を指し示すものだ。

 

若い頃は、目の前には上り階段しか用意されていない。多少の無理をしても身体は比較的すみやかに回復するし、給与も上がるし、社会的地位もそれなりにあがっていく。

このようにほとんどの若者は、それまでずっと上ることしか知らない。だから人生はずっと上に上にあがっていくものだとなんとなく思ってしまっている。

小学生よりも中学生の方が遥かに自由が多いし、大学生よりも社会人2~3年目の人間の方が遥かに裁量が大きくなる。

健康に生まれ、それなりに恵まれた地位にいれば、普通は上り階段ばかりの人生を歩むことになる。多少の苦境やトラブルはあるかもしれないけど、基本的には階段は上を向いている。

 

このような状態におかれると、人は凄く楽観的になれる。というか楽観的にならない方が不思議だ。どんどん人生が自由になっていくのだから、心も晴れやかになるのが当然ともいえる。

 

 

けど当然ながらそういう上向きな人生はいつまでも続くわけではない。

赤ちゃんは加齢と共に成長し大人になるけども、大人は加齢しつづけてもスーパー大人にはなれない。必然的に老いていき、高齢者となり最終的には老人となる。

 

若さは万能感を脳みそに植え付けるドーピングみたいなものだ。

「自分はどこまでもいける。上に行き続けられる」

というのが成長によりもたられる脳の認知だとしたら、逆に残りの人生が老いていき、人生が下り階段しか残されてないようになってしまった時に人がどういう風な思考回路になっていくのかは火を見るより明らかだ。

成長というのは可能性だ。そこには夢と希望があり、ある種の万能感すらある。その道は明るく、希望が満ち溢れている。

 

その逆である「時と共に退化していくという感覚」が考えられるようになると、いつまでたっても出世とか金儲けとかに物凄く執着している大人が何故それに必死になっているのかが、ようやく理解できるようになる。

身体に老いが付与されていき、身体が下り階段に差し掛かっていくのを実感するのは想像以上に恐ろしいものだ。人生の階段は、上るのは楽しいけど下るのは全然楽しくない。その辛い現実を直視できるような人はほとんどいない。

 

つまるところ、いつまでたっても出世とか金儲けとかに物凄く執着している人達は、下り階段を直視するのがあまりにも恐ろしいが故に、上り階段という数少ない残された可能性に必死になってしまうのだ。

これは若者からみれば非常に醜い行動かもしれないけど、やってる本人からすればもう物凄く必死だ。残された数少ない上り階段が目の前にあったら、それにしがみつきたくなるのは当然とも言えるだろう。

 

自己認知が高まりすぎると人生が辛くなる

このような上り階段への執着は、実は中高年層だけではなく、若い人にも結構ある。

 

例えば、都内にはプロ女子大生と言われているような人達がいる(最近はパパ活という風な単語を使用している人もいるみたいだ)

彼女たちは若さと可愛さを武器に、お金持ちの男性を相手にし、お寿司やら高級焼肉、バカ高いシャンパーニュなんかを味わいつつ東京のキラキラした生活を謳歌するタイプの人種だけど、この行動は実は非常に危険だ。

 

こういう行動を繰り返して

「自分は3万する鮨を奢ってもらって当然の人間である」

という風に自己イメージが形成されてしまうと、その後にそれを下方に修正するのは非常に困難だ。

何故か?人は階段をそう簡単には下れないからだ。

 

先ほどもいったけど、人間は階段を上るのは楽しいけど下るのは非常に辛い。

プロ女子大生氏の脳内で「私の価値は三万円の鮨相当」という風な自己認知が完成されてしまったとしたら、その後自分の価値を普通の世間一般レベルに引き戻す事は非常に難しい。

階段を下るという行為は、それほどまでに辛い行動なのだ。

 

こうしてみると、実は下り階段の恐怖は中高年層に限定されたものではないという事がよくわかる。実は若いからこそ落ちるタイプの下り階段も、探してみると結構ある。

 

人は札束で叩き続けられると、びっくりするぐらい簡単に壊れるのだ。

西原理恵子氏は娘に「王子様を待たないで、お寿司も指輪も自分で買おう」と何度も何度も繰り返し教え込んだそうだが、実に含蓄深い言葉である。

 

他人から札束で叩かれて喜ぶような存在になってはいけない。やるなら自分の金で、自分の頬を叩くぐらいが後々の為である。つい先日も、某食べロガーが過剰接待をうけてた事で大炎上していたが、一度そういった行為に味をしめてしまうと、もう元には戻れない。

地獄への道は善意で舗装されているのだ。

 

下り階段を出来る限りさけた方が人生は楽

もしあなたの目の前に、分不相応な高待遇が転がってたとしたら、その時はそれが下り階段の始まりに通じるようなものなのかについては真剣に考えた方がいい。

何度も何度も繰り返えして恐縮だけど、人間上り階段は楽しいけど下り階段は死ぬほど辛い。

 

前に性風俗産業の人と話をさせて頂いた時、なかなか興味深い事を聞かせてもらった。ダイジェスト風に書き起こすと、彼はこのような事を言っていた。

「最近は、学生がこの業界に入ってくる事も結構多い。初めの面接の段階で、この子達の人生がどう転ぶのかがわかってしまう事がある」

 

「大学の学費を支払う為とか、目的を持って期間限定でソープで働いている人は、その後この業界には出戻らない。たぶん普通の人生ルートに乗れたんだと思う」

「けど、なんの目的もなくソープでただお金が欲しくて働いているタイプの人は不幸になりがちなんだよね。男に貢いじゃったりして、この業界から足を抜け出せなくなる人も、結構いる」

「前者を上がる風呂、後者を沈む風呂って業界でよくいうんだよ」

 

今思い返すと、この話も上り階段と下り階段の話に通じるものがあるんじゃないか、と思う。

 

あなたがもし人生の方向性を選べる機会に恵まれたとしたら、ゆっくりでもいいから、上りつづけられる階段を選べるような人生を選ぶのが賢い人生選択といえるだろう。

そして階段を上がりながら、いつかくる下り階段についても思慮を深めていこう。人間、年をとっても全員が老い恥を晒しているわけでは当然ない。よい年の重ね方をしている方も、しっかり存在している。

 

彼らはきっと、覚悟を持てたのだろう。学びたいものだ。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


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(2025/6/2更新)

 

 

 

【プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

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(Photo:Chu 3d)