最近、「信用経済」なる言葉をよく耳にする。

個人が株式会社のように株を発行できるVALU、個人の時間を売り買いできるタイムバンクなど、「ヒトに値段をつけてやり取りする」動きが活発になってきているからだ。

そういった新しい動きは、「信用経済の発展」によるものらしい。

 

わたしは経済のことに詳しくはないが、たしかにこういったサービスは「新しい風」なんだとは思う。

でもこの「信用経済」に、ちょっとばかし違和感を感じているのだ。

 

信用経済の発展が取り沙汰されているけど……

最近ではさまざまな新サービスがリリースされ、「信用をカネに換える時代」が到来しつつあるという。

たとえばタイムバンクでは、「この人の1秒にはこれだけの価値があるだろう」という信用のもと、時間の売買が行われる。いままでになかった試みだ。

 

こういった背景もあり、「一般人でも多くの信用を集めていればカネを手に入れられる環境になった」と言われるようになった。そしてそれが、「信用経済である」と。

信用経済とは貨幣経済が発展したかたちで、「信用」をもとに経済活動する仕組みのことを指す。

でもこれって、小切手や住宅ローンのように、信用をカネに換えていると言えるんだろうか?

 

VALUやタイムバンクでは多くの場合、すでに知名度のある有名人(インフルエンサー)が圧倒的に有利で、短期間で多額のカネを稼いでいた。

信用経済と言いつつ、結局のところ個人のブランド力の競争になっているのだ。

インフルエンサーが得をするばかりの新サービスの登場は、本当に「信用経済の発展」なんだろうか。

 

人気争いは「信用経済」なのか

わたしはとあるイタリアン料理屋の常連なんだが、そこはとにかく料理がおいしい。

だがアクセスが良くないし、料理が出てくるのに時間がかかる。それでもその店が好きだから、わたしはよく足を運ぶ。

 

最近注目されている「ヒトに値段をつける」新サービスは、とどのつまり、ユーザーの「その人が好きだからカネを使う」という気持ちの上に成り立っている。

イタリアン料理屋は数多くあるが、それでもわたしがいつも同じ店に行ってカネを使うのと似たような心理なんじゃないかと思う。

 

でもそれは、「信用」というよりもただの「ファン」だ。

タイムバンクやVALUの初期値がSNSのフォロワー数で決まることからも、「価値」の評価基準が、ネット上での人気度に依存していることがわかる。

だからこういった新サービスでは、顔と名前が売れているインフルエンサーが得をする。たいした知名度がない人間は、なかなかその恩恵には与れない。

 

だがそれはインフルエンサーが社会的に信用されているからではなく、多くの「カネを払いたい」と思うファンを抱えているからカネが集まるのである。

たとえば人間性が優れており、人望が厚く、社会的に成功している人でも、SNSのフォロワーがゼロであれば、「無価値」ということになってしまう。

それが、いま注目されている「信用経済」だ。

 

ここに違和感を感じないだろうか?

「人気争いが悪い」ということではない。

人気を得るのもひとつのスキルであり、そのスキルを生かしてカネを稼ぐのは至極当然のことだ。

 

ただ、知名度と人気度によってその人の価値(値段)が決まるのであれば、それは「信用」を基にしていると言えるのだろうか、と疑問なのだ。

「インフルエンサーだから人間として信用できる」わけでもなければ、「ネット上で影響力がないから信用に値しない」というわけではないはずだ。

インフルエンサーは、ファンを獲得するためにさまざまな工夫を行ってきただろう。そういう経緯、実績を指して「信用」と言っているのかもしれない。

 

それでも、ネットの影響力を「信用」と言うのは、ちょっと無理があると思う。

 

信用経済の勝者が「人気者」でいいのか

いままで「信用」というのは、年収や学歴、勤務先などの社会的要素が大きかった。給料や偏差値、従業員数などは数値化して、わかりやすく順序がつけられる。

こういった社会的信用は往々にして、努力して堅実に積み重ねていけば得られるものだ。

 

だが個人の人気争いになると、そうもいかない。

素晴らしい能力があってもそれをアピールできない人は埋没するし、実力がたいしてなくとも言葉巧みにファンを作っていけば、あっという間にカネを集められる。

 

そうすると声が大きく奇抜なことをする人が注目されるので、そういう人が有利になっていくだろう。

マジメで堅実にやってきた人の方が「信用」できそうなものだが、人気争いを前提とした「信用経済」とやらでは、そうとも限らない。たぶん、わたしはそこに最も違和感を感じているのだ。

 

「目立ったもの勝ち」の人気争いは「信用経済」なんだろうか、と。

これからもきっと、影響力や人気度をもとにヒトに値段をつけるサービスが生まれていくだろう。そこでは、人間的に信用できるかよりも、フォロワー数や発言力などの個人のブランド力が評価される。

それが「信用経済」と言うべきなのかどうか、そして「信用」とはなにを基準に測るべきなのか、これからは注目の議論となりそうだ。

 

わたしは「目立ったもの勝ち」の社会は、少なくとも「信用」とはかけ離れた姿だと思うのが、みなさんはいかがだろうか。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

【プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

 

(Photo:Penn State