採用市場が活況を呈しているが、「うまく採用できず悩んでいる」とこぼす経営者、幹部は少なくない。

その悩みは大きく2つ。

「応募がない」と「入社させてみたら、思っていたほどパフォーマンスの高い人物ではなかった」

というものだ。

 

そして、後者は前者に比べて、より深刻である。

あるwebサービス業の幹部は

「面接では素晴らしい人物に見えた。しかし、半年たって今思うと、「騙された」というのが正直な感想だ」

と言った。

「試用期間にやんわりと辞めてもらった。頭もよく、コミュニケーション能力は素晴らしかったが、手を動かせない人物は要らない。」

「クビにした人からは、苦情などは来ていないのですか?」

「給料3ヶ月分を渡して辞めさせた。カネを受け取っているし、退職願も出させたから、訴訟にはならないと思う。」

「そうですか。お互い不幸ですね。」

「面接で、事前に見抜く方があれば良いんだけどね。イマイチな人を雇うことのマイナスは大きいからね。」

 

*****

 

採用失敗の本質は「ミスマッチ」にあり、さらに言えば「面接からパフォーマンスを予測する」のが難しいことにある。

 

だが、方法がないわけではない。

Googleは「最高の人材だけを雇う」と宣言しており、人材の質が高いことには定評があるが、その人事トップが著した「ワーク・ルールズ」にはGoogleの面接についての方針が詳細に書いてある。

1998年、フランク・シュミットとジョン・ハンターは、面接時の評価から職務能力をどこまで予測できるかという85年にわたる研究をメタ分析し、その結果を発表した。

この研究によれば、ある人の職務能力を予測するために役立つ指標は次の3つだ。

これらの質問は、面接官が適当に聞く質問の倍の精度で、その応募者の能力を判定できると推定されている。

 

1.ワークサンプルテスト

……業務の一部を切り出して、実際にやらせてみる(コーディングなど)

2.一般認識能力テスト

……「正誤判定」が明確にできるテスト(知能テストなど)

3.構造的面接

……回答の質を評価する明確な基準を備えた一連の質問に答える面接

 

要するに「仕事をやらせてみる」ことと「筆記テスト」が最も能力の予測に対して有益な情報を提供してくれる、ということになる。

「テストできても仕事はできない」ということはなく、「テストの成績が良い人は、仕事もできる可能性が高い」のである。

 

上の2つはすでに専攻に取り入れている会社も多いだろう。

だが、この中で馴染みが薄いのが3.の構造的面接だ。

「構造的面接」とは

◯行動面接

〜した時のことを話してください。(実績に基づく質問)

◯状況面接

もし〜のような状況となったら、どのような行動を取りますか?(ケーススタディ)

の2種類の質問からなる面接だ。

これの特徴は、「思います」や「感じました」ではなく、「どう行動した(する)」という基準に基づいて成される面接だということだ。

 

「ワーク・ルールズ」では、アメリカ復員軍人援護局のサイトが参考とされているが、「構造的面接」は、Performance Based Interviewing(PBI)、つまりパフォーマンスに基づいたインタビュー、という名前で紹介されている。

パフォーマンスに基づいたインタビュー、と言うのはなかなかわかりやすい。

採用は結局、厳密にパフォーマンスに基づくほうが合理的なのだろう。

 

一部の質問を翻訳してくれている方がいるので、例として「柔軟性と適応性」を参考に紹介する。

スタートアップの採用に役立つ「パフォーマンス・ベース・インタビュー」の質問の一部翻訳

柔軟性と適応性

1. ここ数年であなたが個人的にしなければならなかった仕事の変化を説明してください。当時、あなたはその変更をどのように感じましたか?変更を行うためにあなたは何をしましたか?あなたは今変化についてどのように感じていますか?

2.仕事で新たに学ぶ必要のあった最後の新しい手順について教えてください。新しい手順を学ぶのが一番難しかった点も具体的に教えてください。新しい手順を学ぶことで、あなたが一番気に入ったところを具体的に教えてください。新しい手順は現在どの程度うまく機能していますか?

3.あなたが他の人に変化してもらう責任を負った状況を説明してください。どのような役割を果たして、どんな行動をとったのですか?結果は何でしたか?もう一度やり直さなければならない場合は、何か違うことをしますか?

4.同じように扱うことができなかった2人の異なる従業員に対処しなければならなかったことについて教えてください。どのようにそれぞれ対処しましたか?あなたは何をやろうとしたのですか?各従業員へのあなたの介入はどれくらいうまくいったのですか?

この質問が優れているのは、応募者が実績をごまかしにくく、かつ質問者のレベルに依存せす、応募者の能力をある程度判定できる点だ。

それは、どの質問も

「ある状況下で、具体的に何をし、どんな結果になったか。今後はどのような予測ができるか」

を答えさせる質問になっているからだ。

そう考えると、「柔軟性と適応性」について、面接がヘタな企業で質問されているような、

 

・ウチの仕事はけっこう残業もありますけど……大丈夫ですか?

・嫌な仕事でも黙って続けられますか?

・当社のビジョンについて、共感したポイントをおしえてください。

・自分は柔軟な方だと思いますか?それとも頑固な方だと思いますか?

 

と言った質問にくらべ、能力の判定はより正確になるだろう。

 

 

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(Photo:Sean Davis