資本主義ゲームにおいてゴールとは億万長者になる事だ。
毎日、遊んで暮らせるぐらいのお金を手に入れられた時、人は仕事などのしがらみから逃れて、真の意味で自由を選択する事ができるようになる。
これはファイナンシャル・インデペンデンスと呼ばれている概念で、つまるところあなたの預金口座に30億円ぐらいが入ってれば、あなたは嫌々会社に行く必要はなくなるし、明日から何をしても誰にも文句なんていわれず、心の赴くままに好きな事だけができるようになる。
つまるところ資本主義社会において、人が真に自由になるためには一生遊んで暮らせるお金が必要なのである。
とまあここまではいい。
今回僕が議題提起するのは、そのゴールに到達してしまった後の話だ。
果たして人は財布に使い切れないぐらいのお金を手にした後、どうなってしまうのだろう?
億万長者になった後、人は何をモチベーションにして生きていくのだろうか?
これ、凄く疑問に思わないだろうか?すごろくでいえば、ゴールにたどり着いた後の話がどうなってるのかの世界だ。
すごろくならば順位がついて、ゲームが終わるだけだけど、現実は億万長者になった後も続いていく。
あがりの後の世界がどうなってるのか、その風景に僕は昔から興味津々だった。
ありがたい事に、世の中にはそれこそ一生遊んで暮らせるだけのお金を持っている人がそこそこいる。
僕は社会人になった後にその手の人達に何人か会う機会に恵まれたのだけど、意外なことに彼等はほぼ例外なく、普通に仕事をして働き続けていた。
数多のお金を手に入れて資本主義ゲームからせっかく上がりを決め込んだくせに、ただの一人の例外もなく仕事を続行していたのである。
僕は心底びっくりした。
「いやあなた、会社なんか行ってる場合じゃないでしょ。世界一周の旅にでもさっさと出かけて、美食の限りをつくすとか、最高の愛をみつけに出かけるとか、そういう事、やらないんですか?」
こう思わないだろうか?
けど誰ひとりとしてそういう事はやってなかった。
どうも人間にとって仕事というものは、お金を稼ぐためにやるようなもの、というものを越えた所にあるようなのである。
仕事は人生の暇つぶし
自分の手で億万長者に至った人を何人かみてて気がついたのだけど、彼等に一つだけ共通している事があった。
ほぼ例外なく、自分がやってて楽しいことだけをやっていた。ただの一人の例外もなく、である。
例えばとある人は、傍からみると仕事中毒なんじゃないかっていうぐらいの働きっぷりをしていた。
けど本人に言わせれば、それは高校生がプレイステーションに熱中しているようなもので、つまるところ楽しいことをひたすらやり続けてた結果、彼等はいつの間にか億万長者にたまたまなってしまったと言うのである。
そうなると、億万長者になった後に仕事というゲームをやり続けている理由がようやくわかる。
彼等にとって億万長者とは、目指すべきゴールじゃなく、たまたま通過してしまった地点でしか無かったのだ。というか、彼等が今でも億万長者なのは、ある意味では彼が使う以上に彼がお金を稼ぐからだとも言える。
ある時、僕はそのうちの1人に
「もう十分お金なんて稼ぎきっただろうに、何で今でもそこまでがむしゃらに働き続けるのか」
を聞く機会に恵まれた。彼は少し考えた後にこう答えた
「働かないと人生は暇すぎる。仕事は人生の暇つぶしであり、人生最高のゲームのうちの1つだ」
どうやら人は億万長者になったところで暇からは逃れられないらしい。まあ一応その意見は理解出来なくもない。
これを聞いた後、僕が次に疑問に思ったのは彼の暇つぶしにおけるモチベーションである。
目標があると、人は大変な事でも頑張れる。逆にいえば、目標もなしに人は頑張り続ける事はできない。
彼にとって仕事がいくら暇つぶしだとはいえ、それにしたって何の目標もなしに継続しつづけられるようなものではないだろう。
一応いっておくと、彼はその業界においては既にかなりの地位に登りつめてて、承認欲求みたいなものは既に完全に充足されていた。
金銭欲求と、承認欲求を超えも、それでもなお働くのをやめられないのが人間なのである。
その暇つぶしのモチベーションは一体なんなのか?彼はしばらく考えた後にこう答えた。
■
「例えばさ、銀座にすきやばし次郎って鮨屋があるじゃん。あの店の大将・小野次郎さんって94歳になってもまだ現役で鮨を握り続けてるんだけど、なんでそんな事やってるんだと思う?」
「たぶんだけどさ、あれは鮨を握る事自体が楽しいんだよ。じゃあその楽しいって感情自体は何からきてると思う?僕が思うにそれは多分、全てをコントロール出来た時に感じる万能感みたいなものが源泉だと思うんだよね」
「小野さんほどの達人でも、ある日は最高の鮨が握れるときもあれば、またある時は全然思い通りに鮨が握れないときもある。その細かい差がなんなのかを考えながら、全てがうまくいった時に最高の鮨が握れる事が楽しいからこそ、家で静かに余生なんておくらないで鮨を握り続けてるんだと思うんだよね」
「うまくいえないんだけど、自分の仕事に対するモチベーションって結局のところそれなんだよね。いろいろ考えてやってみた事が全部うまくいくと気持ちいいし、うまくいかないならいかないで、原因を考えてまた仕事の方法を変えてみる。それでうまくいったりすると、やっぱし気持ちがいい。この全てがコントロールできたような万能感にひたれるのが、しいて言えばモチベーションかなぁ」
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確かに人生は思い通りにいかない。
大好きなあの人は私達に振り向いてはくれないし、宝くじも馬券も思うようには当たらない
世の中は私達が思うようには全然動いてくれない。
けど一つだけ自分の思うように動いてくれるものがある。それは自分だ。自分だけは意のままにコントロールする事ができる。
イチローしかり羽生善治さん、よのプロフェッショナルがストイックに自分を絞り上げられるのは、自分という器を完璧にコントロールさせた後、最高の仕事が自分の手から産まれるという事の快感を知ってしまったからなのかもしれない。
きっとその快感を知ることができた人は億万長者への扉をニコニコと楽しみながら突破する事ができるのだろう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki
(Photo:vgallova)