Books&Apps編集部の楢原です。
ちょうど1年ほど前、web業界を賑わせたDeNAのWELQ問題というものがありました。
WELQの問題で改めて考える、信頼できるネットの医療情報とは? 朽木誠一郎さんに聞く(ハフィントンポスト 2016/12/6)
私が特にそれを覚えているのは、その物語がいかにも勧善懲悪的に見えたからです。
こんな話でした。
一般企業に入ればおそらくチャキチャキ仕事ができるであろう若者たちが、すでに米国で流行り成功したビジネスモデルをいち早く学習し、それを日本のwebメディアにもたらすことで、成功を収めつつありました。
彼らが運営していたのは、女性ファッションに特化したMERYと住まいに特化したiemoという2つのwebメディアです。
やがて、その有能な若者たちは、優秀な才能には目がないDeNAの目にとまり、DeNAはそれら2つのメディアを合わせて会社まるごと50億円で買いました。
目論見通り、その会社は順調に成長しました。
特に、女性向けファッションに特化した「MERY」と医療情報に特化した「WELQ」が「めちゃくちゃスゲー」と業界内で囁かれていて、ある種の尊敬も集めていました。
ビジネスでは、数値化できるものを伸ばした人は尊敬されやすいです。優劣を語ることが容易いからです。
webメディアの場合、デイリーアクティブユーザー(DAU)数だったり、月間ページビュー(PV)数だったりします。当時、MERYは月間2億PVを優に超えるメディアにまで成長していました。
その成功モデルの話は、まだweb業界にいるかどうか意識の希薄な私の耳にも入ってくるほどでした。
***
でも、皆がふと気づいた時に、google検索がおかしなことになっていました。
当時、この事件の発端となった有名な事例は、「肩こり」と検索すると「幽霊のせいかも」と書いている記事がgoogle検索で上位表示されていたことです。
医療サイト「WELQ」閉鎖前のトンデモ記事 「肩こりは霊的トラブル」( J-CAST 2017/11/30)
一般の人が個人の感想として言うのであれば深刻な問題にはならないですが、問題だったのは上場企業であるDeNAが運営している、しかも人命にも関わる医療情報のメディアでした。
流石にそれはマズイんじゃないの?ってなったのです。
さらに、そのメディアでは探せば探すほどにとんでもない記事が大量にあることが明らかになったのです。
優秀な若者たちが運営しているwebメディアが、DeNAの運営によってさらにブーストをかけられさらにイケイケのwebメディアとして大飛躍をとげようとしている!
と思っていたら、実態は「とんでもない記事」が大量生産されている巨大webメディアだった…というわけです。
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「とんでもない記事の量産」
それが、彼らが行なっていたビジネスモデルの負の産物でした。
実は、彼らが運営しているメディアの中でも、MERYのように良質な記事で純粋に「ファン」を獲得しているメディアもありました。
私も好きでしたMERY。
デザインがスマホ時代を先取りしていて綺麗で秀逸でしたし、信頼できるスポンサーもついていて、それらの記事の情報発信の方法は学ぶべきものがありました。
(※現在、MERYだけは小学館監修のもと再スタートしている)
でも彼らは一方で、「googleに検索上位されることを目的とした記事」を大量に配信することを徹底的に行なっていました。
例えば、たった1つのサイトに1日100記事以上の記事を配信していたのです。
誰が1日でそんなに大量の記事を読むのでしょうか?もしくは、100通りの記事を100人に読ませたかったのでしょうか?
もちろん、記事の中身がしっかりしていればそれでも良かったでしょう。
しかし、それらの記事のほとんどは根拠があやふやで、文章の質も極めて低く、しかも誰が書いたのかもわからない記事でした。
なぜならば、その多くは素人に匿名で安価に記事を制作してもらっていたからです。
マニュアルまで作って徹底して実行しているので、その点はやはり優秀な人たちなのですが、そもそも書き手が人に読ませたいと思って書いている記事ではないものを、PV数を稼ぐという目的のためだけにweb上に掲載することは、web運営者たちのビジネスに役に立つ以外に役に立つことはないのです。
上記の「肩こりは幽霊のせいかも」という記事発覚後、たった数ヶ月ほどで、DeNAが運営していた関連のwebメディアは全て閉鎖されたのでした。
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ところで、そのあいだ、我々Books&Appsは何してたかって?
私たちだって、google検索で上位表示されたいと思っていました。webメディアの端くれとして。
正直、WELQとかMERYがスゲーって言われている時に、それらと同様の手法で、Books&Appsでもgoogleで検索されそうな記事をたくさん作ろう!って思って、それをやろうとしたことがありました。
でも、できませんでした。
「自分たちが読者に読んでもらいたい記事」を1日に大量に作ることは、自分たちの実力ではできなかったからです。
で、すぐにやめちゃいました。
そして、今のBooks&Appsがあります。
でも、やっぱり読者のために「おもしろい文章」をBooks&Appsで配信することにこだわって良かったと思っています。
そのような中でも、多くの方に読んでもらえる現在があるからです。
いつも、ありがとうございます。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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