「先輩、生産性を上げる方法を教えて下さい。」
Sは後輩のKから質問を受けた。
「なんで突然、生産性?」
Sは聞く。
「日本は生産性が最低だと聞きまして」
「ほう」
「ちょうど会社も残業を削減しろと言ってるじゃないですか。残業が多いと評価が低くなるって。」
「だな。」
Kは本当に困っているようだ。
「で、生産性が我が社最高との評判の高いS先輩に、教えを請いたいと思いました。」
「ふーむ。」
SはKのことを「素直だが、能力はちょっと低いやつ」と評価している。
真面目なのだが、機転が利かず、先読みができない。
おそらく他の社員たちも概ね、同じような意見だろう。
事実、彼は仕事は遅い。いつも夜遅くまで仕事をしているのを、皆が目撃している。
一昔前までであれば、「頑張っている」と評価されたかもしれない。
だが、今はもうそのような時代ではない。
おそらくこのまま行けば、彼の期末の評価は少なくとも中の下、悪ければ最低ランクとなるだろう。
ただ、Sは真面目に仕事をするKを嫌いではなかった。
要領さえ良ければ……開花するかもしれない。
「わかった。」
Sは言った。
「あ、ありがとうございます!」
Kは心から感謝しているようだった。
■
「だが一言言っておくと、効果は保証できない。それでもやるかね。」
「はい、よろしくお願い致します。」
Kは答えた。
「では、まず一つ、質問に答えて欲しい。君が改善したい「生産性」とは一体何かね?端的に答えて欲しい。」
「えー……、えー……。と……。」
「慌てる必要はない。じっくり考えなさい。」
はっきり言われてみると、Kは「生産性とはなにか」に答えられなかった。
イメージはある。しかし、言葉にはならない。
「……仕事を効率よくできているか」という話だと認識しています。
「答えになってないな。君の言う「効率」は、まだ意味が曖昧だ。」
Kは考えることが苦手だったことを思い出した。
「わかりません。教えて下さい。」
「ダメだ。自分で考えて、結論を出さなければ、本質的には何も身につかない。」
Kは考え込んだ。
自分は一体何をやりたいのだろう?
仕事は早く終わらせなくてはならない。
効率をあげたら……仕事が早く終わる?
仕事が早く終わったら、残業は……なくなる。
そうだ!
Kは自信満々でSに言った。
「同じ仕事をより短時間で終わらせることが、生産性の向上です。」
「ほう。」
「だから、私の仕事がもっと早くできるように、もっとムダがないように仕事をしろ、ってことですね。」
「なるほど。」
「だったら、エクセルとか、パワポとかの使い方を極めるとか、日報を早くかけるようになるとか、プレゼン資料のノウハウを知るとか、そういうスキルを身につければいいんですね!先輩、ありがとうございます!」
「馬鹿野郎。」
「……え……。」
「エクセル?パワポ?プレゼン資料? 本当にお前はそれが、生産性の向上に結びつくと思っているのか?」
「え……ええ。まあ。」
「お前は全く仕事ってもんをわかってない。」
Kは唖然とした。
「しかし……。」
Sは突き刺すような目線をKに向けた。
「断言するが、仕事を早くやることと、生産性の向上は、全く別の概念だ。」
「えー……。」
SはKに向き直った。
「お前は一体、何のために仕事をしているのだ。」
「き、給料をもらうためです。」
「それは目的じゃない。結果だ。いい仕事をした、結果として給料がもらえる。」
「……。」
「仕事の目的は?」
「えーと、私の場合は……。売上……。」
「何?」
「売上を上げることと、お客様の満足度をあげることです。」
Sはにっこり笑った。
「そうだ。覚えておけ。仕事の目的は、成果を出すことにしかない。」
Kは恥ずかしかった。
言われてみると当たり前の答えだが、自分はその当たり前にすら、回答することができなかった。
「そりゃ、そうですよね……。成果ですよね。当たり前ですよね。」
Sは言った。
「ではもう一つ聞く。お前の仕事は、早くやればやるほど、成果があがる仕事なのか?」
KはSが何を伝えたいのか、ようやく悟った。
「違います……。」
「そうだろう。お前の仕事はルーティンワークではない。ライン工でもない。だから、いくら仕事を早く片付けても、成果に繋がらなければ、全てその改善はムダだ。」
「ええ、そうです。」
「じゃ、お前が目指す生産性の向上とは何だ。」
「短い時間で、成果をあげることです。」
「そうだ。今までよりも短時間で成果を出すこと。これが生産性の向上の本質だ。」
しかし、疑問はまだ残る。
KはSに訪ねた。
「今でも精一杯やっているのに、これ以上短時間で成果を出すなんて、無理じゃないかと……。」
「馬鹿野郎。」
「す、すみません!」
「精一杯やっているかどうかなんて、どうでもいい話なんだよ。結果出すやつはそんなこと気にしない。」
しかし、Kはどうしても自分がこれ以上短時間で成果を出すなんて、想像ができなかった。
結局、最初のパワポやエクセルのスキルや日報を早く書く技術のことじゃないか……とも思った。
なんだ、最初の話と同じじゃないか。
Kが目を白黒させていると、Sは言った。
「今、お前は「これ以上のスピードアップなんて無理です」と思ってるだろう?」
「は、はい。」
「ほんとうに頭が固いな。スピードアップなんてしなくていいんだよ。」
「……どういうことでしょう?」
「スピードアップせずに、もっと短時間で結果を出す方法は何だ。考えろ。」
Kは困ってしまった。
スピードアップせずに?
短時間で?
とんちクイズか?
……
でも、今までと同じスピードで仕事をするなら、もう仕事を減らすしか無い。
……減らす?
減らせるのか?
いや、減らさなくてはならない。
KはSに言った。
「もしかして、……仕事を減らせ、ということですか?」
「そのとおり」
「あ……、そういうこと……なんですか?」
「そうだ。仕事を減らせ。成果につながらない仕事は全部やめろ。」
「は、はい。でもどうやればいいんですか?」
SはKのカバンを見て言った。
「手帳を出せ。」
「スマホでやってるんですが……」
「ならスマホを出せ。見せろ。」
KはスケジュールをSに見せた。
SはKのスケジュールを一瞥し、言った。
「今の月間の売上目標は?」
「3千万円です。」
「残業時間は?」
「先月は………45時間でした。」
「まず、先月に顧客別に使った営業の時間を全部洗い出せ。」
Kは先月に訪問した顧客へ使った時間を洗い出した。
すると、訪問したのは20社で上位3社で全体の半分の時間を使っていることがわかった。
さらに、上位3社での売上が2千万円だった。
「売上が、3社で2千万、残り17社で1千万だな。」
「そうです。」
「じゃ、今後どうするんだ。」
「上位3社にもっと行ったほうがいいですかね……。あと、17社のうち3社ほどは、もっと拡大できそうなので、そこに時間を使いたいです。」
「わかっているなら、やればいいじゃないか。」
「時間がなくて……。」
「じゃ、何かを削れ。」
Kは躊躇した。今まで当然のように「とにかく行動を増やす」ことに腐心してきたからだ。
「削るんですか?」
「そうだ。時間がないんだろう。」
「えーと、それじゃ……まず訪問先を7、8社まで減らします。」
「あとは?」
「残りの会社へは、メールと電話でフォローすることにします。」
「いいんじゃないか。」
「あとは……。」
「このスケジュールに入っている、「若手勉強会」というのは何だ。1ヶ月に5時間も使っている。」
「これは、若手の有志で事例を発表し合う会でして……」
「成果につながるのか?」
「……正直に言うと、最近はあまり。」
「じゃ、行く必要はないな。」
Kは自分のスケジュール表に次々とダメ出しをするSを見て、
「生産性向上って、無情だな」
と感じていた。
結局、先月のスケジュールに含まれていたものの中で、続けることになった仕事は半分ほどしかなかった。
「日報にかける時間をこんなに削って、大丈夫ですかね。」
「成果に関係ないんだろ。」
「まあ、そうなんですが……。」
「じゃ、テンプレ用意して、機械的に報告するくらいに留めろ。お前は日報ごときに気合を入れすぎだ。売上が上がってれば、上司が難癖つけてくることはない。」
■
1ヶ月後。
Kの残業は半分以下に減った。
「Sさん、ありがとうございました。残業は来月も更に減りそうです。」
「そうか。良かったな。」
「早くやる、ではなく、やらない、というのがカギなんですね。」
「大体はな。」
「ところで……」
「なんだ。」
「良いタスク管理ツールがほしいなと思いまして。先輩は何を使っているのか知りたいと。」
「それはだな……」
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梅田 悟司(うめだ・さとし)
コピーライター/ワークワンダース株式会社 取締役CPO(Chief Prompt Officer)/武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 教授
代表的な仕事に、
・ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」
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著書『「言葉にできる」は武器になる。』はシリーズ累計35万部以上。
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(2025/5/22更新)
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