先日、ソウルドアウトの荻原氏から「ノウハウを公開することの是非について」の話があった。

荻原:「先日、顧客満足についてのセミナーを、とある老舗の大手企業から依頼されましたが、セミナーの終了後「オープンであること」について、かなりの質問を受けました。」

安達:「具体的には?」

 

荻原:「今、弊社ではLISKULという、webメディアを運営しています。サイトには、webマーケティングのノウハウを詳細に載せてます。それが、どうやらとても不思議だったようで。「そんなことをして、競合に真似されたらマズイでしょ」って聞かれたわけです。」

安達:「はい。」

 

荻原:「面白いですよね、私個人は「情報をオープンにすること」が計り知れない恩恵があると思っているのですが、全くそう思っていない人がかなり居るんだなと。オープン化は現代の知識集約的な産業には必須だと思います。」

安達:「ノウハウを公開することは危険ではないのですか?」

 

荻原:「もちろん、公開に当たっては工夫が必要です。例えば、私の知っている会社に、大手メーカーと中小企業のマッチングをしているLinkers(リンカーズ)という会社があるんですが。ここがノウハウの公開について非常に面白い工夫をしています。」

安達:「どのあたりが面白いのでしょう?」

 

荻原:「例えば、展示会などでの、大手メーカーと中小企業のマッチング成約率がどの程度か、ご存知ですか?」

安達:「いえ、存じません。」

 

荻原:「たった、3%〜5%なんです。」

安達:「少ないですね。」

 

荻原:「そうです。理由は単純で、大企業メーカーも、中小企業も、情報をなかなかオープンにできないからです。なぜなら、まだ世に出ていない企画や、それに必要な技術が何であるか、一般的に公開するのが難しいからです。」

安達:「なるほど。」

 

荻原:「ところが、Linkersは出された案件に対するマッチング成約率がそれよりも遥かに大きい。何が違うかというと、情報をLinkersの中だけに限定公開できること、そして、「コーディネーター」を間に挟んでいることです。」

安達:「コーディネーターとは?」

 

荻原:「面白いんですが、中小企業の経営者は、自社の情報をオープンにすることに対して、結構消極的な人が多いんです。」

安達:「……商売なのにですか?」

 

荻原:「そうです。「競合が見ているかもしれない」というのもあるのかもしれないのですが、「ウチのやっていることなんて、特に優れているわけじゃない」って、勝手に思い込んでいる人が多いそうです。

そこで、「コーディネーター」の登場です。コーディネーターは第三者ですから、その中小企業の持っている技術を「他は持ってない」と、ある程度客観的に見ることができる。Linkersは、直接中小企業に情報を流すより、コーディネーターに情報を流すほうが、マッチングの精度が上がると気づいたんです。」

安達:「なるほど。」

 

荻原:「結局、情報公開というのは、単に情報をオープンにすればいい、と言うものではなく、適切なマーケットに、適切な情報を流す、その見極めが重要だ、ということになります。また、それを支援するサービスは今後伸びるでしょう。」

 

*****

 

そもそも、日本人は「オープンであること」をあまり得意としていないようだ。

 

例えば、日本には、「匿名でインターネットサービスを利用する人」が、欧米、アジアの諸外国に比べて高い割合で存在するという。

諸外国別に見るソーシャルメディアの実名・匿名の利用実態(2014年)

日本における匿名の利用性向の高さは、アジア共通……ではなく、日本独自の傾向と見て良さそうだ。

これが一時的な傾向なのか、一般的な傾向として言えるのかはよくわからないが、少なくとも「日本人はオープンである」とは、いいづらい状況だ。

 

「情報は隠しておくべき」

そういった日本人が、普通なのかもしれない。

 

同じように、日本企業も「オープン」であることを苦手とする傾向があるようだ。

例えば、スタンフォード大学の研究者によれば、日本企業は「クローズド」「既存事業の延長」型のイノベーションを得意とするとされている。

米スタンフォード大学US-Asia技術経営研究センター所長のRichard B. Dasher教授は、米アジア間のイノベーションモデルを比較分析し、縦軸をクローズド型×オープン型、横軸を拡散型×破壊型として四領域に分類した。

破壊的かつ起業家精神をもってイノベーションを創出する米シリコンバレーに対し、その対極にあたるクローズドかつ既存事業の拡散型モデルに日本を位置付けている。

(NEDO:オープンイノベーション白書

もちろん、オープンが良いのか、クローズドが良いのか、という議論はそう簡単なものではない。

Googleの元CEOであるエリック・シュミットは「オープンか否かというのは、戦略的選択だ」という。

オープンか否かというのは、倫理的選択ではない。初期設定をオープンにするのは、エコシステムにおいてイノベーションをうながし、コストを下げる最適な方法なので、むしろ戦略的選択と見たほうがいいだろう。

オープン化を実践すれば、スケールや収益性を実現するのに役立つだろうか、と自問してみよう。オープン化にただよう高潔なオーラに吸い寄せられ、スマート・クリエイティブは集まってくるだろう。

Googleが考えるように、「エコシステム」を作るための最適な方法として、「オープンであること」が選択される事が多い、というだけのことだ。

 

メディアを運営していると、「ノウハウは外部に公開すべきでしょうか?それとも隠したほうがいいのでしょうか?」という質問をよく受ける。

原則はYesだ。

情報は、それを発信する人の場所に集まる、というのは間違いなく真実だからだ。

だが、漫然と重要情報やノウハウを垂れ流すだけでは、他者にいいように利用されるだけだ。

 

Googleは、検索エンジンのロジックはブラックボックスにしている。

Linkersは、情報を届けたい人だけに情報を公開できるようになっている。

LISKULも、「個別のお客様の情報は掲載しない」という方針だ。

つまり、「秘匿すべきこと」と「公開すべきこと」の判断は、エリック・シュミットの言うように、戦略的な選択、それだけの話である。

 

 

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(Photo:Satoru Fujiwara)