5歳の娘が、いま幼稚園に通っている。

友だちと遊んだり、モルモットの世話をしたり、本を読んだりと、幼稚園は結構好きなようだ。

 

課題を出す幼稚園

ただ、その幼稚園はちょっと変わっている。

子供に「課題」をよく出すのだ。

といっても、何か算数や国語などの勉強をさせるわけではない。殆どの課題は「日常の習慣」に関するものだ。

 

例えば「早起きの励み表」と称する紙が子供に渡される。

その紙には、1週間分の起床に関する記録がつけられる欄があり、「起床の目標時刻」と「実際に起床した時刻」を毎日記録していく。

もちろん、親が記録をつけるのではない。子供が自分で記録をつけなければならない。

 

そして1週間後、きちんと記録が埋まれば、幼稚園でメダルをもらえたり、表彰してもらえたりする。

要するに、一種の目標管理である。

 

もちろん、何もしなくても、ペナルティは特にはない。やるかやらないかの意思決定は、子供に委ねられている。

子供が引き受けるのは

「励み表が埋まらない」

「他の人が表彰されているけれど、自分は表彰されない」

という結果だけだ。

 

その他にも、「両親の手伝い」や、「就寝時刻」、「洋服をたたむ」あるいは「面倒臭がらない(面倒臭がらないと、「よいにおいのするこども」と褒めてもらえる)」など、毎週毎週、様々な目標が出される。

それを子どもたちは自分の意志に従って行うのである。

 

 

個人的には面白い試みだな、と思って観察していた。

これはまさに「非認知的スキル」の強化だ。

 

幼児期に取り上げられる人間の能力は、大別して2種類。

「認知的スキル」と、「非認知的スキル」である。

 

認知的スキル、というのはいわゆる「IQテスト」や「学力検査」、「学習到達度調査」などで測定可能な能力を指し、そして、非認知的スキル、というのは「根気強さ」「注意深さ」「意欲」「自信」といった、社会的・情動的性質を指す。

 

ノーベル経済学賞を受賞した、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマンは、認知的スキルも非認知的スキルも、多くの社会的成果(例えば金銭的、地位的な成功)を予測するという。

認知的スキルも、非認知的スキルも、多くの社会的成果を予測する。それぞれが一パーセント上昇することは、全般的な能力の向上にほぼ同等の効果をもたらす。

認知的・非認知的スキルのレベルが低い人は、投獄される可能性が高い。いずれかのスキルを上昇させれば、十代で妊娠する確率が下がる。(中略)

高校や大学の卒業や喫煙習慣や生涯賃金についても、同じようなパターンが見られる。

ヘックマンによれば、この二つのスキルは特に幼児期に伸ばすことが重要だ、とされている。

家庭や幼稚園が子供に与える影響は重要だ、と思う方は多いと思うが、科学的にもそれは証明されつつある。

 

ただ本記事は、幼児教育の重要性について書くことが中心ではない。

書きたいのは、子供へ出す「課題」の中で、幾つかの気づきが得られた点である。

 

子供に出された「朝のスケジュール管理」という課題

最近、子供に出た課題は「朝のスケジュール管理」だった。

具体的には、朝にやらなければならない一連の所作(起床する、パジャマをたたむ、顔を洗う、着替える、など)の、始めた時間と終わった時間を一週間分記録していく、というものだ。

 

ただ、それだけ聞けば、普通である。

面白いのは、「遊んでしまった時間」「ぼんやりしてしまった時間」もきちんと記録させていることだ。

 

幼稚園からの指示には、こう書かれていた。

・親は所作にかかった時間を測って、スケジュール表に印をつけ、コメントを記録する。

・子供は、スケジュール表に色を塗って、時間を記録する。

 

そして最後に、

「親は、起きる時間になったことを子供に知らせてください。目がさめるように助けるのは親ですが、目が覚めてからは子供の責任です。

「朝の支度の途中で遊んだり、ぼんやりしてしまったことも、あとで子ども自身が気づく機会になると良いので、その都度口出しせず、見たままに時間を測って記録してください。」

 

様々な会社を見て、大人にも結構やらせることが難しい、と思うようなことを、五歳の子供に要求していることには、驚くばかりである。

 

課題を遂行するための、膨大な教育コスト

ただ、この課題を遂行するには、それ相応のコストが求められる。

 

つまり、子供が遊んでも、ぼんやりしても急かさずに待つと、朝の支度に一時間以上の忍耐が必要になる時がある。

正直に言えば、脅しつけて何かをさせるほうが遥かに簡単であるので、その誘惑と戦うのが大変だ。

 

ただ、これを続けると、子どもがグズグズしているときには、脅すのではなく「一緒にやろう」が最も効果的であることもわかった。

だから、一緒に課題をこなす。そこでまた、時間がかかる。

もちろん楽しくもある。だが、自分の子供の自主性、自律を促すため、と思わなければ、正直やってられない。

 

だから、つくづく思う。

教育とは本質的に、短期的な費用対効果は全く合わないものであると。

 

翻って、企業のことを考えてみる。

実際、企業における教育は機能させるのが非常に大変だ。

例えば、上司が「部下に口出しをせず、できるようになるまで見守る」などということができるのだろうか。

 

脅しつける上司が多いのも、頷ける。

時間的、金銭的余裕のある会社にはできるだろうが、そうでなければ「結果責任」だけを問うという、誠に殺伐としたものにならざるを得ない。

大企業であっても、すでに社員教育の膨大なコストを負担するのは、一部の裕福な企業を除き、難しくなっている。

 

あるいは、もしかしたら個人的に「育成」に使命感を感じた、僅かな管理職がそのコストを身銭を切って支払っているのかもしれない。

私はそのような上司に尊敬の念を禁じ得ないのである。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

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(Photo:Etienne