バーチャルYoutuberという存在を観測して、「キャラクターの中身とキャラクター自体を分けて楽しむ文化の熟成」みたいなことを考えていました。
ちょっと昔話をさせてください。
かつて、特にMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)では、「ネカマ」に関してものすごい警戒意識が強かった時代、キャラクターの「本当の性別」を過度に気にする時代、というようなものがありました。
「ネカマ」って皆さんご存知ですかね?この言葉自体、もしかすると段々と死語になりつつあるのかも知れません。
広義では「男性がwebにおいて女性の振りをすること」であって、転じて「(特にMMORPGなどにおいて)男性が女性のアバター、女性のキャラクターを使ってゲームをプレイすること」もネカマと呼ばれるようになりました。
で、少なくとも一時期、この「ネカマに騙されたら負け」というか、「女性キャラクターの中身性別を執拗に意識する、ないし警戒する」という風土が、かなり広く見られた時期があったんですよ。
私の観測範囲は、大体
「ラグナロクオンライン(以下RO)」
「マビノギ」
「大航海時代オンライン(以下DOL)」
の3つのタイトルでして、他のMMORPGはちょこちょこ程度にしかやっていないんですが。
勿論タイトルごとに文化の違いはあるものの、少なくともこの3つのタイトルでは、多かれ少なかれ「ネカマと、それを見抜こうとする勢力の戦い」みたいなものがありました。
特にROではそれが激しかった筈です。マビノギもそこそこせめぎあいがありまして、DOLでは「表面にはあんまり出てこないけど水面下では結構あった」というくらいの感覚でした。
この辺は、ユーザーの年齢層にもよると思います。DOLなんて結構ユーザーの年齢層高かったですからね。いい年した大人が多かった。
それでも、時には「〇〇はネカマだった!だまされた!」みたいな話が出てくることがありました。
ROなんて物凄くって、「〇〇の中身性別を推理する会」みたいなページ、私普通に見たことありますからね。
これこれこういう発言があった、これは男目線だ、いやこれは女目線っぽい、女にしてはこの生活リズムはおかしい、みたいな。「なんだよこれこわっ!!」ってなって、それで私あんまりROやらなくなったんですけど。
これ自体はおそらく、「「アバターは自分と同じ性別を選ぶもの」という、なんとなく存在する意識」が基底にあるのは間違いないと思います。
今から考えると奇異に思えるかも知れませんが、昔は「男プレイヤーだったら男キャラクターを選ぶもの」みたいな意識があったんですよ。
ROなんか、キャラクターの性別が基本「自分と同じ性別」を申告する、みたいな感じになってましたしね。それに対して、「男性が女性キャラクターを使うのは虚偽だ、よくないことだ」みたいな意識が多分あったんでしょう。
一方、「女性キャラクターを(下心ありで)ちやほやする男性プレイヤーと、それによる反動」というものがあることも間違いありません。
ゲーム内金銭を貢いだり、アイテムを貢いだり、レベル上げを手伝ったりと、男性プレイヤーが女性キャラクターに色々してあげちゃってた文化って結構あったんですよ。
中には、露骨に「実際に会って仲良くなりたい」みたいなスタンスの男性プレイヤーもいて、そういう人は「下半身直結」とか「直結くん」とか呼ばれていました。
懐かしいですね。
タイトルによっては「ゲーム内結婚」みたいな文化もありまして、「仲良くなった女性キャラクターの中身が男だったらショック」みたいな意識が、同じく「ネカマ警戒」に繋がった側面はおそらくあるのだろうと。そんな風に思います。
白状しますと、私も一時期、MMORPGにおけるネカマをやっていたことはありますし、当時実地で学んだ「ネカマのノウハウ」みたいなものは相当多岐にわたっているんですが。
まあ、この話はいずれまた別の機会にしようと思います。してどうするんだって話でもありますが。
いつの頃からか、この「ネカマに対する警戒感」というような風土は、だんだんと薄れていきました。というか、あまり「ネカマ」というもの自体が強く意識はされなくなっていきました。
女性キャラクターだからといって、中身が女性かどうか勘ぐられることはなくなってきた。いや、全くないわけではないのかも知れませんが。
つまり、「キャラクターと、その中身を不要に結び付けない」「中身とキャラクターを分けて楽しむ」文化が、20年近くのweb時代を経てようやく醸成されたという、そういう側面がおそらくあるのではないかと。
MMORPGにおけるペルソナの性別の解放。
私は、そう考えているのです。
おそらくこれには、複数の要素が絡んでいるのだろうと考えます。思いつくところを幾つか挙げるとすれば、
・アバターというものが一般的になり、キャラクターの性別と自分のキャラクターを合わせることが前提ではなくなった
・単純に女性キャラクターや女性プレイヤーが増え、ただ女性であるというだけでは珍しくなくなってきた
・skypeなどのボイスチャットが普及して、実生活含めてガチで騙すことはネカマにとって難しくなってきた
・MMORPGを題材とした創作や情報共有が増え、男性が女性キャラクターを操る設定が一般的になった
あと、もしかすると、いわゆる「男の娘」のような、「一見女性に見える男性キャラクターの普及」の影響というものも多少はあるのかも知れません。
一方、グラブルのカリオストロのような、もろに「中身がおっさんの美少女」みたいな人気キャラクターも今では存在しますね。
つまり、ネカマを過度に警戒する時代は終わり、「中の人(の性別)とキャラクターを、完全に切り分けて考える、切り分けて楽しむ」という風土がようやく出来上がったのかなあ、と。
今のバーチャルyoutuberという文化をみていると、時代が変わったものだなあ、と。
そういう「中身とキャラクターを切り分けて楽しむ」という文化の、一つの到達点のように思えるんです。
タイピングの癖まで作って、「パソコンに不慣れな女の子が、だんだん操作に手慣れていく」という過程を演出した、あのネカマ研究の日々も、実はそう無駄なものではなかったのかも知れないと。
そんな風に、感慨深く思ったわけなのです。
今日書きたいことはそれくらいです。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo:Oleg Sklyanchuk)