仕事で自己実現できそうにない凡人は、いったい何を仕事に求めるべきなのか –Books&Apps
残念ながら僕もあなたも凡人だ。もっと詳細にいうと、残り大勢の69.999…億人に位置する平凡な存在だ。
平凡な存在である私達は、残念ながら偉大な事なんて成し遂げられない。とはいえ成すべき使命がないという事は決して悪いことではない。
私達凡人は、偉人と違って運命に全く縛り付けられておらず、それゆえに自由である。
その自由を使って最大の幸福を手にいれるのが、私達凡人に残された人生の課題だろう。
リンク先には、偉人になりきれない平凡な人生のなかで幸福を掴むためのヒントが書かれている。ちょっと長い文章だが、自分自身の幸福について考えたい人なら一読してみると良いように思う。
それにしても、自由を使って最大の幸福を手に入れるっていうのも、それはそれで簡単ではない。
ちょうど正月明けの頃、私は家内からこんな言葉を聞いた
──「これからの世の中は、自分が何をやりたいのかハッキリわかっていないと幸せになれないんじゃないの?」
バブル景気が崩壊するぐらいまでの日本社会には「なんとなく良い高校を目指し、なんとなく良い大学に入って、なんとなく一流企業に入る」ことが幸福へのショートカットだと思い込んでいる人がたくさんいた。
社会構造が安定していて、みんなが求める幸福の姿やライフスタイルが多様化していなかった頃ならば、最大多数がほどほど満足していそうな生活を目指すのも”幸福のどんぶり勘定”として悪いものではなかっただろう。
しかし現在はそうではない。「なんとなく~」的な幸福のテンプレートは、およそ通用するものではなくなった。
一流企業に入ったからといって働き続けられるとは限らないし、かりに働き続けられるとしても、幸福どころか、安定すら約束されているわけではない。
そのことを、いまどきの若い人はよく知っている。
もちろん、学歴や職歴を手に入れたほうが有利な一面はしっかり残っているし、幸福の物質的側面とお金は切っても切れない関係にある。
しかし、そういったものが幸福の決定打となるわけではないことは、高学歴・高収入にも関わらず不満な顔をしている人達や、それほどのステータスや収入がなくても楽しくバーベキューをしている人達をみれば一目瞭然である。
「幸福に必要な物事の優先順位」がわかっていない人が多い
世の中には、自分の幸福についてよくわかっている人と、ほとんどわかっていない人がいる。
たとえば、「あなたが幸福になるために必要な物事は何ですか」と問われたとき、あなたはちゃんと答えられるだろうか?
「有名になりたい」
「良い相手と結婚したい」
といった抽象的な回答をする人もいるだろうし、
「歴史小説を書いて食っていけるようになりたい」
「年収いくらの夫と結婚したい」
「北欧製の家具に囲まれた暮らしがしたい」
といった、もう少し込み入った回答する人もいるかもしれない。
なかには、Amazonの欲しいものリストをそのままよこす人もいるだろう。
しかし、どれほど具体的に列挙できたとしても、幸福になるために必要な物事の優先順位について具体的に思い描ける人は決して多くは無い。
・あなたは、知名度を得ることと、歴史小説家になることの、どちらを優先させますか?
・あなたは、夫の付き合いやすさと年収の、どちらを優先させますか?
こんな風に優先順位を問われたとき、すぐに回答できない人は、自分の幸福についてよくわかっているとは言えない。
人間の欲求には果てが無く、幸福になるために必要なものをあれこれリストアップしていくときりがない。
他方で、人間のリソースは有限で、手に入れられるものにも限界がある。
だから、あっちもこっちも欲張って欲しがってばかりいる人は、本当に欲しいものが手に入らなくなったり、欲しがり過ぎて欲求不満になってしまったりする可能性が高い。
たとえば見習い小説家のもとに、有名になるか歴史小説家になるか、どちらか一方だけなら実現できそうなチャンスが舞い込んできた時、両方を漠然と欲しがっていれば、決断をし損ねるか、なんとか決断したとしても両方が手に入らないことに不満を抱いてしまうだろう。
どちらか一方にプライオリティをはっきり見出していたなら、優先して手に入れたものを喜ぶとともに、諦めざるを得なかったものにも納得がゆく。
結婚についても同様だ。付き合いやすい夫と年収の高い夫。
どちらか一方なら何とかなるチャンスが到来しても、両方を漠然と欲しがっている女性は、決断をし損ねるか、なんとか決断したとしても夫が両方を兼ね備えていないことに不満を抱き、欠けているほうの理由で夫を責めてしまうだろう。
対して、付き合いやすさか年収かのどちらかにプライオリティをはっきり見出している女性なら、夫の資質に感謝するとともに、夫に欠けている部分を自分で補うべく率先して行動できよう。
こんな具合に、幸福の優先順位がつけられない人は、決断し損ねるリスクが高いばかりでなく、漫然とあれこれ欲しがるせいで不満も感じやすく、諦めなければならないものへの対処も後手に回ってしまいやすい。
「幸福の優先順位がつけられない人は、諦めるのが下手」、とも言い換えられるかもしれない。
自分の幸福に必要なものに優先順位をつけられず、一番のために二番三番を諦めきれない人は、自分の幸福についてわかっていないも同然である。
「幸福に必要なものへのアプローチ」がわかっていない人も多い
そのうえ、幸福に必要なものに対するアプローチがまるでわかっていない人もたくさんいる。
たとえば、「有名になりたい」を最優先とみなしている人は世の中に少なくないけれども、自分が有名になるためにどのようなルートが想定できて、そのために自分に何ができるのかを具体的に述べられる人は、それほど多くない。
いまどきはネットで個人配信が盛んに行われる時代だから、アプローチさえ適切なら、多少なりとも有名になれるチャンスはそれなりあるだろう。
ただし、有名になるために利用できるルートやリソースは個人によってまちまちなので、アプローチが不適切ではうまくいかない。
実社会で肩書きを持っている人と持っていない人、見た目が若くて美しい人とそうでない人、リアルが充実している人とそうでない人では、有名になるための最適戦略はだいぶ違う。
見た目に自信が無い人やトークに自信が無い人は、顔出しYouTuberを目指すべきではないかもしれない。
あるいは、学歴や文化資本に恵まれていない人が小説家や批評家として有名になろうとするのも難易度が高めだ。
もしあなたが、「有名になりたい」が幸福の最優先課題だとみなしているなら、自分のリソースをよく踏まえて、一番良さそうなルートで目指さなければならない。
婚活にしても同じで、自分にとってプライオリティの高い要素を持った異性が少ない場所でパートナー探しを続けていては、見つかる相手も見つからない。
優先順位の高い要素を持った異性の生息エリアや生態をちゃんと把握し、そこに自分自身の資質も考えに入れたアプローチを積み上げていかなければ空回りになってしまうだろう。
「自分の幸福がわかる人=幸福の優先順位とアプローチもわかっている人」
とどのつまり、自分の幸福が本当にわかっていて、それを実現できる人とは、「幸福の優先順位がわかっていて、しかも優先順位の高い幸福の要素へのアプローチもわかっている人」ということになる。
世の中には、うすらぼんやりと「幸福になりたい」と思っている人のほうがたぶん多く、そうした人々は、幸福の優先順位もアプローチもほとんど意識していない。
彼らの願いが偽物というわけでもあるまいが、優先順位やアプローチを伴わない幸福願望は、自分の意志では実現困難で、運任せにならざるを得ない。
なかには、うすらぼんやりとした「幸福になりたい」が幸運によって叶ってしまうこともあるだろう。だが、一時的に叶ったとしても、そういう幸福が長続きするとは考えにくい。
なぜなら、自分が手に入れた幸福に対してプライオリティもアプローチも欠いているようでは、せっかく手にしたそれを、自分の力で守り続けることが困難だからである。
冒頭リンク先にもあったように、私達は自由に幸福を追求することができる。
しかし、いやだからこそ、自分が追求する幸福とは一体何で、どのようにアプローチできるものなのかを自分自身で知っておかなければならない。
宿命や運命に縛られなくて良い今という時代だからこそ、個人の幸不幸は、自分自身の幸福がわかっている度合いによって大きく左右されることだろう。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)など。
twitter:@twit_shirokuma ブログ:『シロクマの屑籠』
(Photo:Carmela Nava)