「みんなが納得する人事評価」はあるのか、と問われたら、「ない」と回答する人が圧倒的に多いだろう。

これは、プロの人事であっても例外ではない。それほど人の評価は難しい。

というのも、口当たりの良い「平等」と企業内部における「評価」は相反するからだ。評価は差異をつけるためのものであり、それは不満の種になる。

 

だから、中には割り切ったことを言う方も数多くいる。

例えば、Googleの人事だった、ラズロ・ボックはその著書でこのように主張している。

なぜ企業は、最も優秀で最も可能性のある社員が辞めるような仕組みをつくるのか。その理由は、公平の概念を誤解していることと、社員と誠実に向き合う勇気がないことだ。

報酬の公平性とは、同じレベルの仕事をするすべての人に同じ金額を払うことでも、全員をプラスマイナス20%の範囲に収めることでもない。公平な報酬とは、報酬がその人の貢献と釣り合っているということだ。

グーグルのアラン・ユースタス上級副社長に言わせれば、一流のエンジニアは平均的なエンジニアの300倍の価値がある(第3章を参照)。

ビル・ゲイツはさらに過激で、「優秀な旋盤工の賃金は平均的な旋盤工の数倍だが、優秀なソフトウェア・プログラマーは平均的なプログラマーの1万倍の価値がある」と言っている。

ソフトウェア・エンジニアの価値の幅はほかの仕事より広いかもしれないが、優秀な経理担当者は、平均的な担当者の100倍とはいかないとしても34倍の価値はあるはずだ。

つまり、彼らの考える評価は、「平等」ではなく「極端な差異」に基づくものである。

 

実際、知識労働者の業績の殆どは、一部のスーパースターが出し、後の大多数は「平均以下」のことしかできないとラズロ・ボックは言う。

例えば、優れた科学技術論文の殆どは、一部の学者によるものであり、優れた政策は一部の議員によって実現される。

つまり、一部のスーパースターと、多くの凡人。それが世の中の真実であるならば、「人事評価もそうあるべき」と考える人がいるのも頷けるだろう。

 

だが、それが事実だとしても「ずば抜けて高い報酬をもらえる同僚」の存在に、心から納得できる人はやはり少ないだろう。

ラズロ・ボックも次のように述べている。

報酬の極端な分布には正当性が必要だ。

報酬制度の基本的な仕組みを社員に説明できず、最高レベルを目指してパフォーマンスを向上させる具体的な方法を教えられなければ、嫉妬と恨みの文化が広がるだろう。

ほとんどの企業がべき分布の報酬システムを導入しない理由はここにあるのだろう。同じ業務で報酬に2倍、ときには10倍の差がつく仕組みを維持することは、確かに大変だ。

しかし、彼らでさえも、なおこのように言っている。

「わたしたちが10年かけて学んだのは、報奨の内容と同じくらい、報奨の決め方が重要だということだ

 

人は金だけでは動かない。

「評価がどのように行われたのか」を知ることが人にとっては重要であり、「評価の手続き」こそが意味を持つことが数多くある。

 

会社が成長すると「評価制度」をアップデートする必要がある。

ソウルドアウト社は現在、その「報奨の決め方=評価制度」をアップデートしている最中だ。

現在では上場を果たし、社員の人数が7、80名から200名まで増え、また新卒採用比率が高い時代から、一定の新卒、中途の採用へ組織機能分化も進み、組織のハブたるマネジメントの重要性が高まるステージとなったからだ。

 

取締役の本田氏は、次のように述べる。

「以前の制度では、評価の要件を丁寧すぎるくらいに、明確に定めていた。しかし、会社が成長し人が増え、枠に収まらない役割の人が増えてきている。

また、「丁寧すぎる基準」が、マネジャーの人事に関する裁量を制限し、マネジャーの成長の機会を奪う可能性があるので、アップデートの必要性を感じた。」

本田氏:

評価制度で最も難しいのは、やはり「運用」です。

特に、なぜこのような評価制度になったのかを皆が「納得できる」ためには、制度の理解が必要です。そのため、我々は評価者皆が参加して行う「ワークショップ」の場を設ける予定でおり、その場で

「評価者のトレーニング」

「理解の促進」

「改善要望の吸い上げ」

の3つをを行います。

特に、我々がその中で重視しているのは次の4点です。

 

1.評価は「良い」「悪い」を伝えることではない。

一般的に評価は「良い」「悪い」を伝える場であると考えられていますが、我々はそう考えてはいません。

実際の運用は「評価の良し悪し」を伝えるのではなく、「客観的な情報」を与えて指摘するにとどめます。

良し悪しを考えるのは、実は本人です。

 

「あなたの評価は悪い」と伝えるのは簡単です。

でも、伝えられた側はそれでは納得しないでしょう。理由がわからないからです。

しかし「客観的な情報」に基づく数値を見せ、「ここは改善の必要がある」「ここのパフォーマンスは期待を下回る」と指摘されればどうでしょう。

 

ピーター・ドラッカーは、「目標による自己管理」を目標管理の中核に据えていますが、我々が目指すところもそこにあります。

「評価の納得感」を無理やり演出する必要は無いのです。

 

2.人事評価制度は「賛同」と「批判」をオープンにする

前述しましたが、1.を確実に運用するためには、「制度の意図」を評価者が共有している必要があります。

「どのような意図でパフォーマンスの基準が定められているか」

「なぜこのKPIが採用されているのか」

「どういった行動が評価を下げてしまうか」

そういった情報がオープンにされてこそ、皆が納得してこの制度を運用できるのです。

ですから、我々は「オープンな場=ワークショップ」で、この制度への賛同も批判も洗いざらい出し尽くし、その議論をもとに制度を運用することにしています。

 

3.副業は推奨

弊社は「クラウドソーシング」のグループ会社を持っています。

社員にそこへの登録を促したこともあり、弊社は「副業を推奨」する方向に舵を切っています。

もちろん、本業と競合するような副業は禁止していますが、基本的にそれ以外の縛りはありません。

 

これは、社員に「学ぶこと」は座学のみならず、実践とその振り返りも含めて、自分で行うことで初めて学びが活かせるものと考えているからです。

例えば実際、ECサイトを運営する社員がいます。

弊社のクライアントにはECサイトの運営事業者様が多いのですが、広告運用を行おうとするクライアントの気持ちもより深く理解できるでしょう。

 

4.給料を下げる人事はご法度

人が増えてくると、どうしても「成果が上がっていない社員」への懲罰的な評価を求める人が増えてきます。

「あいつは成果を出していないので給料を下げろ」

「昔はすごかったけど、今はいまいちなので、彼はもらいすぎだと思う」

「彼は仕事ができないのに、古株だから給料は高い」

といった発言に代表されるような事象です。

 

しかし、我々は今のところ「給料を下げる人事」については慎重な態度を取ることにしています。

現状のように、会社が成長を続けている時代には、「マイナスの評価」を誰につけるかより、「プラスの評価」を誰につけるかに時間を投じたほうが遥かに生産的だからです。

 

もし我々が今後、成熟企業になり、成長率も並になったときには、もしかしたらその必要があるかもしれません。

ですが現在は「評価の低い人」についても、給料をいじったりすることはせず、異動で解決すれば良いと考えています。

「権限は変える。お金はそのまま。」が原則です。

 

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(Photo:tokyoform)