いじめが何で起きるのか、考えた事があるだろか。
実はいじめがおきる理由は既に専門家によって解明されている。
もったいぶらずに答えを言ってしまうと「閉鎖された空間に人間を密集させると、人は人をいじめるようになる」のである。
これがいじめ問題の本質であり、この事は私達に多くの学びを与えてくれる。
私達は1人1人が自由意志を持っていると思いがちだけど、実は置かれた環境でいかようにも変化する。
特に大切なのが人と人との間の距離感と、置かれた場所が閉鎖された環境か開かれた環境なのかの違いだ。
これらの事をしっかり理解する事は、人生というゲームを生きるにあたって非常に有益な知見を私達に与えてくれる。
というわけで今回は、人間がいかに置かれた距離で豹変するかについて様々な角度から検証していく事にしよう。
怪物になる子供達
一つ事例をあげよう。「ジャンプいじめレポート」に載せられた、あるイジメ加害者側だった19歳女性の声である。
この方は小学校6年生の時に、同級生の男の子と女の子をクラス全員でいじめ、女子を自殺未遂にまで追い込んだ経験があるとのことだけど、彼女は当時の事を振り返りこう語っている。
「冷たいようですが、彼等の事をかわいそうと思った事は、一度もありませんでした」
「もちろん今では当時の事を深く反省しています。暮らしの他のみんなも、私と同じ気持ちでしょう」
「なんであんな事をやったんだろうと不思議な気持ちです」
参考文献:
これを読んで「やはりいじめる側の精神構造がおかしいからこんなことがおきるのでは?」と思う人もいるかもしれない。
けど本当の問題はそこにはない。1番の問題は、子供を閉鎖された空間に、圧縮させる事にある。
実はこれは大人でもほぼ同様のことが起きることが確認されている。
人間は、外の世界から断絶された極度に狭い一ヶ所に閉じ込められて、距離をとることができない集団生活をさせられると、ひどく残虐な行為をする傾向があるのだ。
かつてアメリカの心理学者であるフィリップ・ジンバルドーが行ったスタンフォード監獄実験という有名な実験がある。
ジンバルドーは新聞で公募したアメリカとカナダの中流家庭出身の「十分に分別があり、情緒的に安定した、正常で、知的な」男子大学生24人をスタンフォード大学地下の実験室に閉じ込めた。
そして半数に看守役を、半数に囚人役を割りあて、2週間の時をすごさせるという実験を行った。
驚くべきことに実験は終了を待たず、6日で中止される事となった。当初は被験者達は人間味のある振る舞いをしていたようだが、時間がたつにつれてどんどん現実と与えられた役割の境目がわからなくなっていったのである。
その結果、看守役の被験者たちは囚人役の人間を動物のように扱うようになったのだという。
「十分に分別があり、情緒的に安定した、正常で、知的な」大学生ですら、閉鎖空間に幽閉されると、たったの6日たっただけで、ガチで人を人とも思わぬ扱いをするようになるのである。
閉鎖空間という環境は、人から人間性を容易に奪い去るのだ。
実は学校生活というのは、子供達に物凄いストレスを与えることが知られている。これまで何の縁もなかった赤の他人と一ヶ所に集められ、長時間にわたって集団生活を行わせられる。
おまけにそこでは授業という個人の能力差を無視した集団学習に強制的に集中させられ、おまけに刑務所や軍隊のような集団摂食を強要されたり、班活動というグループを組まされ、掃除などの強制労働に従事される。
こんな高ストレスな状況下にさらされれば、子供の中に「看守役」と「囚人役」が現れ始めるのは全然不思議でもなんでもない。
こうして、自然状態でスタンフォード監獄実験のような環境下に置かれた子供達は、徐々に怪物化してゆき、冒頭のジャンプいじめレポートで告解してくれた女性のような心理になってゆくのである。
参考文献:
いじめは個人の問題ではなく、置かれた環境の問題なのである。
いじめの解決方法
この事を踏まえて、いじめ研究の第一人者である内藤朝雄氏はいじめの解決方法をシンプルに提示されている。
いじめが閉鎖された環境下で子供達を密集させるから生じるのだから、この2点を撤廃すればいじめの発生率は相当に下がることが予期される。
なら学校という閉鎖環境をぶっ壊し、キチンと民法・刑法が及ぶ環境にした上で、かつての寺子屋のように個々人の能力にあった形で、自分の所属する場所を自分で選べるようにすればよいというのである。
実は、このいじめ問題と似た構図は実は様々な場所に見出すことができる。
例えば直近では角界の暴力問題が話題になった。
貴乃花親方は弟子の貴ノ岩が暴行事件で被害を受けた際、日本相撲協会を通さずに直接警察に被害届を提出したことで大問題となった。
この問題をうけて、日本相撲協会は「なんで警察より先に協会に相談しなかったのか」と怒り心頭となり、結果とじて貴乃花親方は理事を辞任する事になった。
実はこれは学校のイジメと全く同じ構図である。「なんで警察より先に協会に相談しなかったのか」の協会を先生や学校に入れ替えて読むと、実は角界で起きたことは小学生のイジメと驚くほど相似の関係にある事がわかって頂けると思う。
スタンフォード監獄実験でもわかった通り、人は閉鎖空間に置かれると、どんなに理性がある人間であれ、残虐にならざるをえなくなる。
私達も大人になって少しは賢くはなったのかもしれないけど、”置かれた距離”次第でいつだって豹変するリスクがあるのだ。
他にも職場のパワハラ・セクハラ問題も全く同じだろう。あれを一般社会でやったら、恫喝や恐喝・痴漢と何も変わりがない。けど会社という閉ざされた閉鎖空間でそれが行われると、なぜか加害者ではなく被害者が悪い事になってしまったりする。
おまけにそれを上司や会社に相談する前に、警察に相談すると、それは何故か非常に悪い事のように捉えられてしまう。
どう考えても犯罪のような行動を行ったのだから、社会的には罰せられるはずべきなのに、閉鎖された空間で行われると、なぜか”看守と囚人”の関係として捉えられるのである。
この問題が難しいのは、結局のところ人は社会的な動物であり、ある方向に特化した社会を作り出す為には閉鎖的な集団が必要であるという前提がある。
角界には確かに問題はあるかもしれないけど、相撲という競技を発達させる為には角界はなくてはならない存在だ。
同じく、会社にも確かに問題はあるのだけど、やはり仕事を行うにあたって会社はなくてはならない存在だろう。
会社という存在が切磋琢磨するからこそ、私達はその成果物を仕事の結果として得ることができ、豊かな社会で生きることが可能となっているのである。
学校だって問題はたくさんあるけども、多くの子供は比較的健全に学問を収め知恵を研鑽し、社会性を学ぶ事に成功している。
困ったことに、私達は閉鎖空間からそこそこの恩恵も受けてしまっているのである。だからこそ、この問題は一筋縄ではいかないのである。
開かれた社会と閉じた社会の両方の論理を併用していいとこ取りをする事はとても難しい。この難しい問題を解決するためには、私達が生産法の手法をそもそも根本的に見直す必要がある。
閉じた空間と開かれた空間の2つの環境を止揚し、新しい環境を生み出すよい手法はあるのだろうか。
この難しい問題の解決方法の模索について、私達は今一度、腰を据えて考える時期に来ているのかもしれない。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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