先日、日本内科学会総会に参加するために、京都に行ってきました。日帰りで。
この学会、金曜日から日曜日までの3日間が開催期間なのですが、僕みたいに京都まで新幹線を使って3~4時間くらいのところにあって、土曜日もお昼まで通常診療をしている病院で働いていると、参加できるのは日曜日だけなんですよね。
せめて、前日入りして京都の夜を満喫しようか、とも思ったのですが、京都のホテルは軒並み料金が驚くほど高いし、こちらを朝に出て日帰りする場合と比べても、学会に参加できる時間はせいぜい2~3時間しか違わない。
そうなると、もう日帰りでいいよな、と思ったわけです。
九州北部から日帰りとなると、月曜日の朝からの仕事のことも考慮し、京都に滞在できるのは、せいぜい数時間、といったところです。
参加費が1万円かかり、交通費が新幹線を使っての往復で、4万円くらい。
うーむ、学会への参加ポイントを稼ぐためだけに、せっかくの日曜日に、5万円使って京都まで往復するだけか……。
(あまりに悔しかったので、僕は京都水族館に寄ってきました)
日本内科学会には、会員が11万人いて、認定医とか専門医を維持するためには、2~3年に1回くらい総会に参加して更新に必要な単位を稼ぐといちばん効率が良いんですよ。
他の方法(地方会への参加や学会発表など)で地道に点数を稼いでいくよりはずっと。今回の僕のように、とりあえず会場で参加費を払って、数時間くらい話をきいて直帰するだけでも、もらえる単位は変わりません。
参考:学会認定専門医
まあしかし、それはそれで、むなしくもあり、「この学会参加ポイントのためだけに、5万円か……」とも思うわけです。
ただ、僕もそれなりに人生経験を積んできているので、ここで目先の5万円や京都まで行くめんどくささに負けてしまうと、将来、「あのとき、行っておけばよかった……」となることもわかっているのです。
こういうのって、ギリギリになると、「1点1万円払ってもいいから、なんとかならないものか……」という状況になりがちなわけですが、もちろん、どうにもなりません。
Amazonで欲しいゲームを予約しようと思いながら、まだ在庫がありそうだし、気が変わるかもしれないから……と逡巡しているうちに、在庫がなくなり、予約特典がつかなくなったり、かえって割高になったりする、ということが、僕はよくあるんですよね。
なんでも、余裕があると思っているうちに、やっておくに越したことはないのです。それが、やらなければならないことならば。
行くつもりだった学会に、なんらかのトラブルで行けなくなる可能性だってあります。
ネットで調べてみたのですが、この総会の公式の参加者数は見つけることができませんでした。
しかしながら、認定医や専門医を維持するための条件を満たすため、11万人が2~3年間隔くらいで参加する、という仮定に基づくと、会期の3日間で2~3万人くらいは毎年参加しているのではないか、と推測されます。
その中には今回の僕のように、「遠方からやってきて、会場にはごく短い時間しかいることができず、トンボ帰り」という人が少なからずいるのではなかろうか。
内科のなかでも、循環器、消化器、呼吸器などさまざまなジャンルがあって、それぞれの専門分野についての最新の研究発表は、専門学会(たとえば、日本消化器病学会、とかですね)で行われることが多いのです。
内科学会というのは、あまりにも範囲が広いので、かえって、対象がぼやけてしまっている面もあります。
大きな病院のスタッフのひとりとして働いている場合は、仕事を休んで学会に参加するのが気分転換になることはあるんですよ。
入院患者さんを担当していたり、当直や当番があったりすると、こういう機会でもないと病院を離れることができないし。
学会への参加というのは、最新の知識に触れたり、自分の研究成果を発表する場であると同時に、疎遠になったしまった以前の職場の人たちや先輩・後輩と再会する場でもあります。
しかしながら、今の僕のように、それほど大きくない病院で日常業務をこなしている立場だと、平日に休みはなかなかとれないし、学会で発表する気概もない。
そういう立場になってみると、この「あまりに大きすぎる学会の総会」というのは、お金集めのためとこれまでの慣例を止められないから続いているのではないか、もうちょっとなんとかならないのだろうか、とも感じるのです。
参加費の1万円というのは、学会にとっての貴重な収入源なのかもしれないし、この学会というイベントの規模を考えれば、そのくらいは経費として必要だと言われれば、異存はありません。
でも、今のインフラなら、参加費1万円は振り込みやカード払いOKにして、オンライン学会で、参加者は、観たいときに観たい発表や講演をパソコンで見られるようにできるのではなかろうか。
そうすれば、参加費の1万円は必要としても、交通費や宿泊費が不要になりますよね。
移動に使った時間で、いろんな発表をスマートフォンやパソコンで観ることもできるはず。
正直言って、スマートフォンで見られたとしても、ずっとかじりついて観る自信はあまりないのですが……
大勢の人の前で発表する、というのは、発表者にとっても貴重な経験ではありますし、集まって、懐かしい人に会えることがあるのもこういう会議の愉しみのひとつなのだ、という意見もあるのでしょう。
大きな学会に出ていると「ああ、なんか『学会』に参加している俺ってインテリっぽい!」とかいう感慨に浸ることもあるでしょう。最初のうちはとくに。
なかなか病院から離れられない医者たちが、日本のさまざまな土地を訪れる機会にもなる。
これだけの人が集まる学会では、多額のお金が落ちるから、開催地や広告代理店にとっては、大きなビジネスなのだろうと思います。
とはいえ、この学会の参加者のなかでも、今の僕のような、日曜日しか休めず、京都まで参加ポイントをゲットするために一日かけて往復するだけ、という人間にとっては、「上納金をおさめるためだけに参加して交通費や宿泊費もかかるのはつらい」のです。
「参加費を同じように払えば、オンライン参加でもOK」なら、移動時間も交通費も宿泊費も節約できるのに。
学会そのものに参加できる時間が短くても、そこで観光をしたり、地元のおいしい食べ物を味わったりすることができれば良いのだろうけど、「受付をして、ちょっと会場の様子をみて帰ってくるだけ」だものなあ。
仕事の出張というのは、そういうもの、なのかもしれないけれど、自分がいてもいなくても関係なさそうな会議のために、九州から京都まで出張する人もあまりいないはず。そもそも交通費は自費だし。
もう少し規模が小さい、内科の中でもそれぞれの専門学会であれば(それでも「大きすぎる総会」はあるのですが)、自分の専門知識をアップデートする効率も良いし、(良くも悪くも)知り合いに会う可能性も高まります。
どのくらいの規模までが、直接人が集まるのに適切なのか、というのは難しい問題ではあるんですけどね。
これまでは、「会員に足を運んでもらう」という選択肢しかなかったのが、現在では、オンラインという手段があるのです。
学会アプリをダウンロードして、スマートフォンで発表や講演をみられるようにすればいいし、なんだったら、『ニコニコ動画』とかで放送しても良いのではなかろうか。
「そういうことができるようになった時代」だからこそ、なんとかならないものか、と考えてしまうところもあるのです。
同じ学会の会員のなかでも、立場による温度差はあるでしょうし、これまで毎年開かれきたこの大きなイベントをやめる、というのは、難しいことなのでしょうね。
人が集まることによる熱気や化学反応、みたいなものもあるでしょう。
オンラインでの学会発表のときに、荒らしコメントとかつけられたら困りそうだし。
医学の世界だけではなく、さまざまな学会や人が集まるイベントで、「こういう時代だからこそ、人間が集まって、お互いに顔を合わせることに意義があるのだ」という考えと、「そんなのは移動時間や費用を考えると無駄が多いのだから、オンラインに換えていくべきだ」という主張とのせめぎ合いが続いていくはずです。
僕はこの「あまりに規模が大きくなりすぎた学会」については、参加費は同額払うので、オンライン参加でポイントがもらえるようにならないものか、と今年は真剣に思ったのです。
参加費を払うためだけに日曜日と交通費と移動時間を使って九州から京都まで往復するのは、あまりにも勿体なかったから。
みんなこのくらいのことは考えているけれど、技術的な問題よりも、人間の側の「変えることへの不安」のほうが壁になり、なかなか変革できないのが現状なのかもしれませんね。
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【著者プロフィール】
著者:fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
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(Photo:McGyver Chang)