どの会社にも、どんなコミュニティにも一定数、「失礼な人たち」がいる。
「失礼」は抽象的な表現であり、相対的なものなので、当然、ある人が失礼と感じることが、他の人にはそうではないことがたくさんある。
だが、「失礼」は確かに存在している。
「論語」によれば、失礼というのは、慎みと敬意がない、ということである。
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例えば、インターネットではよく見かけるが、相手に「バカ」「無能」と言ってしまうのは、失礼にあたる。
同じように、誰かが間違ったことをした時に、皆の目の前で「間違っている」と批判することも、失礼な行為だ。
◆
以前、こんなことがあった。
その企業は小さなシステム開発会社で、ワンマン経営をしている社長がいた。
そして、その社長は思い込みの強いタイプで、会議でよく間違ったことを言った。
例えばこんな具合だ。
「ソフトの品質が悪いのは、仕事への思い入れが足りないからだ!」
現実的には、ソフトの品質は思い入れの問題というよりは、マネジメントの問題なのだが、社長はそう考えていなかった。
すると、普段からそういった精神論を苦々しく思っていた、若手のプロジェクト・マネジャーが言った。
「社長、精神論よりも、ちゃんとプロジェクマネジメントの手法を勉強してくださいよ。」
その場は凍りつき、社長は激昂した。
「そういう責任のすり替えが、良くないと私は言ってるんだ!!!!」
そのプロジェクト・マネジャーは社長の激昂ぶりに驚いたのか、「すみません」と謝ったので、その場は収まった。
面白いことにその後、社長はプロジェクト・マネジメントのやり方を改め、品質は向上した。
若手のプロジェクト・マネジャーの言うことに一理あるとは思ったかもしれない。
だが、その社長に「楯突いた」プロジェクト・マネジャーは、その後冷遇された。
社長は彼のことを、明らかに嫌っていた。
「小賢しい」
と言う表現が、彼の評価だった。
私はそれを見て、「失礼だと思われること」の代償を痛感した。
社長は確かに思い込みが強く、マネジメントという観点では無能だったが、彼を公然と批判することの代償は非常に大きかったのだ。
その若手のプロジェクト・マネジャーは、後に会社を去った。
◆
残念ながら「正しいこと」をそのまま伝えると、「失礼」になることも多い。
・データがこう言っています
・論理的には、こちらが正しいです
・筋が通ってないですよね
・法律違反ですよね
しかし、こういった「正しさ」を、間違っている人にぶつけても、大抵は物別れに終わる。
しかも、敵視される。
「話せばわかる」という言葉は美しいが、残念ながら、人間同士は話してもわからないのである。なぜなら、人間は失礼な人の言うことは、正しくても聞きたくない、と思うからだ。
ソクラテスが殺されてしまったのは、正しさをぶつける「失礼な人だった」からである。
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では、「間違っている人たち」とどのようにコミュニケーションを取ればよいのだろう。
話してもわからない他人と、話し合う方法はあるのだろうか。
◆
私が在籍していたコンサルティング会社で、「上司に物申す」のが非常に上手な人がいた。
彼が徹底していたのが、「相手のプライドを傷つけないこと」である。
彼は意見を言う時、相手が間違っていても、必ず「◯◯さんの言うことは正しいと思います。」とつける。
「ついでに、私の言っていることも、判断してもらえないですか?」と、相手に主導権を握らせる。
そして何より、彼は、どんな相手にでも、たとえ嫌いな上司であっても、敬意を欠かさなかった。
どんな相手でも、その人のいうことに一理を感じ取ろうとする、その仕草が、コミュニケーションを、成立させていた。
マネジメントの権威のドラッカーですら、「礼儀は重要」と説く。
不作法を許してはならない。若い人は礼儀を偽善として嫌う。実質が重要だとする。雨が降っているのに「グッドモーニング」というのはおかしいという。
だが、動いているものが接触すれば摩擦が起こるのが自然の法則である。
礼儀とはこの摩擦を緩和するための潤滑油である。若い人にはこれがわからない。昔は親にぴしゃりとやられたものである。
必ずしも好きになれるとは限らない者同士が共に働くには、礼儀が必要である。大義は礼儀を不要にしない。無作法は人の神経を逆なでし、消えることのない傷を残す。逆に礼儀がすべてをよい方向に変える。
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「正しさ」は、差し出し方と伴って、始めて意味を持つ。
「私の言っていることは正しいから、相手を無礼に扱っても大丈夫だろう」などとは、ゆめゆめ思ってはならない。
そのことを忘れた時、「正しさ」は単なる「傲慢」に堕ちる。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第4回テーマ 地方創生×教育
2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)
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