無料で漫画が読み放題となっていた漫画村というサイトがつい先日、閉鎖となった。

僕は漫画村というサイトを使った事はない。ただ、このサイトに関する話題を聞いた時、ついに漫画の世界も次のステージに移る段階に来たのではないかと思い、大変ワクワクした。

 

実はこの手のコンテンツ無料流用事例は、様々な分野で10年ぐらい前から多発していた。

例えば僕が高校生ぐらいの頃には、ナップスターという音楽違法ダウンロードサイトについて、アメリカで随分と問題になっていた。

欲しい音楽を検索し、ダウンロードすれば机にいながらにして、回線が許す限り無限に音楽が手に入るというちょっとビックリするような状態だった。インターネットが世界をぶっ壊す感じを肌で感じ、もの凄くワクワクしたのを今でもよく覚えている。

 

その頃、たまたま仲の良かったアメリカ人の友達にナップスターについて聞いた事があったのだけど、彼のナップスターに関する意見は、僕の考える無料で音楽が手に入るという事と重要視する事が完全に異なっており、大変に興味深かった。

 

彼曰く、ナップスターが革新的なのは無料で音楽が手に入る事ではなく、わざわざCDショップに出かけて音源を手に入れなくても、朝トーストを食べながら音楽がサクッと手に入る部分が絶妙に良かったのだという。

一度この便利さを味わってしまうと、タワーレコードに出かけてCDを買うのが時間の無駄にしか思えなくなるのだという。

 

その当時の僕は、まだCDという物質に価値を感じていたこともあり、その革新性について正しく理解できなかったのだけど、その後、徐々に彼が言っていた利点が強烈に優れている事を段々と理解し始め、身震いするほど感心したのを今でもよく覚えている。

 

利便性は何よりも勝る

実はこのアメリカ人の友人と同じく、インターネットの違法サイトを使用するのは、コンテンツをタダで利用したいという人に限らない。

家に居ながらにして好きな音楽がサクッと手に入るという利便性を重んじて、この手のツールを使っている人は結構いた。

 

これはテクノロジーの進歩によりもたらされた革命である。当たり前だけど、人は便利なものにより価値を見出す。

だから、ナップスターを道徳や法律で攻撃するのは大変に悪手で、実際にアメリカでも今の漫画村と同じように、ナップスターはその後、司法の攻撃を受けてとてつもない社会問題へと発展していった。

 

「このままでは音楽業界は駄目になる」

当時の業界関係者は、これを何度も何度も繰り返していた。

 

しかし現状ではどうだろうか?音楽業界は、駄目になるどころか、ピンピンしている。

この音楽業界の健全化に一役買ったのは、そう、かの有名なiTunesである。

スティーブ・ジョブズ率いるアップル軍団は、消費者に道徳とか法律で古臭いやり方を押し付けても、世の中が何も変わらないという事を実によく熟知していた。

 

それを理解した上でiTunesが何をしたかというと、ナップスターより便利でクールなツールを提供したのである。

考えてみれば当然だけど、そもそも音楽というコンテンツを一番始めに持っているのはクリエイターである。だから、はじめにどこから配信されるかを決定できるのは、当然クリエイターと配給サイドである。

 

当然だけど、クリエイターはあくまで高品質な作品を消費者に提供するのが仕事だ。

じゃあ配給サイドの仕事が何かと言うと、消費者に、気持ちよく課金させる道を整備して、その上で消費者に違法サイトよりも便利なものを提供する事に他ならない。

 

だからナップスターが出た時に、法律とか道徳心でテクノロジーを攻撃するのは、どう考えても配給サイドの怠慢に他ならないのである。

どんな違法コンテンツであれ、配給の大元にはなれないというディスアドバンテージは動かしがたいのだから、配給サイドがキチンと対応すれば勝てないはずはないのである。

 

もちろんというか、このテクノロジーの進歩で煽りを食らう人は当然いる。

アメリカでは結局、iTunesが出たことでタワーレコードの実店舗は全店閉鎖した。

 

とまあナップスターの歴史をおさらいしたのだけど、ここまで書いて頭のよい読者ならもう気がついたはずだ。

「あれ?ナップスターと漫画村って、同じじゃない?」

実は漫画村の事例は、15年遅れで音楽業界がたどってきた歴史の繰り返しなのである。

 

クールな集金方法を生み出した奴が勝つ

コンテンツ業界では、お金をどう集金するのかという事で昔から随分と頭を悩ませてきた。

例えば深夜アニメというコンテンツがある。オリジナリティあふれる、コンテンツとして非常に優れたものの多い深夜アニメだけど、制作費用がいくらかかるかご存知だろうか?

 

その額、なんと1話につき1000万~2000万が平均的な相場なのだという。深夜アニメは1クールで12話だから、なんと普通に放送するだけで1億円は予算が飛んでしまう事になる。こんな金額、果たしてどうやったら回収できるのだろうか?

 

とまあこんな事もあり、深夜アニメは放送終了後にバカ高いDVDを売るなどして、なんとか頑張ってきたわけだけど、やっぱり収益の改善は全然見込める事無く、アニメーターの労働環境ならびに給与体系は実に悲惨なものであった。

ちなみにアニメーターの月給だけど、僕が聞いた中では最低で一ヶ月4万円というものすらあった。

 

ただここで念を推しておきたいこととして、深夜アニメ自体の出来は非常によいものが多いのである。

ただ、そのクオリティーに見合う収益ルートだけが、どうしても見込めなかったという事が唯一ともいっていい問題だったのだ。

 

この長らく解決不可能とすらいわれていた問題だけど、実は最近になって解決の兆しがみえてきた。月額動画配信サービスである。代表的なものとして、ネットフリックスやAmazonプライムなどがあげられる。

 

そもそも、深夜アニメは視聴する事自体が非常に面倒くさかった。たまたま予約する事を忘れたり、深夜の野球の延長放送とかで放送時間が後ろ倒しされてしまったりとかで、コンテンツをキチンと楽しむ事自体がかつては非常に不便だった。

 

しかし今では、ネットを使えば配給されたら好きな時間に好きな場所でそれを楽しむ事ができるようになった。

この極めて優れた利便性により、視聴者はこれらのコンテンツに月額課金を全くいとわなくなったし、それにより動画コンテンツの収益性は非常に効率化され、結果としてアニメーターの労働環境は以前と比較して、だいぶ改善傾向にあるという。

 

テクノロジーの進歩に伴い、世の中の利便性は格段に向上している。

なら、コンテンツの胴元は、この利便性を最大限に活用できる形で、消費者が気持ちよく払える金額を支払わせる事ができれば、それこそコンテンツクリエイターと消費者との間でWin-Winの関係が構築できるのである。

 

つまり、クールな集金システムを作る事ができさえすれば、もはや圧倒的に勝ちなのだ。

 

今後のコンテンツの未来

それとともに、今後どういった事がおきるかという事も簡単に予期できる。

今の段階では、集金システムが全然不整備だけど、今後、クールな集金システムの手法はどんどん確立されていくだろう。

 

となると、次に起こるのは間違いなくコンテンツの囲い込みである。既に音楽はiTunesが、動画はネットフリックスやAmazonプライムが、書籍はKindleがコンテンツの囲い込みをほとんど確立させつつある。

ではまだ囲い込みがなされていない、未整備なコンテンツ分野はどこか。それをみつける事ができた時、あなたの元に無限の富がもたらされるかもしれない。

 

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

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(Photo:Joi Ito