喧嘩したけれど勝てなかった話をします。
随分昔の話なんですが、責任範囲がぐっちゃぐちゃになっていた業務に関して、
「ちゃんと責任範囲の明確化をしましょう、責任分界点をきちんと決めましょう」という説得をしようとして、結局できなかったことがありました。
当時私がいた会社は、そこそこ大きな規模のSI会社でして、複数の部署で色んな開発をしていました。
請負でシステムを作る部署もあれば、パッケージ製品を開発する部署、それを販売する部署、自社のASPの保守・運用をしている部署もありました。
で、当時、web上で動作するグループウェア的なサービスがありました。
自社でも利用しているし他社にもASP利用してもらっている、そこそこ利用者の多いサービスでした。
請負で開発しているサービスに比べると、そこそこ自由にアイディアを出すことも出来、開発時期にも予算にも比較的融通が効く、面白い案件が多かったように記憶しています。
ただ、そのサービスについて、私から見て問題だなーやりにくいなーと思っていた点が何点かありまして、
・明確な管掌部署が決まっていない
・ステークホルダー(利害関係者)が妙に多い
・その為、機能追加や機能修正の際の調整やら承認やらをとるのがえらい大変
・案件の交通整理がされておらず、色んな部署が独自に案件を出していたので、あっちこっちで内容がぶつかって調整の面倒くささに拍車をかけている
・サービスのどの部分はどの部署が開発、ということも決まっていなかったので、情報共有やら要件の確認やらがえらい大変
こんな感じで、非常にカオスなことになっていたんですよ。要するに、そのサービスの「責任部署」というものが存在していなかったんです。
まあ、考えてみれば当然の話で、「元締め」がちゃんと決まってないから交通整理も出来ないし、最終承認者が決まってないんだから全員の了解をとらないといけない。
船頭が多ければ船は山に登りますが、船頭が明確に決まっていなくても滝野すずらん丘陵公園くらいには上ってしまうものなんです。
これも同じく当然のことなんですが、「このサービス誰の持ち物な」ということが決まっていないので、そのサービスに対する開発の効果検証とか、KPIの管理みたいなものもちゃんと行われていませんでした。
その機能を実装することによって誰が喜んだの?ユーザーは増えたの?減ったの?収益は上がったの?下がったの?みたいなことを管理する人が決められていなかったんです。
一つ一つのプロジェクトやチームには、それぞれちゃんと取り回しが出来る人がいましたので、全体としてシステム自体がスパゲティで崩壊寸前、というところまでは行っていなかったのですが。
ただ、取り回しに無意味なパワーが大量に必要になっている状態、というのは、現場から見れば明白でした。
で、当時私のチームでも、そのwebサービスに関わる案件は何度か担当していまして。それに伴って要件調整やらとりまとめやらを私がやっていたんですが、あまりにてきとーな状況に流石にブチ切れまして。
チームリーダーには許可を取った上で、えらい人達に改善策を提案することにしたんです。
色々提案資料は作ったんですが、ざっくり要旨をまとめるとこんな感じでした。
・当該Webサービスの責任部署を決めましょう。どこもやらないんならうちのチームでやります
・要件の交通整理やKPIの管理はその部署で責任もって一括でやるようにしましょう
・開発や運用自体は他の部署でも出来るようにしましょう。ただ、その場合でも管理は責任部署が統括します
普通ですよね?なんもおかしなことは言ってない、と当時も思いました。
ところがこの提案、偉い人たちに反対されてはねられちゃったんです。
偉い人たちの論点は、簡単にまとめるとこんな感じでした。
・責任を明確にすることによって担当部署が委縮してしまうかも知れない
・「我々には責任がない」という、他部署のセクショナリズムを招いてしまいかねない
なんか噛み合ってませんよね?
当時、まだペーペーだった私には、何故こういう食い違いが起きるのか分かりませんでした。
「え?いやそういう話じゃないんだけど、なんでそうなるの?え?え?」
という感覚だった、と思います。
とはいえ、当時単なる下っ端だった私としては、偉い人たちに反対されてしまったものを突き通す程のパワーも根性もなく、チームリーダーは別の案件がプチ炎上していてフォローの手がとれず、結局改善案は立ち消え、責任範囲が不明確でカオスな状況が相変わらず続くことになりました。
皆さん、なんでこういう食い違いが発生したのかって分かりますか?
あの後も色々類似案件がありまして、今の私には、なにが食い違っていたのかってことがなんとなく分かります。
おそらく、「責任」という言葉に対してもつイメージが根本的に違ったんです。
私自身は、「責任部署」とか「責任範囲」という言葉を、「主体的に統括する人」「責任感を持って管掌する人」というようなニュアンスでしか使っていませんでした。
一方で、偉い人たちは、「何かあった時に責任を追及される、詰められる部署」というイメージでその言葉を受け取ってしまった、ように思うんです。かつ、それが明確になることによって、他部署が無責任な立ち位置になる、と思われていた節もあります。
同じ責任という言葉の、ポジティブな側面とネガティブな側面ですよね。そこでいきなりすれ違ってしまっていた。
いや、そりゃまあ、何かトラブルがあったり、KPIが達成出来なかったりしたら、それは責任部署の責任ですし、責められることもあると思いますよ。そんなもんは統括部署なんだから当たり前です。
ただ、責任範囲が明確ということは、自分が何に力を尽くせばいいかということが明確になるということでもあり、その範囲での成功はその人達の功績になる、ということでもあります。「どこまでは私の、我々の責任」っていう認識って、本来仕事の上で一番重要なことだと思うんですよ。
セクショナリズムというものだって、「なわばり根性から違いに協力しなくなる」というところから発生するものであって、別に責任範囲の明確化自体が悪いわけではありません。
「ここを統括しているのは自分」という意識は持った上で、他部署と協力することだってちゃんと出来る筈なんです。
というようなことを、今ほど明確に認識していなかったから当時は喧嘩に勝てなかったわけです。懐かしいですね。
まあ、今の私がもし昔に戻って、あの提案を通そうとするならば、そのあたりのニュアンスの違いで喧嘩するよりは、「責任」という言葉を避けて「交通整理を統括する部署」とか「ステークホルダーの範囲を限定する」みたいな言葉を使うとは思いますが。
なんにせよ、「責任」という言葉一つとっても、根本的にすれ違ってしまうことはあるんだーということと、「責任」という言葉を即「追及」という言葉と紐づけてネガティブな印象をもってしまう人もいるんだー、と学んだという話なんです。
正直、今でも「責任範囲が不明確でカオスなことになっている」という状況は、結構頻繁に目にします。
私は根っこが切り分けちゃうぞおじさんですので、そういうのを見るとつい整理したくなりますし、整理を提案します。
みなさんちゃんと、自分の責任範囲は明確にした上で仕事しようよ、という提言を、引き続き続けていきたい次第なのです。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【登壇者】
奥田 真輔 氏
システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、
メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。
岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。
【お申込み・詳細】
こちらのウェビナー申込ページをご覧ください。
【プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo:Quinn Mattingly)











