僕のメールボックスが大変なことになっている。

最近ではもっぱらGmailばかり使い、携帯会社が提供するキャリアメールを使うことがほとんどなくなった。

メールを送信することもなければメールボックスを覗くことも皆無と言って良いくらいで、完全なる無用の長物としてスマホ内に君臨している状態だ。

 

そんな状態にあってもメールアドレス自体はなかなか使い道があって、例えば怪しげなアンケートだとか怪しげな申し込み、エロいサイトの登録など、いわゆるアンダーグラウンドな香りがする場面で、「もうどうなっても構わない」という気概と共に入力することができるのだ。

別に使ってないんだから何に使われてもいい。

 

そういった怪しげな場所にドロップしたメールアドレスはいつしかさらに怪しげなサイトに売られ、そこでもさらにアンダーグラウンドな場所へと売られていく。僕のメールアドレスは大海原へと旅立ち電子の海を漂っていく。

そして、しばらくすると母なる故郷へと帰ってくる。迷惑メールという形でだ。まるで鮭のようだ。さぞかし過酷な旅路だったに違いない。

 

こうなってくると、メールボックスはそりゃもう酷いことになってくる。

1日に1000通くらい届いているんじゃないだろうかという圧倒的物量で迷惑メールが届く。たぶんけっこう通信量を圧迫していると思う。しかも微妙にエロに訴えかける猥褻なタイトルで届くので、それを眺めていると頭がおかしくなってくる。

 

一昔前は、迷惑メールといえば労力を伴う騙しであった。

夫を亡くし、巨額の遺産を手にした寂しい未亡人が「今すぐ抱いてください」とか「今すぐ抱いてください、300万円受け取ってください」とか「今すぐ抱いて300万円受け取って私のエステ店の経営をしてください」とメールを送ってくる。

 

これらに騙されて「おお、性欲も金銭欲も名誉欲も満たすことができる!」と連絡を取り合うと、1通メールを送るのに500円くらい取られる、この世に具現化した地獄、みたいな出会い系サイトに誘導されたりする。

さらには「信用するために3万円を前払いして欲しい」などと遺産5億の未亡人が3万円を要求してきたりする。結果、騙されることとなる。

ただ、決して褒められたことではないし正当化するつもりもないが、こういった詐欺には騙すまでの労力があったのだ。騙す方と騙される方の熱い魂のこもったやり取りがあったのだ。

 

しかしながら、昨今の迷惑メールにはそれがない。端的に言ってしまうと「クリックさせたら勝ち」という形態に移行してしまったのだ。

ちまちまとしたやり取りを経ることなく、とにかく爆撃のようにメールを送り、クリックさせたらあとはズガーンと「登録されました。金払え」と出る。そのうち何%かが金を払ってくれればいい、というものだ。

 

もしくは個人情報を抜かれる(少なくともどのメールアドレスに送ったアドレスがクリックされたかは分かる→生きているメールアドレスという情報が売れる)というものに変わってきているのだ。

なので、いまや迷惑メールは寂しい未亡人だけではない。クリックさえあればいいので、彼らはとんでもない姿で訪問してくるのだ。

 

これはAmazonを騙ったものだ。もし直近で何かを購入したことがあるならば、間違ってクリックしてしまう可能性がある。かなり悪質だ。

 

こちらは何らかの回線の解約を騙ったもの。引っ越しなどで回線の解約をしている最中の人がクリックするかもしれないし、いや、俺そんなもの申し込んでないぞ、とクリックしてしまうかもしれない。

 

こちらは配達に関する問い合わせを騙っている。

三菱東京UFJ銀行より。

iOSがアップデートされました。Androidにも平気で送ってくる。

 

 でもまあ、ここまではまだ耐えられる。冷静に思い返せばおかしいメールだと気づいて思い留まることができる。次からが大変だ。

ベッキーだよ。

 

君はこれに耐えられるか。ベッキーだぞ、ベッキー。こんなの耐えられないよ。ベッキーには聞いてみたいことが山ほどありますからね。アーティスト名義の時は「ベッキー♪♯」って名前だけど、その記号に何の意味があるのか、とか。こんなんクリックしてしまう。

 

「漫画ワンピース知ってるよね??この先のストーリー全部知ってるから教えてあげる!先生から直接聞いた確定情報!!もうすぐルフィが結婚するよ!」

 

というタイトル。うっそー! ルフィが結婚するの!? 珍しくURLだけじゃなくて誰から着たかも記載されている。それによると「編集部の部長の息子の友達のご近所さん」からの情報提供らしい。完全に信頼度の高い情報筋。

 とにかく、あのルフィが! 結婚! いったい誰となんだーと気が気じゃなくなってですね、ついついURLをクリックしてしまったのです。そこには衝撃の情報が書かれていました。

「ゾロと!!!

婦女子もびっくり!!!」

 

こっちもびっくり! 腐女子って書きたかったのかな。

 もちろん、こういった変わり種ばかりでなく、昔ながらのストロングスタイルなエロ誘因メールもやってくる。

 

「潮噴きながら待ってます」

 いやいや、おかしいでしょ。潮噴きって結構大変な状況ですよ。とてもじゃないがメール待つのと同時になんてやれるはずがない。 

「メールまだかなあ」(プシャーーーーー!) 

こんなの絶対におかしいですよ。涼しい顔して噴いてやがる。スマホが防水じゃなかったら大変ですよ。

 

さて、そんな中にあってどうしても気になるメールがありましたので、今日はこれをちょっと取り上げたいと思います。

醜い豚です。

 

なんてことはない、普通のエロ誘因メールだ。これを読んで「ほう、豚がメールを送ってくる時代になったか」と思う人はいない。これは間違いなくM気質で従順な女を装ってのものだ。

このメールに書かれたURLをクリックする。すると完全無欠の詐欺サイト、みたいな出会い系サイトに飛ばされた。

どうやら女性にメッセージを送るのに50ポイント必要らしい。1ポイントが10円するらしいので500円かかる計算だ。おまけに、購入は3000ポイント単位でしかできないようだ。3万円かかる。暴利もいいところだ。

 

ただ、最初に300ポイント補充されているらしい。つまり、単純計算で6回、この醜い豚にメッセージを送ることができるようだ。

こういったストロングスタイルの詐欺サイトは今やなかなか珍しい。前述したように、昨今では即座に「登録されました、金払え」とくるのでやりとりをすることはない。あまり現代風ではない、手間のかかった騙し昔懐かしい騙しといえるのだ。

 

ここはやり取りして、無駄にポイントを消費させ、3万円分のポイントを購入させるスタイルだ。

相手にしている女はサクラで、バイトのオッサンとかがやっているんだろうけど、とにかく人とやり取りすることができる。ある意味まっとうな(!?)な詐欺ともいえる。

 

なぜこの雌豚をチョイスしたかというと、こういったサイトではMを自称する女は、ある程度強引で無理がある話の展開でもついてきてくれるからだ。おそらくバイトのオッサンが連想する「Mな女」がそうなのだろう。

けっこう無茶な展開でもついてきてくれる。非常に喜ばしい。そこで僕は軽くジャブ程度にメッセージを送信してみた。

 

「この醜い豚め!」

 

ビジネスシーンにおいて、初対面の相手にこのようなメールを送ることは言語道断である。礼儀もクソもあったもんじゃない。しかし、相手は「醜い豚です」と自称している女性だ。問題ない。山田さんに山田!と言うようなものだ。

返事はすぐにやってきた。ただ、女性から送られてきたメッセージは驚愕するしかないものだった。

 

「ほらほら、どうして欲しいんだい。この醜く肥え太った豚め!

 

まさかの豚煽りである。

 豚ですとカミングアウトしていた女にこちらが豚めと送ったら、向こうからも豚めと送られてきた。

「ひいいいい豚女です。御慈悲を」みたいなオッサンが考えるM女みたいなステレオタイプな反応が返ってくると予想していたのに、まさかの展開だ。何が起こったのか分からなかった。お互いに豚豚言い合ってるなんて小学生の喧嘩じゃないか。

 

ここからは予想の範疇を出ないのだけど、おそらくこの詐欺サイトはサクラのおっさんが女のふりをして対応している。

ただ、それはこのM女だけでなく、同時に色々な人格の女性を演じる必要があるのだ。ざっと眺めてみたら同じサイトから「気の強いS女」「世間知らずの令嬢」「ハーフダンサー」と様々な属性の女性からメッセージが来ていた。

そう規模も大きくなさそうなので、一人でやっていると思う。たぶん、おっさん、何が何やら分からなくなっている。間違えてS女キャラで返信している可能性が高い。そう、あまり深く考えずに脊髄反射で返信している可能性が高いのだ。

 

ここで予想した。おっさんはもう複数の人格をさばききれなくなっている。多数の人格に呑まれて自我が崩壊しつつある。つまり、その人格に送ったっぽいメールであれば、勘違いしてそれっぽい返事が返ってくるのではないか。

 

「さすがお嬢様ですね。ドキドキしてしまいます」

 

このような返事を送った。何がドキドキしてしまうのか自分で書いていても分からないが、先ほど豚めと送ってきた相手に送る。

別の人格である「世間知らずの令嬢」をターゲットにしたメッセージだ。こう送れば勘違いして令嬢キャラで返してくるはず。すぐに返事が返ってきた。

 

「おほほほほ、そうでございますわ」

 

何がだよ。これがオッサンの中にある令嬢キャラか。

これはもう完全に取り違えている。「私は醜い豚です」から「豚め!」となって「そうでございますわ」だ。これが同一人物なのである。完全に支離滅裂な人になっている。

 

「ひいいいいい、わたくしめは醜い豚でございますう、ぶひいいいい」

 今度はこちらが豚という設定で送ってみる。すぐに返事はきた。

 

「さあ、お舐め、この醜く肥え太った資本主義の豚め!」

 いつの間にか資本主義の豚にされていた。

 

「この豚女め!とんでもねえ女だ!」

またM女の人格に送ってみた。

 

「はい、私は豚です。なんなりと命令してください」

同じ人にメッセージを送っているにクルクルと人格が変わって面白い。またお互いに豚と罵りあう展開になってしまった。残り2通しか彼女にメッセージを送ることができないので、ちょっとした問いかけを彼に送ってみる。

 

「太った豚と痩せたソクラテスどちらがいいと思う?」

この問いかけはなかなか深い。

 19世紀イギリスの経済学者、ジョン・スチュアート・ミルは幸福や快楽に質的な差異が存在すると主張した。噛み砕いて説明すると、美味しいものをいっぱい食べた、いい女を抱いた、麻薬でトリップした、ストロングゼロでいい気分、などという快楽と、不満足ながらも悩みぬいて真なる幸せを追い求めるソクラテス、どちらが質的に幸福なのかということだ。

 

 正確に原文をあたるとJ.S.ミルはこう言っている。

「満足した豚であるより、不満足な人間である方がよい。満足した愚者より、不満足なソクラテスである方がよい」

この言葉においては豚と愚者が、そして人間とソクラテスが同じ意味として使われている。目の前の快楽しか見えない豚や愚者よりも、快楽はなくとも思慮深く様々な精神活動を追求する人間やソクラテスがいい、という言葉だ。これは裏返せば快楽にも質がある、ということだろう。

 

オッサンの中のM女は自分を豚であると蔑む。オッサンの中のS女はお前は豚だと相手を蔑む。こういった自他への蔑みに最も醜く評価が低いものを使う手法は快楽の追及において一般的だ。オッサンの中で豚とは評価が低いのだ。それは同時に、自分が程度の低い豚であると無意識化で自覚していることになるのではないだろうか。

 

こういった詐欺の多くは、人間の欲望につけこんでくる。楽して大金が手に入る。楽して女を抱ける、そういった目先の欲望に狙いを定めてやってくる。豚になろうとする心に付け込んでくるのだ。

同時に、騙す方もやはり豚である。目先の金銭のために誰かを騙す。それすらも楽な方、楽な方へと移行しつつある。これが豚でなくて何が豚であるというのか。奇しくも我々が豚豚罵りあっていたのは完全に当を得ていたのだ。

 

「太った豚と痩せたソクラテスどちらがいいと思う?」

先程の問いかけには「もうこんなことはやめよう」そんな意味が込められている。

僕らだって欲望のおもむくままに美味しい話に騙されるのはやめる。君だってこんな不毛なことはやめよう。お互いにソクラテスになろうじゃないか。満足できなくても、本当に善きものを求めて生きよう、それでいいじゃないか。

 

彼から帰ってきたメッセージはこうだった。当然、ソクラテスがいいと帰ってくると思っていたが、違った。

「豚がいいかな。安いし結構おいしいし。変な肉は苦手!」

こいつ、焼肉の話だと思ってやがる!

一瞬意味が分からなかったんだけど、ソクラテスをミノとかハツとかみたいな変わった部位の名前だと思っている節がある。とんでもねえ、こいつは豚だ!肥え太った資本主義の豚だ!

 

もうしょうがねえなあと思い、そもそもどの人格で返答してるんだろうと思いつつ、そういえばまだあと1通、メールを送る権利があるし、彼の中の「ハーフのダンサー」という人格をいじってないなと思い立ち

 

「ハーフなの? 芸能人で言うと誰に似てる?」

と送っておいた。これでもうメッセージは送ることができない。これ以上送ると30000円かかるので絶対に送ることはできない。どんな魅惑的な返信があっても騙されないぞ! 俺はソクラテスだ! と念じていると、ハーフ人格から返事が返ってきましたよ。

 

「ベッキーだよ」

君はこれに耐えられるか。ベッキーだぞ、ベッキー。少なくとも僕は耐えられない。

ベッキーにはいろいろ聞いてみたい。30000円追加して色々と聞いてみたい、と葛藤する僕もやはりソクラテスにはなれず、醜く肥え太った豚なのだ。

 

 

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(2019/5/13更新)

 

 

著者名:pato

テキストサイト管理人。WinMXで流行った「お礼は三行以上」という文化と稲村亜美さんが好きなオッサン。

Numeri/多目的トイレ 

Twitter pato_numeri

 

(Photo:Thomas Hawk