若き天才棋士・藤井聡太さんの活躍をみていると、「どんなふうに育てたら、あんな天才に育つのか?」と思うのです。

 

メディアでは、藤井さんのご両親に取材したり、藤井さんが遊んでいたという、立体積み木パズル『CUBORO』が紹介されたりしていて、同じように考えている親は多いみたいです。

うちも、子供たちに『CUBORO』を!と思ってAmazonで調べたら、値段をみてびっくり、ということがありました。

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僕も子供に将棋を教えているのですが、これだけ娯楽があふれている時代だと、なかなか興味を持ってもらうのは難しいと感じます。

テレビゲームのほうが楽しい、と言われれば、それもそうかな、って思うし、将棋のようなボードゲームは、ルールを覚えたり、定跡を学んだりと、面白くなってくるまでに、少し時間がかかりますし。

 

僕は子供とゲームをするときに、いつも悩んでしまうのです。

どうやって教えればいいのか?というのとともに、ある程度真剣に勝負して、子供にとっての「超えるべき壁」になったほうが良いのか、それとも、「強いねー、負けちゃった!」と子供を上機嫌にさせるべきなのか。

 

最近、こんな話を読んだのです。

聡太は五歳の時に将棋に触れ、祖母にはすぐに勝てるようになった。

「最初の頃は単純に、勝つのがうれしかったです」

藤井聡太は、そう回想している。ここは重要なところだ。勝てば面白くなり、熱中して、さらに強くなる。

聡太は期せずして、そのサイクルに入ることができたのだ。しかし一般的に将棋は、最初に勝てるようになるまでが大変である。強い家族や友人がいて、負かされて面白くないから、すぐにやめてしまった、という例もよく聞く。

「負けてあげてください」

羽生善治は「子供に将棋を教えるコツ」を尋ねられた際には、そう繰り返し言明している。

強い親から、必ずしも強い子が育つとは限らないのが将棋である。逆にいえば、弱くて、子供に負けてしまうような親であっても、それは子供に自信と素晴らしいきっかけを与えている、ということになるだろう。

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そうか、「負けてあげていい」というか、むしろ、「負けてあげたほうがいい」のか……

 

もちろん、少しレベルが上がって、大会とかに出るようになったらそういうわけにもいかないし、周りも、わざと負けてはくれないでしょうけど、興味を持ってもらう段階では、子供をいい気分にしてあげる、というのが「きっかけ」になるのです。

 

「この試練をこえろ!」なんていうのは、親の都合であって、自分が子供だった頃は、イヤな思いをしてまで、そんなことはやりたくなかったはず。

プロ棋士になるような人は、スパルタ教育を受けてきたのではないか、と思われがちなのですが、実際はそうでもないようです。

 

藤井四段と同じように中学生でプロ棋士となった谷川浩司十七世名人も、著書『中学生棋士』(角川新書)のなかで、早熟の才能を示した中学生棋士たちの親で、「将棋が強かった人」は、渡辺明さんのお父さんくらいだったと仰っています。

藤井聡太四段のご両親は、将棋に関してはルールを知っているぐらいの初級者だ。それも子どもが夢中になったので「ルールぐらいは」と覚えたという。

私の両親もほぼ同じだった。母はルールも知らず、ルールだけは知っていた父も、ほとんど指すことはなかった。中学生で棋士になった五人のうちでは、羽生善治さんもそういう家庭に育った。

渡辺明さんだけが例外で父がアマ強豪だったが、両親がまったく将棋に縁がなくても、強くなる子は強くなる。

中学生で棋士になった者に共通することは、みんな幼いころに自ら将棋が好きになり、のめり込んだことだ。そして、子どもが夢中になったことを親が応援するという環境がほぼ共通してあった。

藤井四段の場合は、母・裕子さんが、

「子どもには好きなことをやらせよう」

「子どもが何かに集中しているときは邪魔をしない」

と決めていたという。

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僕は自分の子供とゲームをやるときに「手抜きをしたらバカにしているみたいだし、強い相手として壁になってやらねば!」なんて思っていたのですが、この羽生さんの話を読んで、「失敗したなあ……」と後悔しました。

 

そうか、負けてあげて、子供に自信をつけてあげたほうがいいのか……

弱い親のほうが、かえって子供のモチベーションを上げることが多い、というのは、何かを教えることの難しさを痛感させられる話です。

 

あらためて考えてみると、「自分の子供相手に負けたくない」というようなプライドを「子供の壁になって立ちはだかる」と言い換えているような気もします。

こういう言葉って、「羽生さんが言うからこそ、素直に受け入れられる」ものではありますね。

 

子供の興味というのを親がコントロールするのは難しいのだけれど、なるべくいろんな入り口に立たせてあげたい、とは思うのです。

結局のところ、自分から興味を持ってくれないものを、外部からの力で好きにさせて、その世界の頂点がみえるところまで持っていくというのは、難しいのでしょうね。

 

親には「伸びていく才能の邪魔をしない」「その興味の対象に打ち込めるように、環境を整えてあげる」ことくらいしかできないのだよなあ。

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

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(2025/6/2更新)

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

Twitter:@fujipon2

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