「ガリア戦記」という本がある。紀元前50年頃、今から約2000年前に、ユリウス・カエサルという人物によって書かれた書物だ。
ユリウス・カエサルについては多くの方がご存知だと思うので、多くを語る必要はないと思うが、ガリア(現在のヨーロッパ)全土を征服し、その地に文明を伝え、そしてのちのちまで続く帝政ローマの礎を築いた英雄である。
そういったこともあり、二次大戦中にイギリスの首相を務め、ノーベル賞作家でもあったウィンストン・チャーチルは、「英国の歴史は、カエサルが上陸した時に始まった」と述べているそうだ。
さて、この「ガリア戦記」だが、貴重な歴史の記録というだけではなく、文学作品としても高い評価を得ている。
遠いガリアの地から、自身の行動をマーケティングするために綴ったものと言われており、どんな人でも楽しめるよう、簡潔、平易な文体で書かれている。
また大きな特徴の一つが、カエサル自身による記述にもかかわらず、彼の行動の主語はすべて、「カエサルは~」で始まっている点だ。
例をあげよう。
”カエサルには、瞬時に処理しなければならない様々なことがあった。「武器をとれ」の合図をし、ラッパを吹かせて工事を中断させ、食料を求めて遠くへ出かけた部隊を呼び戻し、戦陣を組ませ、兵士を励まし、突撃命令を出すことである。
ところが、敵が急迫したことで、これらの大半が出来なかった。がしかし、次の2つのことがこの苦境から救ってくれた。
そのひとつは、うえからの指示がなくても、各兵士が自分がなすべきことを自分で判断できるようになっていたこと。これは、それまでの戦闘経験の賜物にほかならない。
もうひとつは、各軍団が陣地の完成まで壕にとどまっていたこと。これはカエサルの指示による。
要するに、各指揮官とも、敵の急接近を見るや、自らの判断で適時、適切な行動をとったのである。”
いかがだろうか。カエサルが行ったことが淡々と簡潔、明瞭に記述され、戦闘が克明に描かれていく。まるでプレゼンテーションか、映画を見ているようだ。また、戦闘の合間にはガリアの気候、自然の様子や現地の人々の様子などが書かれており、旅行記としての楽しみ方もできる。当時の人々にとってはさぞかし、新鮮な読み物だったに違いない。
さらに、カエサルは自画自賛になり過ぎぬよう、自身が失敗した、負けた出来事も包み隠さず、できるだけ客観的に描くように努めている。
”その夜は、偶然にも満月で、大洋では高潮の日にあたっていた。我々はこのことを知らなかった。
そのため、舞台の輸送に備えて陸揚げしていた軍船が浸水し、錨につないでいた沖の荷船も荒波に翻弄された。これを救おうにも、我々には為す術がなかった。
かくして、多くの船が難破し、残りの船も、綱や錨を始め、すべての索具を失って、航行不能となった。全軍に驚愕が走ったことは、言うまでもない。
もはや帰るにも他に船がなく、修理に必要なものすべてが不足し、そのうえ、冬はガリアで越すつもりでいたので、冬営のための食料をここでは確保していなかったからである”
これからどうなるのだろう、と続きが気になる展開だ。読む人を強く惹きつける。
同時代の政治家であり、ライバルでもあったキケロは、この記録を絶賛し、
「これに不要な装飾を施して満足するような輩ならともかく、然るべき人士であれば、おそらく、誰もこれに手を加えようとは思わないだろう」
と述べている。
また、小林秀雄も「初めて、この有名な戦記が通読できた。すこしばかり読み進むと、もう一切を忘れ、一気呵成に読み終えた。それほど面白かった」と評している。
歴史物、戦記ものが好きな方には、とてもおすすめの本である。なお、岩波から出ているガリア戦記は若干読みづらいので、読むのであれば
PHP出版の「新訳 ガリア戦記」がオススメである。巻頭にローマの状況や、カエサルという人物についての解説などがついており、ガリア戦記を初めて読む方に前知識を与えてくれる。
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