コンサルタントをやっていたころ、「議論」を見る機会がよくあった。

 

「見る」といったのは、私が議論に参加することは殆どなかったからだ。

というのも、コンサルティングには

「お客さんとは絶対に議論するな。お客さん同士で議論してもらえ」

という原則があり、私はそれを忠実に守ったのである。

 

そのため私は、第三者として、様々な会社で、多くの議論を見る機会に恵まれた。

そこで一つ気づいたことがある。

「議論のうまい人」と「議論がへたな人」は、非常にはっきりと分かれるのだ。

 

「議論」とは何か

当然、人によって議論に抱くイメージは異なるだろうから、まずハッキリとさせておかなければならないのが、「議論」の定義だ。

広辞苑にはこのように書かれている。

【議論】

互いに自分の説を述べ合い、論じ合うこと。意見を戦わせること。またその内容。

(広辞苑第六版)

私が見てきた議論の殆どは会議やディスカッションなど、

「複数の人が議題について意見し、他者を説得し合う行為」

だったため、殆どのこの定義に当てはまる。

 

具体的には、議論は「会議」「意見交換会」「勉強会」など、様々な場所で起こり得る。

 

では「議論のうまい人」はどのような特長を備えているのだろうか。

 

1.議論のうまい人は、「勝ち」「負け」を気にしない。

もっとも重要な原則のうちの一つは、議論のうまいひとは「勝ち負け」をほとんど気にしない、という事実である。

彼らは自分の言い分が否定されても、ほとんど意に介さない。

なぜなら、彼らの目的は「議論に勝つ」ことではなく「自分の知力を見せつけること」でもなく、「議論をすることで、良いアイデアを出すこと」だからだ。

 

したがって、彼らの発言には必然的に

「そういう見方もあるんですね」

「気づきませんでした」

「理由を教えて下さい」

「それはもっといいですね」

と、相手の発言を利用して、もっと良いアイデアを探ろう、という意図が見受けられる。

 

また、彼らはどんなにイマイチに見える意見に対しても、「何をバカな」という態度は取らず、「なぜ彼がそのような発言をしたのか」という背景を探ろうとする。

彼らはそれが結果として「卓越したアイデア」に繋がる可能性を高めることを知っているからだ。

 

2.議論のうまい人は、「事実」からスタートする

私の同僚に、めっぽう議論の上手い人がいたが、彼は常に「事実の確認」から議論をスタートさせた。

 

例えば次のような発言である。

「まず、クレームがここ半年で増えている、と言うのは事実ですか?どの程度増えているんですか?」

「若手の営業の力量が低い、というのは何を根拠に言っているのでしょう?」

「最近は競合にコンペで負けることが多い、という報告がありましたが、それはどの程度でしょう?」

 

逆に、議論のヘタな人たちは「事実」を把握しないまま、「何となく自分がそう思うから」から議論をスタートさせるので、

数字や事実確認の方法を突っ込まれると、何も言えなくなってしまう。

 

「議論のうまい人」たちは、思い込みや先入観を出来得る限り排除しようと、常に気を配る。

 

3.議論のうまい人は、「あるべき論」を振りかざさない

議論がヘタな人の特徴のひとつが、「あるべき論」への固執だ。

あるべき論に固執すること、すなわち「俺は意見を変えない」の表明は、議論を停滞させる。

 

例えば、あるサービス業の話だ。

複数の営業マンが「既存客の対応で手がいっぱいであり、新規開拓をする暇がない」というので、上司に相談をした。

そこで上司は、対策会議を開くことにした。

 

会議の場で、若手が

「一部の既存客は、手がかかるだけで売上につながらない。こういった客は切っていく方が良いのでは。」

と提案した。

すると、ベテランの一人が言った。

「どんなお客さんでも、丁寧に扱うべきだろう。」

何人かのベテランが、それに賛同した。

 

若手はそれに対して

「おっしゃることはわかりますが、今のままでは無理です。たとえば私の担当は30社ありますが、3社のお客さんで全体の半分近くの時間を取られています。逆にその3社の売上は、全体の2割程度しかありません。」という。

そのベテランは怒った。

「30社程度で何を甘ったれているんだ。営業の効率が悪いだけだろう。与えられた既存客を死守するのが、営業の役割だ。」

若手は「これ以上議論してもムダだ」と思ったのか、黙り込んでしまった。

 

険悪なムードの中、上司が割って入る。

そして、若手に言った。

「まあまあ、なぜUさん(ベテラン)が「どんなお客さんでも丁寧に」と言うのはわかるね。」

「……はい。」

「お客さんの選別を、というと何かこっちが偉くなったような気持ちになりがちだから、それを戒めただけだよ。」

「それはわかります。」

「でも、新規開拓できないのは困る。Uさん、どうすればいいかね。」

 

ベテランのUさんは話を突然振られて、焦ったようだった。

「……えー、営業の効率をあげるべきだと……」

上司は言った。

「そうそう、それはわかってるんだけど、どうしたら具体的に営業の効率をあげられるかね?私もそれは重要だと思っているんだが。」

 

この上司は非常に柔軟で、「あるべき論」を語る人の感情に配慮しつつ、若手とベテランから具体案を引き出すことに長けていた。

こういう人を「議論の巧者」と呼ぶべきなのだろう。

 

4.議論のうまい人は「議論の目的」を忘れない

議論のうまい人は、「議論の目的」を忘れない。当たり前のように感じるが、結構重要なことである。

特に、盛り上がる議論はあちこちに話が飛ぶので、いつの間にか当初の目的とは異なる話に花が咲く、ということが頻繁に発生する。

 

私の先輩に当たる人はこのコントロールがうまく、話の本筋を外さなかった。

彼が必ずやっていたのが、

1.「この議論のゴール」の確認から始める。

「今日のゴールは◯◯ですよね?」と全員に尋ねる。

2.「この議論のゴール」を皆が見えるところに掲げる

「今日はここまでやります」といって、ホワイトボードに目的を書き出す。

3.「この議論のゴール」を書き出して終了する

今日の議論の結論は、こうなりましたけど、いいですか?といって、終了する

 

こういった「当たり前のこと」をきちんとやることで、彼は議論を実りあるものに変えていた。

 

5.議論のうまい人は「議論する価値のあることだけ」議論する。

以上に挙げたことはテクニックとして重要なことではあるが、真に重要なのは、

「議論する価値のあることだけ議論する」という態度である。

 

冒頭にコンサルティングには

「お客さんとは絶対に議論するな。お客さん同士で議論してもらえ」

という原則があると書いた。

なぜそんな原則を守るのかと言えば、

「コンサルタントは意思決定者でもなく、実行者でもない」という現実があるからだ。

 

お客さんと議論をして、アイデアが生まれたとしても、お客さんの能力に見合ったものでなければ意味がない。

また、「自分たちのアイデアである」という自負がなければ、責任感も生まれない。

 

したがって、我々が成すべきことは

「お客さん同士の議論が、実を結ぶように補助をすること」

であった。そのため、「お客さんとコンサルタントの議論」はほとんど価値がない。せいぜい、コンサルタントの自己顕示欲を満たす程度である。

 

殆どの人は、「この議論、不毛だよなー」と思ったことがあるだろう。

議論には多くのリソースが必要であるし、その結果の実行のためには更に多くのリソースが必要である。

結果として、「議論しないほうがマシ」なことも相当数、あるのだ。

 

例えば、インターネット上には様々な議論が存在するが、その殆どは、多くの人にとって

「どうでもいいこと」だろう。

だから、議論は参加する前に「私の人生の一部を使ってまで、参加する価値があるのか?」を問わなければならない。

そうでなければ、見ざる、聞かざる、言わざるで全く問題はない。

 

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(2024/1/22更新)

 

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