ライターの募集にクラウドソーシングを使い始めて、一つ、不思議な風習に気づいた。
それは「文字単価」だ。
ライティングという商売に詳しくない方もいるだろうから説明する。
文字単価というのは、記事の原稿料を、記事単位ではなく一文字単位でいくら、という形で計算するやり方だ。
例えば文字単価0.3円で、4000文字(原稿用紙10枚分)なら、原稿料は1200円。
文字単価3円では、原稿料12000円。
文字単価30円では、12万円。
そう言うふうに、原稿料を計算するやりかたを、「文字単価で計算する」という(らしい)。
そして、ライターという業界は、0.3円の人から、30円の人までが幅広く分布している業界だ。
驚くべきことに、高い人はやすい人と比べて、同じ文字数を書いても100倍の報酬を受け取っている。
良いプログラマーはダメプログラマーの100倍の生産性があるというが、まさにライターも同様なのだ。
「文字単価」に潜む問題
しかし、私はこのクラウドソーシングの「文字単価」という考え方は、いくつかの問題をはらんでいると感じる。
その問題によって、ライターと発注者の両方にマイナスの影響があるのだ。
例えば、文字単価の最大の問題点は、「文章が冗長になる」ことだ。
以下の文章を読んでどう思うだろうか。
会社でよくある会議の議案は、次のようなものだ。
・会社の運営
・事業計画
・収支
いずれの議案も、会社の将来を左右する議案であり、逆にいえば社内会議では会社の未来を左右する議案しか話し合われないはず。
もう、読者諸兄にはおわかりだと思うが、社内会議の決定事項が会社の未来を左右する。
そのため、会議に参加する社員は、会社が良い方向へ進むためにはどうすればいいかを熟考し会議に臨まなければならない。
こんな文章が、「文字単価」を意識してしまうと、ライターからあがってきてしまう。
それに対して、良いライターからは次のような文がくる。
よくある議案は、以下のものだ。
・目標管理
・予算管理
いずれの議案も、会社の将来を左右する決定につながる。
参加者は、以上について熟考し、会議に臨まなければならない。
本質的に、重複した表現は美しくないし、わかりにくい。
もちろん例外もあるが、同じことを伝えるなら、短い文章の方が良いのは当たり前だ。
しかし「文字単価」のライターは、文章を短くできない。
短くすれば、報酬が減るからだ。
実際、上の文章は192文字。下の文章は80文字。文字単価が3円だとすれば、上の文章は600円位を稼ぐのに対し、下の文章はたったの240円。
この利益相反が、「文章を短くしよう」というインセンティブをなくす。
本来であれば、記事の価値というのは、「読者に与える影響力」によって決まるはずである。
読みやすく、中身の濃い記事と、冗長で中身が薄い生地であれば、読者は当然、前者を評価するはずだ。
しかし「文字単価」のライターは、内心、そう思っていても、報酬の誘惑には勝てないだろう。
もちろん「文字単価」という慣行を作り出した原因は、発注側にもある。
「Googleは、文字数が多いほうを評価する」
といった、読み手を向いていない判断基準を持つメディアの運営者や、
「とりあえず、記事の体裁が整っていればOK」
といったような、記事の質を判断できない運営者も多いからだ。
これは、メディアの目的を考えれば、合理的な判断と言えるのかもしれない。
だが「文字単価」という評価手法を通じて「読者にどのようなインパクトを与えるか」ということを考えない、ダメなライターを大量に生み出した罪は重い。
どうすれば「価値を生める」ライターになれるか
価値を生めるライターになりたいなら、以下の点に注意しなければならない。
1.文字数は「目標」ではなく「制約」
発注側の要求してくる文字数に対して、「どうやってこの文字数を埋めようか」と考えているようでは、価値を生めるライターにはなれない。
本来、ライターが良い文章を書ける分野においては、文字数は「目標」ではなく「制約」だ。
わかりやすく言うと、発注側が3000文字で書いてください、といってきた場合、
「やばい、6000文字くらいすぐに書けるけど、どうしたら3000文字に収められるだろう?どこを削ればよいだろう?」
と考えられるくらいのものでなければ、良い記事はかけない。
2.分野ごとの「記事サンプル」を用意する
クラウドソーシングを使っていてわかったのは、ライターの方々は「提案が超ヘタ」ということだ。
普通に考えれば、顔を合わせたことがなく、取引実績もない相手と取引をしよう、というときには、「今までの作品」しか、ライターの力量を測るすべがない。
ところが、多くのライターの方々は、記事の単価はそれなりのものを設定しているはずなので、受けたい仕事なのだとは思うが
・今までに書いたものを積極的に提示してくることが少ない
・ブログもない
・実績を提示していたとしても我々が求めている分野での作品ではない
という、誠に受ける気があるのか無いのか、わからないような方がとても多い。
法人から仕事をもらうのであるから、受けたい分野であれば、その分野ごとのサンプルくらいは作っておいたほうが良いと思う。
こういった小さなところから、単価が変わってくるのだ。
3.文章を筋肉質にせよ
「筋肉質な文章」とはなにか。簡単に言えば、冗長な部分がなく、中身の濃い文章である。
したがって、
・文章はかきあげたら、1日〜3日おいてから推敲し、徹底的に冗長な表現を削る。
・参考資料はできうる限りwebではなく、本や論文とせよ。webから情報を拾って切り貼りしているうちは、三文ライターである。
・様々な経験を意図的に積むこと。文章を面白くするのは、知識と練習、そして専門分野の経験である。
4.様々な場所に「問い合わせ窓口」を設置する
クラウドソーシングのプラットフォーム内だけではなく、Twitterのダイレクトメッセージや、ブログなどに、問い合わせフォームや連絡先をおいておくこと。
仕事を頼みたいけれど、クラウドソーシングプラットフォームを使ってしまうと二〇%の手数料を取られる。
それを嫌だと思っている企業の担当者はくさるほどいる。
だが、クラウドソーシングはもちろん、直接取引が禁止だ。
したがって、それ以外の問い合わせ口も持っていると、クラウドソーシングを嫌っているクライアントから直接連絡をもらえる可能性がある。
直接取引は多少のリスクはあるが、単価アップが最も簡単だ。
二〇%を安心料と見るか、高いと見るかは自由だが。
また、自分から様々なメディアに応募するといった、積極的ない営業活動もきちんとしたほうが良い。
その際は、必ずメディアにあわせたサンプル記事をつけることを忘れずに。
また、自分の記事が読者に支持されている、とおもったら、メディアの側から単価をアップしてくれることは殆ど無い、と思って遠慮なく単価交渉をしよう。
「立場は対等」だ。長期に渡って付き合いたい単価かどうかは重要だ。
5.TwitterやFacebookのフォロワー数を積極的に増やしていく
現代はすでに、ライターの単価は、ライターの書く記事だけによるわけではない。
ライターの書いた記事の「拡散力」も含めて、単価に反映される。
GoogleやFacebookの広告では1クリックあたり10円〜数百円。
仮にフォロワーが1000人くらいいて、一度の記事の拡散で100ビューをメディアに対して送客できるならば、それは1000円〜数万円の価値がある、と言っても良い。
インフルエンサーの単価が高いのは、記事の質だけではなく、記事を拡散できるという効果も加えてなのだから、普段からフォロワーを積極的に増やしていくことにはなんのデメリットもない。
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