最近漠然と考えている家族と仕事についての雑感をまとめてみようかと思う。

まあ要旨を述べてしまうと、何事もほどほどがいいよねという身も蓋もない話なのだけど。

 

闘病ブログ跡地訪問のススメ

僕の密かな趣味の一つに、闘病ブログの跡地を訪れるというものがある。

闘病ブログ跡地には、様々な人生のヒントがある。

告知を受けた時の動揺、治療過程で起こる心境の変化。そして絶筆。

 

闘病ブログ跡地は、まさに文字通り人間が人生の最後に何を思うのかがウソ偽りなく書かれたモノが蓄積された最高の教材と言えるだろう。

あれはインターネット上にあるものの中でも、特に有益な情報が詰まった遺産である。

 

ちなみに僕の経験上、闘病ブログで最後に話題にあがる事のほとんどは家族の話題である。

仕事の話題が取り上げられているものは1つたりとも見たことはない。

 

これは医者として、臨床現場に立ち会っている時の経験とも矛盾しない。

亡くなられる方で、幸せそうに亡くなられる方の多くは家族の仲がよい傾向が多いような印象が強い。

 

こうして考えてみると、仕事というのは不思議なものだ。

人生の最後の最後には全く話題にもらならないそれらに、家族を蔑ろにしてまで耽っている人達がかなりいる事を考えると、星の王子さまに出てくる「大切なものは目にはみえない」というキツネのセリフが妙に心に響いてはこないだろうか。

 

仕事は家族と適切を距離を保つ為にある

とはいえ、だ。

仕事はもちろん生きるにあたってとても大切なものであるという事は間違いない。

人生の最後に思いを馳せるであろう家族を成立させるのには、仕事がとても大きく役立つのは言うまでもない。

 

それに家族のことばかりを考え続けるというのはそれはそれで非常に苦しい。

ドストエフスキーのカラマーゾフの兄弟なんかを読んでいると、フィクションといえども家族について徹底してドメドメ追求していく事はとても苦しいのだなという事を嫌というほど思い知らされる。

こうして考えてみると、家族というのは確かに大切なものではあるけれど、それが良く作用させる為には適切な距離感というものが非常に大切だ、という事がよくわかる。

 

それは物理的な距離感もそうだし、一緒にいる時間を1日の中でどれだけ取るかというタイムスパン的な距離感もとても大切だ。

そういった意味では、仕事というのは私達がカラマーゾフ化しない為に、割とよくワークしているのかもしれないな、とも思えてくる。

そう考えると家族というものは、日常生活レベルでは仕事を挟んで意識しすぎないぐらいがちょうどいいのかもしれない。

 

仕事は情熱的でなければいけないと若い頃は思いこんでいたけれど

こうして考えると、仕事というのは、家族を形成したり維持したり、距離感を適切に保つのに役立っていると考えられるだろう。

つまり、これらの2つは相補的な関係にあると言える。

それならやっぱり仕事も、楽しまないよりも楽しんでやれる方がいい。

 

続いて、よい仕事というものについてみていく事にしよう。

仕事というと、やりがいだとか情熱だとかを持てる事がよい事だと思っている人が多いかも知れないけど、最近はたるんだ仕事というものを自分がどれだけ許容できるのかも、結構大切だなと思うようになってきた。

 

こう思うようになった事の発端は、最近の自分の嗜好の変化が大きい。僕は学生時代、ラーメンが物凄く好きで、いちいち電車を乗り継いで、各ジャンル毎の最も美味しいものを食べに出歩いていた。

いわゆるマニアというやつである。

 

その当時は若干意識をこじらせてた事もあり、一杯のラーメンに全ての情熱を捧げる店主をみては

「やはり仕事というのは、このように情熱的にやらねばいけないものだ」

「僕もこの人のように、1杯に命をかけられるようにならねばならぬ」

と思いを新たにしつつ、巷に数多ある、たるんだラーメンを作る店の事を物凄く苦々しく思っていた。

 

マニア時代の僕は、僕は中途半端なものを作るラーメン店を見るたびに

「おいおいおい。お前さん、せっかくこの世に生まれ落ちたんだから、もっとちゃんと真面目にラーメン作れよ。Stay hungry, stay foolishって偉い人も言ってただろ?」

と心の中で思っていた。実に嫌らしい若者である。

 

スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式でのスピーチにかぶれていたその当時の僕は「Stay hungry, stay foolish」でなければ人生にあらず、という信念にかぶれており、中途半端なラーメンを作っているお店の人を、いったい何が楽しくて中途半端なものなんて作っているのだろうかとずっと思っていた。

 

情熱的になれないような人生は本当の人生ではないし、本当の人生を歩めないのならこの世に産まれてきた意味がないじゃないかと思っていたのである。

 

人はいつまでも情熱的であれるわけではない

しかしあれから十年近くたった今、若かりし頃にあった狂気ともいってもいいような僕のラーメンへの歪んだ愛はどこかに雲散霧消してしまった。

今では話題のお店になんて出かける事は全くないし、それどころか今度は逆に空いているぶんだけ使い勝手がよいと、学生時代の僕が絶対に行かなかった中途半端なラーメン屋を好んで利用するようになる有様である。

まったく、人間というのは自分勝手なものである。

 

しかし今になって振り返ると、全てのラーメン屋がジョブス化したら、それこそエライ事である。

毎朝、鏡に向かって「もしも今日が人生最後の日だとしたら、今日やろうとしていることをやりたいと思うだろうか?」と考えるような人間だけがラーメンを作っている社会は、どう考えても異常だ。

 

今でも情熱を仕事に対して持てる事はとても素敵なことだとは思うし、パリッと集中した時間に自分の身を置ける事はとても有意義な時間である事は事実だけど、その一方で全ての人・全ての仕事にそれを求めるのはやりすぎだという事を遅まきながら理解できるようになった。

 

僕のラーメンへのこだわりが数年たったら雲散霧消したように、多くの人は情熱を一つのことに長く持ち続ける事なんてできない。

だから集中する時間と同じぐらい、たるんでもいい時間を人生の中で持てる事も大切だな、と思うのである。

そういう時間を持てるようになって初めて、他人が楽をする事を心の底から良いことだと思えるように、なりますしね。

 

というわけで結論としては仕事も家庭も適切な距離感とメリハリを持てるようになるのが理想だという、実に面白みもない結論に至るのだけど、こういう大切な事をかつて意識が高かった僕のような大人が声を大にしていう事は大切な事だと思うのですよね。

 

自分に優しく、他人に優しく、ジョブスの対極にあるようなゆるい生き方にこそ、凡人の幸せってものがあるんじゃないかと思うんですよね。

やっぱり、人生はほどほどが一番だということなのかもしれません。

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

【プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki

(Photo:Kendra