ぼくは、これまでの人生の中でたくさんの「東大出身者」に会ってきた。
そこにはいろんな年齢のいろんな学部の人がいたが、もちろん個性はそれぞれ、各人各様だった。
しかし、そんな彼らが共通して有している――しかも必ず染みついているあるクセがあった。
ぼくはあるとき、そのことに気づいた。そこで今日は、その東大出身者特有のクセついて書いてみたい。
このクセを知っている人は、おそらくほとんどいないだろう。
それは、東大出身者以外の人はもちろん、東大出身者自身もそうだ。
なぜかといえば、クセというものは本質的に、本人は気づかないものだからだ。
そう考えると、東大出身者以外の人は気づいても良さそうなものだが、しかしそうはなっていない。
なぜなら、実はこのクセ、東大出身者自身はその存在に気づいていないにもかかわらず、無意識的に隠しているからだ。
だから、東大出身者以外の人も、なかなか気づくことはない。
ではなぜ、東大出身者はこのクセを隠しているのか? また、なぜ隠せているのか?
それは、このクセをうかつに出してしまうと、周りから変な目で見られるからである。悪くすると嫌われてしまう場合さえある。
東大出身者は、それを本能的に知っている。
だから、無意識のうちにそれを避けようとして、このクセを出さないようにしているのだ。
では、逆になぜこのクセに気づく人がいるか? それは、普段は無意識的に隠そうとしている東大出身者でも、つい出してしまうときがあるからだ。
東大出身者は、あるタイプの人の前だと、ついそのクセを出してしまう。
それもやっぱり本能的なものなので、今度は逆に隠しようがなくなる。
だから、このクセに気づく人もいる。
そしてぼくも、実はそのタイプなのだ。東大出身者がついこのクセを出してしまうので、それに気づくタイプである。
というより、ほとんどの東大出身者は、ぼくの前ではこのクセを出さずにはいられない。
だからぼくは、いつしかこのクセに気づくこととなったのだ。
ちなみにこのクセは、他の大学出身者にはまず見られない。
京大など東大以外の国立大学出身者や、慶大や早大といった偏差値の高い私立大出身者にもこのクセはない。
そして、偏差値の低い大学出身者にもこのクセはない。このクセがあるのは、唯一東大出身者だけなのだ。
では、その東大出身者だけが持っているあるクセとは何か?
それは、「初対面の相手の知能を推し量る」ということである。その推し量っている時間は、ものの数秒の場合もあれば、数分の場合もある。
しかし、十分かかることはまずない。とにかく全ての東大出身者が、初めて会った相手に無意識的にこの眼差しを向けるのだ。
では、東大出身者はどういうふうに相手の知能を推し量るのか?
それは、主に相手の会話に耳を傾ける、ということである。
彼らは、ものの数分でも相手の話しを聞いていれば、どれくらいの知能の持ち主かが分かるらしい。
そういう意味では、短時間で相手の知能を推し量ることにとても習熟している。慣れているのだ。
それはまるで、『ドラゴンボール』に出てくるスカウターのようだ。
彼らはフリーザのように、相手の知能をほとんど瞬時に査定してしまう。
ではなぜそんなことをするかというと、東大出身者にとって、出会った相手の知能がどれだけのものかということが、非常に重要だからだ。
というのも、彼らは相手の知能の程度によって、接し方を変えようとしているのである。
そこで知能があると判断した者には丁重に接し、そうでないと判断した者にはそれなりに接するのだ。
これを、全ての東大出身者がする。逆に、それ以外の大学の出身者は全くしない。
例えば、ぼくには師匠と呼べる人が3人いる。秋元康さん(中央大中退)、吉野晃章さん(帝京高出身)、吉田正樹さん(東大出身)だ。
この中で、秋元さんも吉野さんも、ぼくの知能を推し量ったことが一度もない。というより、ぼくの知能などは初めから眼中になかった。
彼らは出会ったときから、ぼくを知能の多寡で判断しようとはしなかった。
それよりも、人間性とか、話しの面白さとか、明るさとか、もっと別のところで判断しようとした。
しかし吉田さんは、初めて会ったときにぼくの話しにじっと耳を傾けた。それは、ほんの数分だっただろうか。
そして、それからいきなり丁寧に接していただいたのだ。
そのとき、吉田さんはフジテレビの押しも押されもしない人気番組のプロデューサーで、一方のぼくはペーペーの放送作家だった。当時のぼくは、普通のプロデューサーなら歯牙にもかけないようなちっぽけな存在だった。
ところが吉田さんは、そんなぼくのことを初対面からいきなり尊重してくれたのである。
意見を聞いてくれたのはもちろんのこと、番組内でもかなり引き立ててくれた。
簡単にいうとえこひいきしてくれた。
もし、吉田さんが誰に対してもそういう接し方をしていたなら、それは吉田さんの個性として片付けられただろう。
だが、けっしてそんなことはなかった。吉田さんは、人によっては普通の接し方をした。
ぼく以外のペーペーの放送作家には、他のプロデューサーがそうするように、歯牙にもかけない場合も多々あった。
吉田さんは、ぼくにだけ特別にそうしてくれたのだ。そしてそれは、ほんの数分話しただけの、ぼくの知能を評価してくれたからとしか考えられなかった。
他に、吉田さんがぼくに丁重に接する理由は何もなかったのだ。
そして同時に、それはほとんど無意識のようにも見えた。ぼくに対する気遣いといえなくもないが、しかしそれ以上に、一種のクセのようなものにぼくには写った。
そして、そのような感覚は他の東大出身者に会ったときにも覚えたのである。
例えばホリエモン、例えば猪子さん、例えば放送作家の後輩のAくん、例えばオトバンク会長の上田さん、例えば日経BP編集者のTさん、例えば弟の友だちのダーツにも、それと全く同じような感覚を覚えた。
彼らは全員が東大出身者だった。そして出会った瞬間に――正確にいえば出会って数分が経過してから、ぼくに丁重に接してくれるようになったのである。
くり返すが、これは他の大学出身者には皆無のことだった。
他の大学出身者は、むしろぼくを無碍に扱うことがほとんどだった。
そのためぼくは、東大出身者とはほぼ100%仲良くなれる。
それは当たり前だ。初めから丁重に接してくれる人に、ぼくも悪い感情を抱きようがないからだ。
それ以外の大学出身者には、こうはいかない。ほとんどの場合で、ぼくはバカに思われる。
そういうことがくり返される中で、ぼくはやがて、東大出身者には共通して、初めて出会った相手をスカウティングするクセがあるということを発見したのだった。
そしてこのクセは、彼らもある程度知能があると思われる相手にしか出さない。
知能がなさそうな相手には、彼らはそもそもスカウティングをしない。
なぜなら、そういう相手にはスカウティングする必要がないというのもあるが、下手にスカウティングしていると、相手に自分が査定されているということを見抜かれて、気まずい思いをすることになるからだ。
知能の低い人でも勘の良い人は少なくなく、そういう人は自分の知能が査定されていると気がつくと、非常に不愉快になる。
そうして、そのままトラブルにも発展しかねない。
だから東大出身者は、スカウティングをする相手は知能がありそうな相手に限っているのだ。そうして、普段は無意識的にそれを隠し、無用なトラブルを避けているのである。
おかげで、東大出身者には初めて出会った相手にスカウティングするクセがあるというのを知る人は、とても少ない。
彼らから「知能がありそう」と思われた人だけ、そうした経験をしているのだ。
ではなぜ、東大出身者はそんなふうに初めて出会った相手の知能を推し量るのか?
それを考察したぼくは、一つの仮説に辿り着いた。それは、彼らの大学入学時の経験によるのではないかと思われる。
大学入学時の一種のトラウマともいえるような衝撃が、彼らにそのようなクセを身につけさせたのではないだろうか?
というのは、ぼくはある東大出身者から、次のような経験談を聞いたことがあったからだ。
その人は、地方の出身だったが、小学校でも中学校でも高校でも、ずっと成績は一番だった。
だから、自分は普通に天才だと思っていたし、それまでの人生の中では、自分より知能が上だと思う人とは会ったことがなかった。
ところが、そうした状態で東大に入ったところ、驚くべきことにテストの成績が中くらいだった。
なんなら下位に甘んじることさえあった。これまでの18年間で一度も経験したことがなかった「普通の成績」を、東大に入った瞬間いきなり体験させられたのだ。
そのことの衝撃の大きさから、東大生はこれまでの自分を強烈に恥じるようになる。
自分は「井の中の蛙」だったということを痛感させられるのだ。
それと同時に、他人の知能というものが生まれて初めて気になり出す。彼らはそれまで、自分の知能の高さを疑わなかったから、他者の知能というものをそもそも気にかけてこなかった。
しかし大学に入って初めてそれを意識するようになったので、普通の人よりセンシティブになってしまうのである。
そして東大生は、自分より知能が高いと判断した相手には、きわめて謙虚に振る舞うようになる。
なぜかというと、これまで天才と疑わなかった自分よりなお知能が高い人というのは、無条件で尊敬せずにはいられないからだ。
また、「自分じゃ知能が高い」と自惚れたままではアイデンティティを喪失し、なんならノイローゼにさえなりかねいので、必要以上に謙虚になるのである。
そうでないと、自分の成績が中位だということに耐えられないのだ。
東大でも成績がトップだった一部の人間以外、ほとんど全ての東大生はそうしたメンタリティを抱きつつ、卒業して社会に出る。
だから、そこで初めて出会った相手にも、自然とその知能を推し量るようなクセがついてしまう。
そして、そこで一定の知能が認められれば、相手に対しては謙虚に振る舞うようになるのだ。
そう考えると、このクセを東大出身者しか持っていないことの理由も説明がつく。
例えば慶大出身者は、必ずしも高校で一番だったわけではない。上位だったかもしれないが、上には上がいるということをそれまでに幾度も経験している。
そうなると、彼らのうちにはまた別のメンタリティが育つ。それは「人間の価値は必ずしも知能だけで決まらない」というものだ。
「それ以外の価値も人間にとっては重要だ」と、彼らは考えるようになるのである。
そうなると、彼らにとって知能というのはそれほど重要ではなくなる。
おかげで、社会に出てからも出会う相手に知能があろうがなかろうが関係ない。
もともと別のところで勝負しているから、それについては無関心になるのだ。
東大以外の出身者は、高校までに必ず「自分より頭がいい人間がこの世にはいる」ということを思い知らされている。
だから、知能に対する評価そのものが低くなって、スカウティングをすることもなくなるのだ。
しかし東大出身者は、高校までに「知能というのが人間にとって最も重要な価値」というメンタリティを育てている場合が多い。
だから、それへの信頼は簡単には抜けないし、だからこそ、出会う相手の知能が気になり、しかもそれが高いと、尊重せずにはいられないのである。
それゆえ、初めて出会う相手の知能を推し量るクセがついてしまう。もしみなさんがこれから東大出身者と出会うとしたら、今度は逆に、そっと観察してみてほしい。
そうすれば、彼らがあなたの知能をそっと観察しようとしていることに、きっと気づくはずだ。
(2025/5/12更新)
「記憶に残る企業」になるには?“第一想起”を勝ち取るBtoBマーケ戦略を徹底解説!
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第2部:「“第一想起”を実現するコンテンツと接点設計」
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・Books&Apps立ち上げと読者獲得ストーリー
・SNS・ダイレクト重視のリスト形成手法
・記憶に残る記事の3条件(実体験/共感/独自視点)
・ナーチャリングと問い合わせの“見えない線”の可視化
第3部:「リストを“資産”として運用する日常業務」
登壇:楢原 一雅(リスト運用責任者)
・ティネクトにおけるリストの定義と分類
・配信頻度・中身の決め方と反応重視の運用スタイル
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2025/5/21(水) 16:00-17:30
参加費:無料 定員:200名
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お申込み・詳細
こちらウェビナーお申込みページをご覧ください
【著者プロフィール】
岩崎夏海
作家。
1968年生まれ。東京都日野市出身。東京芸術大学建築科卒。 大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。
放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』等、テレビ番組の制作に参加。 その後、アイドルグループAKB48のプロデュースにも携わる。
2009年、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』を著す。
2015年、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』 。
2018年、『ぼくは泣かないー甲子園だけが高校野球ではない』他、著作多数。
現在は、有料メルマガ「ハックルベリーに会いに行く」(http://ch.nicovideo.jp/channel/huckleberry)にてコラムを連載中。
(Photo:Takayuki Miki)