Twitterでこんな記事がタイムラインに流れてきた。

「何者にもなれなかった大人はどう生きればいい?」中年からのキャリア論が欲しい

 

確かに、40歳以降の働き方は、ほとんどの人にとって悩みのタネではあるが、ほとんどwebでは語られない。

「若くして成功」は良くも悪くも話題性に富んでいるが、中高年の行く末など、本人以外には興味がないからだろう。

 

だが、生きていれば40歳はかならず訪れる。

そして、40歳にもなれば、今いる会社で、自分が出世できるかどうかほとんど分かる。

 

大企業においては、30代終わりから40台前半で、「部下のいる」管理職になっていなければ、ほぼ出世は見込めない。

40代後半にもなれば、出向、転籍、そして退職まで、自分より若い管理職の下で、20年働くことになるのだ。

 

私はコンサルタントのキャリアの中で、そういった中年たちを、数多く見てきた。

 

 

しかし、そうした「出世できなかった中高年」を気の毒だと思うなら、それは間違っている。

 

若い人間の想像の中では、出世競争に破れた人たちが、若い人間にあれこれ言われながら、ルサンチマンを溜め込んでいるイメージで捉えられているかもしれない。

が、私が現場と実務の中で見てきた「出世できなかった中高年」は、気の毒というより、むしろ楽しそうな人が結構多かった。

 

例えば、某大手通信のプロジェクトでは、途中で定年を迎えた方がメンバーにいた。

肩書は「課長代理」であったから、ついに管理職にはなれず、定年を迎えたのだろう。

こういう人は、大企業の中にとてもたくさん存在している。

 

ある時、少し早く会議室に到着した私は、その人と二人きりになった。

彼はプロジェクトの雑用を引き受けていたので、プロジェクターなどのセッティングを、一人でやっていたからだ。

 

私は黙っているのも気まずく、話しかけた。

「もう定年ですよね、ここには長くお勤めになられたのですか、どんなことをやってきたのですか」と。

すると彼は、若い頃の話を嬉しそうに語ってくれた。

 

若い頃猛烈に働いたこと。

子会社に出向した時苦労したこと。

単身赴任したこと。

 

私はそれを聞き、彼の若い時の姿を思い浮かべた。

彼も昭和の企業戦士だったのだ。

 

だが、わたしはもう一つ、どうしても聞きたかった。

「今はどうですか?定年を迎えるのはどんな心境ですか」と。

 

その人は、穏やかに答えた。

「いやー、残念ですよ。」

 

意外にも、彼は残念、と言ったのだ。

てっきり、やっと休めます、といった趣旨のことを言うのだと思っていたからだ。

 

「なぜですか?」と私は聞いた。

失礼ながら、雑用係の仕事は、私には楽しそうに見えなかった。

 

「仕事が楽しいからですよ。若い人たちが頑張るのを少しでも助けるのは、とてもやりがいがあります。」

 

私は目からウロコだった。

 

そうか。彼は、脇役であることを楽しんでいるのだ。

自分が主役になるよりも、若手や頑張る人を助けること、彼らを称賛すること、縁の下の力持ちであることこそ、自分の役割であると考えていたのだ。

 

確かに、ミーティング中、彼は皆がやりたがらない、地味でつまらない仕事を割り当てられても、ニコニコしていた。

彼は、脇役でありその他大勢であることを、自然体で受け入れていた。

 

ある意味それは、平凡な中高年たちが、後半生にたどり着く境地であるかのようにも見えたのだ。

 

 

そして彼の出勤最終日。

会議室で、彼に花束が渡された。

一人一人が彼に感謝の言葉を述べた。

 

驚いたことに、過去に彼に助けられた、と語る人は多かった。

「あのときはお世話になりました。」

「新人のときに、教えていただきました。」

「炎上プロジェクトでは一緒にがんばりました。」

そんな言葉が彼に語られた。

 

そして、何事もなかったかのように、普通にミーティングが始まり、終わり、次の回から彼は来なかった。

雑用は若手に割り当てられ、彼がいたことなど誰も覚えていないように、何事もなくプロジェクトは進んだ。

 

彼はプロジェクトに不可欠な存在ではなかった。

代替可能な、一人の老齢のサラリーマンで、彼がいなくなっても、何一つかわることはなかった。

 

だが、彼が仕事を楽しんでおり、若手を助け、彼らの成長を喜んでいたのは事実だ。

だからこそ、中年を過ぎ、出世の見込みがなくなった後でも、皆とうまく楽しそうに働けたのだろう。

 

✳︎

 

それから20年近くが経ち、私は中年になった。

改めて彼の生き様を振り返ると、思う。

 

年と共に、自分の成功ではなく、我が子の成長を喜ぶがごとく、若手の成功を喜ぶ立場にならねばならない、と。

遅かれ早かれ、人は皆、主役を降り、若手や後進に席を譲ることを学ばなくてはならないのだ。

 

私は現役のコンサルタントのとき、地方の中小企業を数多く回っていたことがある。

そこでは、都心の大企業とは全く異なる光景があった。

長く在籍している、中高年のサラリーマンが、特に地位も肩書きもないのに、なぜか尊敬と感謝を集めていたのだ。

その多くは、若手の成長と成功を、我がことのように喜べる人物だった。

 

中高年の無為にも自棄にもならない、穏やかなキャリアとは、自分ではなく、他者の成功を助け、喜べる、そういうところに存在している。

逆に、どこまで行っても不幸な中高年とは「自分にしか興味のない中高年が、加齢に絶望している状態」だと、私は思う。

 

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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