Twitterでこんな記事がタイムラインに流れてきた。
「何者にもなれなかった大人はどう生きればいい?」中年からのキャリア論が欲しい
40〜50歳代の大部分の何者にもなれない大多数の勤め人、年金支給開始年齢と健康維持考えれば65〜70歳までは働き続けるはず
人生の秋は意外にも長いし、無為にも自棄にもならない穏やかな生き方の導きが必要とされるはずなのですが…キャリア論は若者向けばかりのような🥺— すらたろう (@sura_taro) February 6, 2022
確かに、40歳以降の働き方は、ほとんどの人にとって悩みのタネではあるが、ほとんどwebでは語られない。
「若くして成功」は良くも悪くも話題性に富んでいるが、中高年の行く末など、本人以外には興味がないからだろう。
だが、生きていれば40歳はかならず訪れる。
そして、40歳にもなれば、今いる会社で、自分が出世できるかどうかほとんど分かる。
大企業においては、30代終わりから40台前半で、「部下のいる」管理職になっていなければ、ほぼ出世は見込めない。
40代後半にもなれば、出向、転籍、そして退職まで、自分より若い管理職の下で、20年働くことになるのだ。
私はコンサルタントのキャリアの中で、そういった中年たちを、数多く見てきた。
*
しかし、そうした「出世できなかった中高年」を気の毒だと思うなら、それは間違っている。
若い人間の想像の中では、出世競争に破れた人たちが、若い人間にあれこれ言われながら、ルサンチマンを溜め込んでいるイメージで捉えられているかもしれない。
が、私が現場と実務の中で見てきた「出世できなかった中高年」は、気の毒というより、むしろ楽しそうな人が結構多かった。
例えば、某大手通信のプロジェクトでは、途中で定年を迎えた方がメンバーにいた。
肩書は「課長代理」であったから、ついに管理職にはなれず、定年を迎えたのだろう。
こういう人は、大企業の中にとてもたくさん存在している。
ある時、少し早く会議室に到着した私は、その人と二人きりになった。
彼はプロジェクトの雑用を引き受けていたので、プロジェクターなどのセッティングを、一人でやっていたからだ。
私は黙っているのも気まずく、話しかけた。
「もう定年ですよね、ここには長くお勤めになられたのですか、どんなことをやってきたのですか」と。
すると彼は、若い頃の話を嬉しそうに語ってくれた。
若い頃猛烈に働いたこと。
子会社に出向した時苦労したこと。
単身赴任したこと。
私はそれを聞き、彼の若い時の姿を思い浮かべた。
彼も昭和の企業戦士だったのだ。
だが、わたしはもう一つ、どうしても聞きたかった。
「今はどうですか?定年を迎えるのはどんな心境ですか」と。
その人は、穏やかに答えた。
「いやー、残念ですよ。」
意外にも、彼は残念、と言ったのだ。
てっきり、やっと休めます、といった趣旨のことを言うのだと思っていたからだ。
「なぜですか?」と私は聞いた。
失礼ながら、雑用係の仕事は、私には楽しそうに見えなかった。
「仕事が楽しいからですよ。若い人たちが頑張るのを少しでも助けるのは、とてもやりがいがあります。」
私は目からウロコだった。
そうか。彼は、脇役であることを楽しんでいるのだ。
自分が主役になるよりも、若手や頑張る人を助けること、彼らを称賛すること、縁の下の力持ちであることこそ、自分の役割であると考えていたのだ。
確かに、ミーティング中、彼は皆がやりたがらない、地味でつまらない仕事を割り当てられても、ニコニコしていた。
彼は、脇役でありその他大勢であることを、自然体で受け入れていた。
ある意味それは、平凡な中高年たちが、後半生にたどり着く境地であるかのようにも見えたのだ。
*
そして彼の出勤最終日。
会議室で、彼に花束が渡された。
一人一人が彼に感謝の言葉を述べた。
驚いたことに、過去に彼に助けられた、と語る人は多かった。
「あのときはお世話になりました。」
「新人のときに、教えていただきました。」
「炎上プロジェクトでは一緒にがんばりました。」
そんな言葉が彼に語られた。
そして、何事もなかったかのように、普通にミーティングが始まり、終わり、次の回から彼は来なかった。
雑用は若手に割り当てられ、彼がいたことなど誰も覚えていないように、何事もなくプロジェクトは進んだ。
彼はプロジェクトに不可欠な存在ではなかった。
代替可能な、一人の老齢のサラリーマンで、彼がいなくなっても、何一つかわることはなかった。
だが、彼が仕事を楽しんでおり、若手を助け、彼らの成長を喜んでいたのは事実だ。
だからこそ、中年を過ぎ、出世の見込みがなくなった後でも、皆とうまく楽しそうに働けたのだろう。
✳︎
それから20年近くが経ち、私は中年になった。
改めて彼の生き様を振り返ると、思う。
年と共に、自分の成功ではなく、我が子の成長を喜ぶがごとく、若手の成功を喜ぶ立場にならねばならない、と。
遅かれ早かれ、人は皆、主役を降り、若手や後進に席を譲ることを学ばなくてはならないのだ。
私は現役のコンサルタントのとき、地方の中小企業を数多く回っていたことがある。
そこでは、都心の大企業とは全く異なる光景があった。
長く在籍している、中高年のサラリーマンが、特に地位も肩書きもないのに、なぜか尊敬と感謝を集めていたのだ。
その多くは、若手の成長と成功を、我がことのように喜べる人物だった。
中高年の無為にも自棄にもならない、穏やかなキャリアとは、自分ではなく、他者の成功を助け、喜べる、そういうところに存在している。
逆に、どこまで行っても不幸な中高年とは「自分にしか興味のない中高年が、加齢に絶望している状態」だと、私は思う。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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