「社員は家族」を標榜する会社は少なからずあるが、私はその発言を、常々不思議に思っていた。

 

はっきり言えば「いや、社員と家族はぜんぜん違うだろ」と、ずっと思っていた。

法的にも、制度的にも、実際にも。

 

社員は雇用を通じて「契約」を行っている相手だ。

血縁などの実際的な関係ではなく、その関係性は法人などの概念と同じく、約束事の世界の中に存在する。

 

さらに、そもそも「家族」は夫婦以外の関係はすべて、強制的だ。

人は親を選べず、子も選べない。

ある日そこに存在し、その関係は本人の意志によらず、存在する。それが「家族」である。

 

また、「家族」は自由に辞めたりすることもできない。

経営者が「業績不振で」などと言って辞めさせることもできなければ、社員が「新しい家族に移りたい」と、辞めることもできない。

究極の強制的な運命共同体、それが「家族」の本質である。

 

だから、私は「社員は家族」なんて言っている経営者のことを、永いこと、胡散臭い目で見ていた。

「「試験に合格したから、おまえはうちの子な」なんて言わない。」

「「妻の今年一年のパフォーマンスを測定して、改善をしてもらうように促す」なんて言わない。」

「「長男は今年、家族の成果に貢献してない。」なんて言わない。」

と思っていたのだ。

 

「社員は家族」という発言は、「社長が、世間体の良い建前を言っている」だけ。

そう思っていた。

 

 

ところが、である。

最近、ある有名企業の経営層の方から、

「社員は家族」という言葉について、私の従来の価値観と異なる見解を聞かされた。

 

その方は、こう言った。

「安達さん、私最近「社員は家族と思ったほうがいい」と、思ってきたんですよ。」

私の反応は当然、

「えー……。」

である。

 

しかしその方は、合理的である。それなりの理由なしにそんな事を言う方ではない。

だから、聞いた。

「なぜですか?」

 

「まあ、一言で言うと、「家族だとでも思わないと、やってらんない」っていう感じです。」

「やってられない。……?」

 

私が戸惑っていると、彼は言葉を継いだ。

「例えば、できの悪い社員がいますよね。」

「はい。」

「彼らは、メッチャクチャ丁寧に指導しても、すぐには成果が出ない。で、なんとか彼らのレベルを引き上げようと、こっちも頑張って指導するんですが、頑張れば頑張るほど、溝が深まるわけです。」

 

気持ちは分かる。

 

周りの人たちとの差はどんどん開いていくが、できの悪い社員の実力は急には上がらない。

もしかしたら「ずっと成果が出ない」かもしれない。

でも、いくら仕事ができないからって、「お前はできない社員だ」なんて言われて気分の良い人はいないし、成果が出ていないことを本人も自覚しているから、ますます仕事が辛くなる。

結果的に、上司との溝が深まるばかり、というのは、よくある話だ。

 

私が頷くと、彼は言った。

「でもね。思うんです。」

「はい。」

「そもそも、「期待したとおりに成果を出す社員」ばかりの会社なんてないわけです。そう言う人達に、リターンを求めても、お互い不幸ですよね。」

「そうです。」

「で、思ったんです。これ「家族だ」って思えば、まあ我慢ができるなと。」

「……」

「どんなできの悪い子供であっても、普通の父親だったら見捨てることはない。リターンは求めない。仮に長男の出来が悪くて算数の成績が伸びないときに、「努力しろ、次のテストで80点以上取れなかったら、お前は家族じゃない」なんて言いません。人間は成長に時間がかかるわけです。」

「まあ、たしかにそうですね。」

「逆に、テストのできが悪くても、長男にはいいところ見つけて「ここは頑張ったな」と、褒める。愛情ってそう言うものですよね。」

 

私は家族を想像した。

まあ、そのとおりだろう。家族に「テストの成績が悪かったら家族じゃない」なんてしたら、お互いに辛くてしょうがない。

 

彼は言った。

「ま、なので「社員は家族」っていうのも、私としては現実にあっているので、合理的かなと思いました。」

 

 

私は、この話を聞き、考えを少々改めた。

 

つまり「社員は家族」は、世間体の良い、社長の建前ではなかったのだ。

当然だ。

「社員は家族」などという建前が、社員のの忠誠を引出すのに有効だなんて、まともな経営者が本気で考えているわけがない。

 

そうではなく「社員は家族」の本来の意味は、「経営者が自制するための言葉」だった。

 

経営者は、その性向として社員に常に期待以上を求める。

だからつい、社員に「早く結果を」「早く結果を」と言いたくなる。

その「インスタントにリターンが引き出したい」と思いがちなマインドを鎮めるための言葉として、経営者が自問する。

それなら納得がいく。

 

だからこれは、社員に恩着せがましく語る言葉ではない。

 

最近では経営者が「社員は家族」などというと、ブラック企業扱いされることもあるという。

クラッシャー上司が「社員は家族」を好む理由

一家主義が生むのは、同調圧力なんですよね。僕が「こうだ」といえば下は従うしかない。同一の価値観です。

大学の研究室にも一家主義的なものがあるし、日本の企業の経営者って、一丸となってやっていかないとダメだ、といった呪縛から離れられないケースが多いですね。

だが「社員は家族と考えざるを得ない」と現実的に考えている経営者は、そのような「ブラック家族主義」とは異なるのかもしれない。

そう思った。

 

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システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。

岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


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(2026/01/19更新)

 

 

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