「多数決」という手法がある。ほとんどの民主国家において、意思決定の際に用いられる手法だ。
しかし、多数決に依存せざるを得ない民主主義は、現代社会が引き起こす様々な課題に上手く対処できていない。 これは、かなり前からわかっていたことで、ウィンストン・チャーチルは、民主主義を評してこう述べた。
「民主主義は最悪の政治形態だ。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治形態を除けばだが」
(ウィンストン・チャーチル)
だから、企業内において「多数決」が採用されるケースは殆ど無い。企業内の意思決定は多数ではなく、意思決定の権限を持った一部の人間が行う。
理由は簡単である。「民主的」であるということが、凄まじい非効率を生み出すからだ。民主主義は、利害関係者が多すぎるので、「優先度」をつけるのが恐ろしく下手くそだ。
残念ながら現在の政治は重要な事を何も決めることが出来ない。特に国民に負担を強いるような、多数の(目先の)利益を損なうような政策は特に。
「医療費削減?とんでもない!」
「年金の受給開始年齢の引き上げ?弱い者いじめだ!」
「消費税の増税?格差を助長するつもりか!」
「目先の不利益」を生み出すような政策を打ち出せる政治家はいない。有権者は皆、口当たりの良い政策を好む。
しかし、「独裁国家」はそうではない。
世界で後退する民主主義 民主化が繁栄につながる時代は終わったのか。新興民主主義が次々機能不全に陥るなか、独裁体制の中国独り勝ちの皮肉
”中国でもデモなどの抗議活動が急増している。しかしそれは主に地上げや環境問題が原因で、民主化などの政治的要求を掲げるものはゼロに近い。
それでも中国共産党がこの25年間、政治的な締め付けの手を緩めたことはない。それどころか彼らは今や、世界一莫大な資金力と権力を持つ政党になった。
ソ連と共に歴史のゴミ箱行きになるどころか、中国の共産主義体制と「権威主義的資本主義」という独特の経済システムは、欧米型民主主義に代わり得る最も強力な体制と考えられている。” (NewsWeek)
「経済活動」は、非効率を排除すれば排除するほど力を増す。企業のように意思決定を行う人数が少ないほうが圧倒的に効率的に、かつスピードを持って活動することができる。
実際、「独裁」の強みはその意思決定の早さに有る。
したがって、国や団体、そして市民が「経済活動」を重視すればするほど、彼らは本質的に「民主的」であることを嫌う。
「もっと効率的に自治体を運営すべし」
「もっと早くルールを変更すべし」
「もっと間接部門(自治体や政府)を小さくすべし」
このような主張をする政党は、「今よりも、権限を中央に集中させ、独裁的に政治を進めよ」と言っているのだ。
以前書いた記事であるNHKクローズアップ現代「独立する富裕層」に思う。にも記述したが、経済合理性は、民主主義を後退させる。そうしなければ、経済競争に負けてしまうのである。
したがって、もしあなたが、「民主制」を子孫に残したいのであれば、
「経済成長を生み出すことがが国民の幸福を生み出す」
という概念、平たく言えば、「もっとカネをよこせ。景気をよくしろ、でなければ国民は不幸だ」という考え方を改める必要がある。
出来る限り経済合理性を追求しなければいけない、いうことは、意思決定できる人を減らさないといけない、ということと同じだからだ。
経済活動は効率的に行う必要があるが、国民の生活は必ずしも率的に行うわけにはいかない。老人を養い、子供を育て、障碍者を雇用し、生活保護を支給する。それは効率的に行われることが望ましいが、変化についていけない人を取り残すことは避けなければいけない。
では、経済をある程度の水準に保ちつつ、多数の民意を反映させる政治は可能なのだろうか。この問いに答えることは非常に難しい。 先の選挙で「アベノミクス」を掲げる与党が議席の大半を維持したのは、国民が与党に「反対意見を最小限おさえ、経済のために効率よく政治をして欲しい」の望んだからだ。
しかし、「効率」を優先するということは、「自分の望まない意思決定が数多く行われる」ということと引き換えであるということを忘れてはいけない。 「民主主義」は未だ道半ばであり、完成したわけではない。
我々には、技術的なイノベーションよりも、社会的、政治的なイノベーションが求められている。
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