会社をやっていると、様々な起業家の方にお会いする。新進気鋭のベンチャーから、老舗の3代目だが自分で会社をやりたくて独立したという方、大企業の出資を受けすでに大企業の雰囲気を匂わせる会社、果ては何をやっているのか全くわからない、年齢不詳の怪しい方まで、ほんとうに色々な人が会社をやっている。会社勤めをしていたころも比較的いろいろな会社に訪問していたたが、最近は更にいろいろな方にお会いするようになった。
そういった人たちと話すと、何年か前に見た、EvernoteのCEO、フィル・リービンが言っていた、「悪いこと言わないから、会社なんて始めるべきではありません」という言葉(日経ビジネス)を思い出す。
彼は「起業したほうがよいでしょうか?」という質問に対して、こう答える
”うん、やめた方がいいでしょう。おそらく、自分の会社は始めるべきではありません。これが僕としては最良のアドバイスです。
意外ですか? そうかも知れません。僕自身が起業家ですからね。でも、あなたのことを詳しく知らないかぎり、こう答えるしかないんです。というのも、起業したいと考えている方々の動機は、僕が知る限り、その多くが間違っていると言わざるを得ないからです”
もちろんこの言葉は起業をやめろ、と言っているわけではなく、「起業は今あなたが考えているようなこととはちがいますよ」というメッセージだ。
彼は次の理由から、「起業はイメージと異なる」という。
1.儲からない
”生涯所得を最大にしたいと考えているなら、自分で会社を始めるというのは非常に効率の悪い方法であるということを知っておいて下さい。むしろ、生涯収入を最大にしたいなら、その最も良い方法は、できるだけ給与の高い仕事を見つけてしがみつくことです。銀行の幹部、弁護士、専門医などはオススメです。一番高給が支払われる職業を選びましょう。親から多額の財産を相続できる人なら、これがおそらく一番でしょう。”
2.特に尊敬されたりもしない
”起業して会社のCEOになると、周囲から尊敬を集められるのではないか、権威を得るのに良い方法ではないかと考える人もいます。伝統的な大企業では組織ピラミッドを登っていって、その頂上にCEOが鎮座しているわけですから、その気持ちは分かります。しかし、自分で起業するとそうはいきません。
スタートアップ(ベンチャー)を起業してCEOになってみると、実は自分以外が全員ボスのように感じられるものです。つまり、自分の会社で働いてくれる社員は全員自分の上司同然の扱いで接しなければなりません。加えて顧客、投資家、メディアなど、みんながあなたのボスになります。”
3.自由な時間がない
”これは僕自身、知り合いに何度か言われました。「生活スケジュールを自分でコントロールできて、さぞかし自由な時間が増えるだろう。私も起業家になりたい」と。
あなたが24時間中20時間働くというなら自分で働く時間を管理できますが、それ以上の自由はありません。家族ともっと長く過ごしたいというなら起業家という選択はお勧めできません。”
たくさんの起業家の状況も、自分で起業してみた感想も、全く同じだ。儲からないし、特に尊敬されたりもしない(逆に、胡散臭く見られる)、そして休日もない。
フィル・リービンは、それでも起業するメリットはなにか?と聞かれた時、カッコよく「世界を変えられる」と言っているが、当然そんなこともない。実際には、目の前の仕事で手いっぱいであるし、世界を変える前に今日明日の飯が食えるか、ということのほうがはるかに課題として大きい。
だから、私も「悪いこと言わないから、会社なんて始めるべきではありません」には完全に同意だ。
でも、だからといって起業を後悔しているかといえば、そんな事は微塵も思わない。
なぜか?
あえてそれを表現するならば、「子供の頃の気持ち」を思い出せるからだ。かつて子供の頃、世界は広く、未知のものに溢れ、出会うものすべてが興奮の対象だった。
でも、私はいつの間にか日常に忙殺され、世界にかつての輝きを見出すことができなくなった。
それを取り戻したい。そういう人は、起業という選択肢もまた、悪くはないのではと思う。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)