どうもこんにちは、しんざきです。

 

最近、長女がなかなかご飯を食べない時、執事口調で

「お嬢様、お食事をお召し上がりくださいませ」とか

「お嬢様、レディは手でつまんで食べてはなりません」

とか言うときゃっきゃ笑った後ぴっとしてちゃんと食べてくれるということが判明したので、今後駆使していこうと思います。

よろしくお願いします。

 

今から昔話をします。

 

もう20年近く前になるでしょうか。

インターネットのほんの一時期、「CGIゲーム」というものが流行ったことがあります。

 

要はブラウザゲームなんですが、PerlやPHPで組まれたサーバ上のプログラムがHTMLを返してくれて、ブラウザ上で自分の行動結果や現在のステータスなんかを確認する、それなりに時間を必要とするゲームが多かったように記憶しています。

中にはサーバプログラムが無料で配布されていたCGIゲームなんてものもありまして、色んな人が色んなアレンジをして、各々のゲームを運営する光景が見られたものでした。

 

そんな中、かなり大きなシェアを誇っていたゲームとして、「箱庭諸島」というものがありました。

 

***

 

皆さん、箱庭諸島って覚えてますか?

当時はかなり広範囲で流行していたので、プレイしていた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

検索してみると、今でも遊べるサーバがちょこちょこあるみたいです。

 

箱庭諸島というのは、要は自分の島を開発・運営するシミュレーションゲームです。

プレイヤーは、ゲームに参加すると自分の「島」を与えられ、その島に好きな名前をつけて、例えば森を切り開いて木材を手に入れたり、農場を作って食料を手に入れたり、村を作って人口を増やしたりします。

 

ゲームごとに決められた時間でターンが経過していって、そのターンが経過するごとに自分の行動結果が表示されるシステムになっておりまして、例えば村が成長して町になったり、一方火災が発生して工場が焼けてしまったり、時には怪獣が出現して暴れ出したりといったイベントが起きることもありました。

 

「箱庭諸島」のどこが新しかったかといいますと、それは「同時並行で色んな島が同じゲーム内で運営されていた」ということに他なりません。

 

今では珍しくもなんともないかも知れませんが、当時、「他のプレイヤーと同じゲーム内で協力したり対戦する」という遊びは、今までにない全く新しい遊びに思えたものです。

島の運営の際には、他の島に干渉するコマンドも用意されていまして、例えばミサイルを撃って戦争をしかけることも可能でしたし、あるいは他の島に現れた怪獣を攻撃して倒してあげる、食料や資金を交換・融通してあげるといった協力プレイも可能でした。

 

ゲームによっては併設された掲示板(Teacupとか)で他のプレイヤーと連絡をとることも可能で、そこには様々な人間模様がありました。

当時はなにせ、「ネットマナー」とか「ネチケット」といった言葉がわざわざ考案されて流布される程、ネットにおける対人関係が洗練されていなかった時代です。プレイヤーの年齢層も様々、職業も様々で、人間模様も無法地帯に近いものがありました。

ネチケットじいさんとか(参照:http://heno2.com/2ch/v.php?15009)、懐かしいですよね。

 

箱庭諸島はルールもプレイヤー層もサーバごとに様々だった為、「平和な箱庭運営ゲームだと思っていたのに戦争を仕掛けられてブチ切れるプレイヤー」だの、「謎の俺ルールを勝手に他のプレイヤーに強制しようとするプレイヤー」だの、「自分基準でマナー違反だと認定したプレイヤーに対する攻撃を周囲に呼び掛けるプレイヤー」だの、正直なところ魑魅魍魎、百鬼夜行の風情でした。

 

当時、特にルールで決められている訳でもないのに「☆☆☆ この島に対するミサイル攻撃は禁止されています!! ☆☆☆」とかいう星つきのコメントを表示する島は山のようにありましたし、一方「今ならこれ間違いなく犯罪予告で逮捕されるよな…」的な文言を掲示板に書き込むプレイヤーも山ほどいました。

ブーム中盤辺りからは、ゲームルール自体に「戦争禁止」とか「戦争あり」みたいなことを明記するサーバが多くなったように記憶しています。

 

***

 

ところで、私はそんな中、とある戦争ありサーバで箱庭諸島をやっていました。

ゲームをプレイしていくと、人口によって島のランキングが出来るんですが、当時「同盟」というものを作る動きがありました。

つまり、掲示板で協力し合う島を募集して、例えば同盟の中の島が攻撃されたら皆で反撃したり、あるいは同盟同士で戦争を挑んだりするのです。

 

皆さん、「ICQ」とか「IRC」って覚えてますか?

ゲーム上の掲示板とは別に各々チャットで連絡が取れる、今でいうチャットソフトのようなものなんですが、同盟を作ったメンバーはICQやIRCで連絡を取り合い、島の運営の相談をしたり、資源の融通の交渉をしたりしていたのです。

 

当時私も、とある同盟に誘われて参加しており、その同盟のIRCチャンネルに所属していました。

クライアントソフトはCHOCOAだったように記憶しています。

真剣に島の話をする人もいれば、アニメやゲームの話をする人、学校や職場の話をする人もいる、メンバーは7,8人とはいえ雑然とした賑やかなチャンネルでした。

 

そのチャンネルのまとめ役をしていたのがTさんでした。

 

当時30代半ばくらいだったのでしょうか。

Tさんは、そのゲーム内でもトップ3には必ず入る大規模な島のプレイヤーでして、非常に面倒見が良い人でもありました。

IRCチャットに常駐している時間も長く、誰が来ても気さくに話しかけるので、IRCのメンバーの間でも中心的な立ち位置になっていたと思います。

 

私自身、そのゲーム中でTさんには随分お世話になっており、食料を融通してもらったことも、資金を融通してもらったこともありました。いい人だなーと思っていた記憶があります。

 

同盟が出来て、二か月くらい経った頃だったでしょうか。ある時、Tさんに「〇〇さん(後述する島の名前)ってどの辺に住んでるんですか?」と聞かれました。

何の気もなしに「××の辺りですよー」と答えてみると、「お、近いですねー!」と言われました(後になって分かることですが、実際にはTさんの居住地は全く近くなく、新幹線で2時間程必要な遠隔地でした)。

 

その後あれやこれやとやり取りをして、Tさんから「良かったら一度飲みにでもいきませんかー(笑)」と言われました。

「なんか随分ぐいぐいくるなあ…」と思いはしたのですが、私は当時「東京BBS」という草の根ネットでパソコン通信もやっておりまして(参照:https://blog.tinect.jp/?p=56886)、そちらでBBSメンバーと会って遊ぶことはちょくちょくありましたので、ネット越しの人と直接会うことに特に抵抗感はありませんでした。

 

Tさんにはお世話になっていることもあり、「じゃあ会いますか」という話になったのです。

 

当日になりました。

 

今でも覚えているのですが、待ち合わせ場所で最初に見たのは、私よりもだいぶ年上に見える、愕然とした表情のスーツ姿のおじさんでした。

「え、俺なんかまずいことしたかな?」と思ったことが記憶に残っています。

 

近くの安めの飲み屋(確か澁谷の「日本海」)に移動したのですが、Tさんは強張った表情のまま、ちょこちょこ世間話をする程度です。

私自身は「初対面には強いけど何度か会ったくらいの人と話すのは極めて苦手」というタイプのコミュ障ですので、初対面のTさんと話すのは苦ではないものの、「これはちょっとおかしいな…」と思ったので

「あの、ちょっと様子変ですけど、俺なんか悪いことしました?」

と聞いてみたのです。

 

この時Tさんからぼそっと返ってきた言葉が、

 

「いや…………女の子だと思って…………」

 

やってしまったのでした。

今更特定されることもないだろうと思うので書いてしまいますが、当時私が運営していた島は「ルミリャフタ島」と言いまして、これは南米民族音楽「フォルクローレ」の中で私が大好きなプログループの名前なのですが、これがどうもTさんには(恐らく「ルミ」の部分で)「女の子の名前」として解釈されてしまったようなのです。

 

かつ、私はあまり自分の属性を開示する方ではなく、IRCチャットでも人の話に丁寧語で反応することだけに徹していたので、Tさんの中では完全に「おとなしくて丁寧な女の子」として私のキャラクターが固定されてしまっていました。

かつ、話には応じてくれるし、飲みに誘うと来てくれるし、今まで女性と付き合ったことがないTさんは「あわよくば」と考え、はるばる遠方から飲み会に臨んだ、という事情だったらしいのです。「マジかよ」と思いました。

 

私としては「いやじゃあ会う前に性別の確認くらいしてください…」としか言いようがないんですが、

「確認したらがつがつしてると思われると思って…」

というのがTさんの言葉でして、「いや飲みに誘うのはがつがつしてると思わなかったんかい」という他ありませんでした。

 

結局これは、その場では「笑い話」ということになって消化され、その後はそこそこ談笑もしてお開きになったのですが、それでもTさんの当初の強張った表情は強く印象に残っています。

 

実を言うとこれが、私にとって「インターネットで知り合った人とオフ会をする」という行為の初体験でした。

初体験が「女性と勘違いされて勝手におじさんのナンパのターゲットになり勝手に絶望される」という、字面にしてみるとなかなか強烈な体験でもあります。

まあ前述した通り、パソコン通信で人に会うことはそれ以前に何度もあったんですが。

 

私自身は「何事もなかった」ということで片付けるつもりだったのですが、やはりTさんにはショックな出来事だったらしく、この後Tさんは折角育った自分の島を削除。

IRCチャンネルも解散されてしまい、新たにチャンネルを立てる人もおらず、同盟も自然消滅してしまった訳です。

 

IRCチャットのメンバーは間違いなく「何故急にこんなことに…」とか「Tさんどうしたん?」と思ったでしょうし、実際掲示板でそういう疑問や、心配する書き込みもあったのですが、当時は仁義と思って一切この話をしませんでした。

 

あれから20年近く経ち、いい加減時効だろうと思われるので、自分の記憶消化の為に書いてみました。

今となっては、ただただTさんがご壮健であることを祈念するばかりです。

 

あの後、MMORPGの隆盛と共にCGIゲームはゆっくりと下火になっていき、そのMMORPGの隆盛もソーシャルゲームにとって代わられ、今ではオンラインゲームはスマホ市場のまっさかりです。

過ぎ去った盛衰を思い起こすのは、懐かしくもあり、どこか寂しくもあるのです。

 

この後私は、「人はどんな行動をするとweb上で女性に勘違いされるのか」ということに興味を持って、一時期ネカマの研究をしたりしていたのですが、まあそれは余談です。時効ということにしておいてください。

インターネットのほんの一隅で起きた、小さな友情の始まりと終わりの物語でした。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

(Photo:njt1982