中学受験の最後の追い込みの時期だからだろうか。
この時期になると、中学受験の話題をwebでちらほら見かける。
SAPIX→御三家→東大合格の”テンプレ”人間が語る中学受験と塾|Yuki #note https://t.co/oyE3UGjSUe
世間の中学受験の論争について自分が思っていたことが全部ここに書かれてる
— たかそう (@takasousou58) December 18, 2019
正確な描写の記事だな、と思った。
中学受験はコスパが悪いし、合否によって将来が決まることもない。
嫌がる子供を無理やり勉強させるのは、親も疲弊する。
だから、記事にある通り、中学受験はとてもではないが、万人に勧められるものではない。
ただ、私にとっては、中学受験は良い経験だった。
中学受験は2つ、私にとって大きなメリットがあったからだ。
一つは、
「めちゃくちゃ世界が広がる体験だった」
のと、
「他人から点数をつけられる」
ことを学べたためだ。
とは言え、この話も、ごく個人的な、小さな「感想」程度なので、ご承知おきいただきたい。
テストの問題が難しすぎて解けない
私が「中学受験」という言葉を知ったのは、いつだったか、正確には憶えていない。
が、小学校4年生の終わり、2月か、3月くらいだったと思う。
休日に突然、親に連れられて、見知らぬビルの一室で、大勢の小学生と一緒にテストを受けさせられた。
小学校のテストで苦労したことはなく、さっさと終わらせようと
「めんどうくさいなー」
と思いながら教室に入ったのは覚えている。
ところが。
テストが難しい。
全くできない。見たこともない記号も出てくる。
例えば算数。こんな感じの問題が出た。(ように記憶している。)
【1】次の問題に答えよ。
1) [34.7+{566.3−(65.9*3)}]*38.9= ?
これを見て、当時の私は戸惑った。
[]って何?始めてみた……。
{}って何?学校でこんなの、習ったっけ?
という状態だった。
ダメだ、どこから計算すればよいのか、よくわからない。
私は1問目の計算問題から、お手上げだった。
よくわからないから、次の問題をやろう……
と思ったら、こんな問題が出てきた。
【2】次の問題文を読み、設問に答えよ。
太郎くんは、りんごと柿をスーパーに買いに行きました。
りんごは1個120円、柿は1個200円でした。合わせて14個買い、支払った金額は2000円でした。
1)太郎君は、りんごと柿を、何個ずつ買ったでしょう?
……?
どうやって解くの?これ……えええ?
難しくない?このテスト……
私は途方に暮れてしまった。
もちろん、テストの結果は惨憺たるもので、私は初めて
テストの問題が難しすぎて解けない
という経験をしたのだった。
その後私は、郊外の何の変哲もない学習塾に行くことになった。
当時はSAPIXなる塾はなく、四谷大塚という塾が最も有名だったらしいのだが、当然、そこは成績の良い子どもしか入れない。
塾に入るための、入塾テストが難しかったためだ。
私のような何もやってこなかった子供には、受け入れてもらうことすらできなかったのだろう。
両親が何を思って、中学受験をさせようと思ったのかは、当時の私には想像つなかった。
が、とにかく、週に2〜3回(だったと思う)、小学5年生だった私は、一人で電車に乗って、塾に通うことになった。
学校ではない世界ができた。勉強の話ができる友達ができた。
ただ、私は小学校以外の世界ができたことがとても嬉しかった。
一人でバスに乗ることも初めて。
一人で電車に乗ることも初めて。
学校と家以外の場所で勉強することも初めて。
習うこともすべて、初めて。
特に、定期券をもたせてもらえたことは、非常に嬉しかったように記憶している。
また、塾の授業も面白かった。
小学校では、本が好きだった私は、国語の教科書をもらったそばから全部読んでしまい、授業が退屈だったので教科書に落書きばかりしていた。
だが、塾では毎回、新しい文章が読める。
それが私にとって、塾に通うご褒美の一つだった。
算数は図形の問題が面白かった。
様々な図形の「長さ」や「角度」を導いていく問題は、一種のパズルのようでもあり、解けたときの達成感はひとしおだった。
手も足も出なかった「つるかめ算」ができるようになったときは、感激した。
みんなで一斉に問題に取り掛かり、解く速さを競争したのも面白かった。
(ほとんど勝てなかったが……)
そして、何より交友範囲が広がった。
塾の友達は、小学校の友達と全く違っていた。
例えば、「日本の歴史」の漫画のネタを知っている。
「理科の実験」の興奮が、共有できる。
「勉強の難しさ」をわかってもらえる。
一方では、「カタい話」を好まない、小学校のクラスの友達の大半には、そのような話をすることを控えていた。
いつも、相手の話題に合わせて、手加減して話さなければならなかった。
「団体行動」が昔から苦手で、小学校の行事が本当に苦痛だった。
が、塾ではそんな不毛なことも強制されない。
学校に対して感じていた「閉塞感」を塾が壊してくれたのが、何より嬉しかった。
「僕には塾があるんだ」と思えたおかげで、小学校の苦痛が軽減されたのだ。
このあたりは「副業」をやっている人なら、わかるかもしれない。
世の中は、他人に点数をつけられる世界。
だがもちろん、塾には塾の苦労がある。
というのも、「定期テスト」のたびに、掲示板に成績が張り出され、人と比較されるのだ。
容赦なく。
私が在籍していたクラスは十数名の小規模なクラスだったが、テストの順位は、全教室、千数百名のうち、上位者が張り出される。
その中で「良い成績」を取る子供は、注目の的だ。
だが、私はそれほど突出した成績をとっていたわけではなかった。
「安達は何番?」みたいなことを平気で聞いてくる、デリカシーのない、同じクラスのやんちゃ系の友達がいた。
彼はいつも私よりもほとんどの科目で成績が良かった。
「不動の一位」をキープし続ける、天才みたいなやつも居た。(そいつは結局、開成に合格した)
彼らは塾にとっての「金の卵」であるから、先生の注目も多いし、賞賛もされる。
ただ、私は「受験」というものをあまり真剣に捉えることができず、塾の先生からいつも、
「安達は真剣味が足りない。」と、よくコメントを貰っていた。
だが、ごく稀に、得意分野でたまたま良い成績をとることがあると、みんなが褒めてくれた。
在籍しているクラスのなかで、一つの科目だけでもトップを取れば、「お前やるな」と先生に言われた。
小学校では、生活態度ばかりが問題になり、勉強で褒められたことはほとんどなかったが、塾では、成績が良いだけで褒めてもらえる。
小学生の私にとって、
「点をたくさん取る人が、褒められる」
という、シンプルな評価を提供してくれる場はありがたかった。
私にとって、それは「大人の世界」という感じがした。
ただ、これは今でも思う。
結局、世の中は、望むと望まざるとに関わらず、他人から点数をつけられる場だ。
そして、点数の高い人が褒められる。
「2月の勝者」という中学受験の漫画がある。
中学受験というイベントを通じて、小学生が過酷な試練を乗り越えていく(あるいは挫折していく)過程を描写している作品だ。
その中で、「中学受験なんてしたくない」という子が出てくる。
同情する読者も多いのではないだろうか。
中学受験なんて、やりたいやつがやればいい、やりたくない子に無理やりやらせるなんて、間違っている。
そう思う人も多いだろう。
だが、塾の先生は、同意しつつも、次のように言う。
別にこれは「学校のテストの点」に限らない。
友達から「点」をつけられる。お前はいい友達なのか?と。
交際相手から「点」をつけられる。あなたは付き合うに値する人物か?と。
SNSに投稿すれば「点」をつけられる。いいねの数は?リツイートの数は?と。
子供から「点」をつけられる。良い親か?と。
もちろん、会社でも、個人の商売でも、学者になっても、芸術家になっても、他人と関わると必ず
「点」をつけられる。
この世は、全員が、全員を採点しているのだ。
それが、組織を作る生き物たる、ホモ・サピエンスの本質だから。
そして、それに応じて、人間関係が決まる。
人生が決まる。
容赦なく。
それは結局、中学受験のときの試験の点数と、本質的には何ら、変わることはない。
だから、個人的には、人生の早いうちから「点数をつけられる」ことに慣れておいて、本当に良かったと思う。
特に、私の前職だった「コンサルタント」は、「人につけられている点数」を見抜くのが早ければ早いほど、良い仕事ができた。
また、会社組織では「私にどの程度の点数を、誰がつけているのか」を知ることは、重要であった。
万人にすすめるわけではないが、中学受験は大人への第一歩として、良い機会だと思う。
とくに「勉強は好きだけど、小学校が嫌いな子」には、とても良い環境だ。
なにせ、「力を合わせて」とか、「クラスのみんなのために」といった道徳を、一切、問われないのだから。
*
結局、私は中高一貫の、都内の私立中学に進学した。
進学した学校は、小学校に比べてとても開放的で、友達もたくさんできた。
何より「手加減して話す必要」がなくなったのは、とても良かった。
いまでも、中学・高校の同級生たちとは、密なつながりがあり、
SNS上ではよくやり取りする。
仕事を一緒にすることも少なくない。
ただ、最後に余談だが、学校の「成績」という意味では、結局私は大した成果を残せなかった。
まあ、落ちこぼれたことも貴重な経験だ。
「勉強」という意味では、天才たちの足元にも及ばない事を学校で痛感したのは、これはこれで価値がある。
が、これはまた別の機会に書くことにする。
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