まだ駆け出しの頃に私が働いていた会社で、会議やミーティングで「開口一番見当違いのことを言う人」がいました。

その人のことを、仮にYさんと呼びます。

 

Yさんはベテランのエンジニアで、その時点で既に枯れていたある技術について、極めて深い知見を持った人でした。

一方新しい技術についてはそれ程知識がなく、ご自分でも「技術知識をアップデートするのが大変」というようなことをちょくちょくお話されていました。

 

気さくで良く笑う方で、若手にも気軽に話しかけられていました。

私も何回か缶コーヒーをおごってもらったことがあります。

 

Yさんを慕っている人も多い一方、「あの人距離が近すぎて苦手」という人もそこそこの数いた記憶があります。

人見知り多かったんですよ、その会社。パーソナルスペース激広の人がやたらたくさんいました。

 

で、当時の私には、Yさんについて一つ「不思議だなー」と思っていたことがありまして。

何かしらの会議やMTGに出席すると、Yさんは大体「まず最初に見当違いのことを言う」のです。

ちょっと考えれば「いやそれは違うでしょ」とすぐ分かる、という程度に間違ったこと。

 

例えば、顧客からの要件をどう実装するかを相談する時に、要件の内容をちょっと取り違えた前提で発言されたり。

テーブル設計についてレビューを行う時に、重要な列について間違った解釈で発言をしたり。

 

しかもこういうの、発言する時には必ず「開口一番」だったので余計印象に残り、見当違いのことよく言う人だなーと思ってたんです。

 

ある時私、先輩にこういったことがあります。

「Yさんってベテランなのに、なんであんな見当はずれなこと言うんでしょうね?」

 

それに対して先輩は、まるで当然のことのようにこう答えました。

「いや、あれわざとやってるんだよあの人。ちょっと考えれば間違ってるってわかる、っていうくらいのことを、わざわざ考えてきてんの」

 

え。と思いました。

 

何でそんな、自分の評価が下がるようなことをわざわざするのか。

それについて先輩は、こういう風に解説してくれました。

この時の言葉は印象的だったので、結構細かく覚えています。

 

「Yさんがなんか言うと、大体皆「それは間違ってる」と指摘するだろ?」

「それはまあ、すぐわかりますから」

 

「で、そこから皆、それがなんで間違ってるのかとか、いや案外正しいんじゃないか、みたいなところから色んな議論始めたりするだろ?しないこともあるけど」

「…それは確かに」

 

「人間って絶対評価より相対評価の方が理解しやすいから、最初に間違った物差しがあるとそれをスタート地点にして色々思いつくんだよ。何もないと「なんか意見ありますか?」って言われてもしーんってなっちゃうことが結構あるから、Yさんはそれを防ぐ為にわざとアレをやってんの」

 

ははーー、と思いました。

 

そう言われた上で会議でのYさんの挙動を見ていると、確かにYさん、自分の「誤った意見」にこだわるってことが全くないんですね。

 

間違いを指摘されればすぐに「そっか、そうだよね」って言って撤回するし、その後は始まった議論を調整する側に回る。

確かに、まるで最初から、着火剤になったらそれでいいや、という程度のスタンスであるように見えたんです。

 

先輩だけでなく他のベテランの方々も、Yさんがわざとそういう振る舞いをしている、ということは理解されていて、会議を活性化する為に利用されているようでした。

一方若手の中には、「またしょうもないことを言って…」的に、Yさんに対して呆れている人もいました。

そういう意見は、Yさんが狙ってそういう挙動をしていることを知っているかいないかに関わらず存在するようでした。

 

***

 

その後経験や場数を積む内に、Yさんの行動にはメリットもあればデメリットもあり、実はかなり高度な振る舞いだったんだなーということが段々と分かるようになりました。

 

メリットとしましては、

・最初に何か発言をすることで、「第一発言者になる」ということに対する心理障壁を和らげる

・議論を相対評価にすることでアイディアを出させやすくする

・ツッコミを誘発させることで議論を活性化させる

・「間違ったことを言ってもいいんだ」という点で発言のハードルを下げる

というようなことがあるなーと。

 

確かに、会議で「まだ誰も発言していないところで発言する」って結構勇気がいるし、ハードルも高いんですよ。

座長役の人の上手い下手にもよるんですけれど、たとえばブレーンストーミングの場面なんかでも、意見を求められてもしーんとなってしまって誰からも発言が出ない、というのはそれ程珍しいことではありません。

そういう意味では、「まず誰かが何か言う」というだけでも一定の価値はあるんですね。

 

更に、それが絶妙に間違っている。

そうすると、「それは何故間違っているのか」ということが思考のトリガーになるし、間違っていることへの指摘が発言のトリガーになる。

更に、間違いを許容する空気自体が、発言のハードルを下げることにもなる。

 

確かにこの辺は、上手く回りさえすれば会議の着火剤としての効果が高いなーと思ったんです。

 

一方リスクやデメリットもあるなと思いまして、

・発言者の評価を下げる可能性がある

・発言者のまともな意見まで「間違っているのではないか」と疑いを持たせてしまいかねない

・その発言への間違いの指摘に焦点が集まってしまって、発散させるべきところで話が発散しなくなる

・「わざとやってる」ということが変に周知されると、「まーたやってる」的にスルーされてしまいかねない

 

これ、割と高度なコントロールが必要だなーと思ったんですよ。

まず一点、当然のことながら「間違ったことばっか言うヤツ」という評価は仕事人としてかなりのディスアドバンテージであり、単純に本人に対する低評価につながりかねないだけでなく、本人のそれ以外の発言さえ偏ったレンズ越しにみられてしまいかねません。

 

更に、その間違った意見が場を混乱させてしまったり、却ってそればっかりに焦点が合ってしまって話が進まなくなる、といった危険性も大きいように思いました。

そうなるとこのスタンスは単なる自己満足になってしまいます。

いわゆる「どうだ議論が深まっ太郎」ってヤツです。

 

当時、この辺のリスクが回避されるには多分二つの条件が動作していまして、

 

・Yさんが極めて限定された専門分野を持った人で、かつその分野では絶対間違ったことを言わないと信頼・評価されていたこと

・座長やベテランが、ある程度Yさんが何をしようとしているか理解していて、それを利用するようコントロールしていたこと

 

この二つがあったからこそ、「わざと間違ったことを言う」というやり方が成立していたんだろうなー、とも思いました。

 

つまり、Yさんがある分野でのエキスパートであったからこそ、それ以外の分野で間違ったことを言ってもそれ程違和感を感じられなかった、かつYさん自身の評価は担保されていたと。

「自分の専門分野が限定されている」ということを逆利用していたんですね。

 

更に座長役の人もある程度それを把握していたと。

実際、若手が座長をやっている時とかにはYさんそういう発言しませんで、恐らく相手やメンバーも見た上で、「このメンバーなら上手く自分を利用してくれるな」という認識の元、「わざと間違える」ということをやられていたんだろうと思うんですよ。

 

結構高度なテクニックなんです。

それでも(当初の私みたいに)「しょうもないことを言う人やなー」という目でYさんを見る人たちはいましたが、その辺も織り込んだ上で、Yさんは「会議の着火役」を引き受けていたんだろうなーと。

私はそんな風に考えているんです。

 

***

 

ところで最近web会議やビデオ会議を非常に頻繁に行うようになりました。

やっていて思ったんですけど、ビデオ会議ってやっぱり結構難しいところがありまして、座長やメンバーにもよるんですが

「なんか意見ありますか?」

「………」

ってなっちゃう機会が通常の会議よりかなり多いような気がしているんです。

 

やっぱり、会議室という空間ではなく自宅という空間が、ミーティングという場に入り込むことへの障壁になる側面もあると思いますし。

すぐそこに人がいる訳ではない、という条件が、どうしても会議を「他人事」として捉えさせやすくなるって要素、多分あると思うんですよ。入り込みにくいんです。

 

一方、座長の方もまだビデオ会議っていう様式に不慣れで、普段は上手い具合に会議を回す人でも、なかなか苦戦することが多いように見受けられました。

で、私技術系が専門分野で、営業系やマーケティングはどちらかというと専門外なんですが、最近そちらの会議にも頻繁に出るようになって、ちょっとYさんのことを思い出して真似してみたんですよ。

「開口一番間違ったことを言ってみる」ってヤツですね。

 

そうすると、これは確かに恐ろしい勢いで会議を活性化するな、と。

突っ込みから始まる議論、相対評価から始まる思考って、やっぱり物凄く分かりやすいんですね。

強さ議論って盛り上がるじゃないですか、ああいうの。

 

「いやそれは違うよ」っていうところから誰かがしゃべり出す。

すると更にそれについて複数のレスポンスがつく。

そこから話が広がっていったり、深まっていったりする。

 

やっぱ絶対評価って難しいんですけど、相対評価ってわかりやすいんですよ。

対立軸が発生すると面白いし、理解もしやすい、参加もしやすい。。

「悟空が一人で飯食ってるだけのドラゴンボールはただのニート漫画だけど、べジータと戦い始めるとなんだか面白いよ理論」というヤツです。

 

で、相対評価から始まってどんどん議論が進んでいく場面も確かにあったんで、これは実際有用なやり方だったんだなあ、と。

一方で、上で挙げたようなリスク・デメリットについても、コントロールを間違えると確かに表面化しかねないなーと思いもしまして、単なる自己満足に終わらないよう、注意しつつ随所で使ってみようかなーと考える次第なんです。

 

リモートワーク環境だからこそ思い出したテクニック。

有用性が分かったスタンス。

 

そういうものもあるなー、という話でした。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

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