努力はそんなに裏切らない
最近は「努力せよ」と言うと、批判されることも多いと聞く。
「努力は報われるとは限らない」
「努力できるのも才能」
「努力できない人もいる」
などというのが、その反論の骨子だ。
まあ、そうかもしれない。
もちろん「無駄な努力」があることは知っているし「努力を強要すること」の不毛さも知っている。
だから、「努力はムダ」という人々へ、私はあえて反論はしない。
でも。
私は現実的には、子供たちに「努力したほうがいい」と言うし、部下にも「努力して」と普通に言うだろう。
なぜなら、「とりあえず努力しておく」と、大体は良い結果になる事を知っているからだ。
むしろ、そういうシーンで「努力したほうがいい」と強調しないのは、かなり不誠実な態度だと思う。
実際、世の中にある大半の仕事は、「起業して上場させる」とか「売れっ子漫画家になる」あるいは「政治家の頂点に上り詰める」といったような、「努力の果てに、才能がないことを知って諦める」なんていう大層なものではない。
「ちゃんと続ければそれなりの結果が出る」物がほとんどで、実際には「才能を持つ人しか要らない」なんてことにはなっていないからだ。
多くの人にとって、「努力」に対する費用対効果はそこそこ高いというのが、私なりの見解である。
「継続的な努力」に関しては問題を抱えている人も多い
ただ、「努力」は継続性が問われる。
だから、問題を抱えている人が多いのもまた、事実だ。
特に最近は、「瞬発力はあるのだが、2,3週間やって、その後、なし崩し的にやめてしまう人」が多い。
例えば昔、営業所長をやっていた時。
「決められた営業の施策をコツコツやれない。どうしてもサボってしまう。才能がないんでしょうか」という人がいた。
私は「才能があるか」という、検証不可能な議論に時間を使いたくないし、たかだか一企業の営業を「普通」に勤めるのに才能は不要だと思っている。
だから、ひとまず才能云々は無視して、「どんな工夫をしてますか」と聞いた。
すると彼は「朝9時から30分とか、やる時間を決めて取り組んでいます」という。
まあ、普通だ。
私は「時間を決めてもできない?」と聞いた。
「苦手意識が勝ってしまって……どうしても。」
「他にやっていることはある?」と聞くと
「特にはないです。」
という。
なるほど、だが、この手の話の改善はそれほど難しくない。
(そのままではないが)私は学生のときに研究室で覚えた、次の事項の幾つかを彼に適用した。
いわゆる「努力するスキル」である。
努力を継続する方法
1.目標は小さく細かく近く
(達成感が肝心)2.まず始めてみて、好きなことだけ残す
(→始めてみないとわからない)3.人に見てもらう
(→アウトプットする)4.良い道具と良い環境
(上達の近道)5.モノマネから入る
(独自性は不要)6.人に教える
(教えると学ぶ)— 安達裕哉(Books&Apps) (@Books_Apps) June 9, 2020
単純に言えば、努力は「才能」によるところもあるが、単なるスキルとして、後天的にも獲得できる。
ちなみに、努力するスキルが後天的に獲得可能であることは、スタンフォード大学の研究でも実証されている。
「非認知能力」の有無が、まさに「努力できるかどうか」を分けるのである。
努力できることは才能だけで決まるわけではない。後天的に獲得されるスキルでもある。
では、思春期まで成長した子どもたちは、あるいは大人は「努力するスキル」を身につけることができるようになるのだろうか?
スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授は、思春期の子供を対象として介入を実施し、実際に脳の働きや知性が鍛えられるという成果を得た。介入グループの生徒たちは意欲の大きな向上を示し、低下していた成績が急激に反転した。要は「マインドセット」の切り替えにより、努力するスキルを身につけることは可能だということだ。
スキルは「反復練習」で身につけることができる。
したがって、「反復練習」を仕事に細かく組み込んでしまえば、努力はさほど苦しいものではない。
私は彼に
・目標を細かく分割してあげ
・定期的にアウトプットを私に送ってもらい
・ある部分はエクセルなどで自動化し
・私の使っていたテンプレートを与え
・恥ずかしがっていたのでロールプレイを行い
・勉強会でやり方を発表させた
別に大したことをしたわけではない。
部下の日常のアクションに少し手を加えただけだ。
だが、結果として、半年もしないうちに、彼は「毎日の努力目標を守る」ことができるようになった。
もちろん私が指導したからではない。
まぎれもなく彼が「毎日続けるスキル」を練習によって獲得したからである。
重要なのは「練習の工夫」
ただ、ここで強調しておきたいのは「練習」も、相手の様子を見ながら、つど工夫が必要だと言うことだ。
例えば上の事例では「アウトプットを送ってくれ」という指示はうまくハマり、彼は締め切りをきちんと守った。
しかし、そうした指示を出しても、一向に何も生み出せない人もいる。
そういう場合は、アウトプットのレベルをもっと落とすか、別の形のアウトプットを指示する必要がある。
例えば「文章が苦手」な人に、報告書を書かせてもなかなか上がってこない場合は、「口頭でやってもらう」などだ。
これは本人だけでは気づきにくいため、「コーチ役」がいると良い。
スポーツチームと同じだ。
*
その知人はいま「フォートナイト」という世界でも有数のオンラインゲームにハマっている。
累計で300時間以上プレイしていると言うが、上には上がいるらしく、「よく言って中級。初心者ではないという程度」と言っていた。
その彼はこんな事を言っていた
「フォートナイトは、上達までの方法がめちゃくちゃ数多く提供されていて、すげーハマる。練習を工夫させるゲームデザインが秀逸すぎる」と。
リプレイが充実しており、同じアクションを切り出して上級者と自分を比較したり、負けたときになぜ負けたかを分析したりすることが容易にできる。
さらに上級者がアップロードした練習面などが提供されており、Youtube上の大量の練習動画をみて、それを自由に使うことができる。
「上達までの道のりが見えるので、かなり練習のモチベーションが上がる。1日に最低1時間、ルーティンを組んで必ず練習してから、その成果を試すために対戦にのぞんでいる。」
と、彼はいった。
まさに、仕事と同じではないか。
*
私は、少なくとも「ゲーム」ができる時点で、「努力できる才能」は備わっていると思う。
だから「努力できない」ことを才能の性にする必要はない。
多くの場合、「練習方法」に関する工夫が不足しているだけだ。
努力はそんなに裏切らない。
親や上司は、積極的に練習をアシストすることで、子供や部下にそう伝えていくのが、義務だと私は思っている。
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