わたしは、ビジネスノウハウ本が嫌いだ。大嫌いだ。

個人で効率化できる部分なんてかぎられているのに、「お前が努力すれば成果を出せる」的なのが気に食わない。

それなら先に、ムダな会議を減らせって話だ。

 

……というひねくれ者のわたしだが、とある本に出会って、自分でもちょっと戸惑うくらい感銘を受けてしまった。

どうやらわたしは今まで、”2流”のビジネス書しか知らなかったらしい。

 

Windows95の基礎をつくった天才プログラマーが語る、3つの仕事術

わたしが手に取ったのは、『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』という本だ。

ふだんこういった本はあまり読まないけど、kindle Unlimitedで読めるし、評価が高かったから、気まぐれでダウンロードしてみた。

 

著者は中島聡氏。

1960年北海道生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

高校時代からパソコン系雑誌『週刊アスキー』において記事執筆やソフトウェアの開発に携わり、大学時代には世界初のパソコン用CADソフト「CANDY」を開発。学生ながらにして1億円を超えるロイヤリティーを稼ぐ。

1985年に大学院を卒業しNTTの研究所に入所し、1986年にマイクロソフトの日本法人(マイクロソフト株式会社、MSKK)に転職。

1989年には米国マイクロソフト本社に移り、Windows95、Internet Explorer3.0/4.0、Windows98のソフトウェア・アーキテクト(ソフトウェアの基本設計・設計思想〈グランドデザイン〉を生み出すプログラマー)を務め、ビル・ゲイツの薫陶を受ける。

(Amazon著者紹介より)

まえがきによると、Windows95の開発に携わり、「ドラッグ&ドロップ」を普及させ、「右クリック」を現在のかたちにした天才プログラマーらしい。

 

「すごすぎる人」の考えって凡人からしたらちょっとついていけないんだよなぁ……なんて思いつつ、せっかくなので少し読んでみることに。

するとどうだろう。

この本は、わたしが多くのノウハウ本に抱いていた不信感を払拭して、納得のいく答えを提示してくれた。

 

というわけで、

1.すべての仕事はやり直しになる

2.ラストスパート志向が諸悪の根源

3.仕事は最速で終わらせてはいけない

天才プログラマーが語る、この3つの仕事術を紹介していきたい。

 

すべての仕事はやり直しになるから、さっさと全体像を描け

不信感:多くのビジネス書には「とにかく早く仕事を終わらせるべし」と書いているけど、じっくり時間をかけたほうがいいこともあるし、最速が最善とはかぎらないのでは?

 

そんなモヤモヤに対する答えはこうだ。

「すべての仕事はやり直しになる」。

 

世界を熱狂させたWindows95は発売当初、バグがあったそうだ。

いくつあったかって? なんと3500個だ!

それでもかまわず発売した。

そのバグは致命的なものではないし、ソフトウェアのバグを完全に0にするのはむずかしいとわかっていたからだ。

 つまり最初から100%の仕事をしようとしても、ほぼ間違いなく徒労に終わるわけです。なぜなら後から再チェックすると、直すべき箇所が次々に見つかっていくからです。(……)

クオリティが低くて怒られることよりも、締め切りを守れずに「時間を守れない人だ」という評価をされることを恐れてください。(……)

すべての仕事は必ずやり直しになります。最初の狙いどおりに行くほうがまれなのです。スマホのアプリもWindows95も、あなたの明日のプレゼン資料もそうです。どうせやり直しになるのだから細かいことはおいておき、まず全体像を書いてしまった方がいいのです。

これにはわたしも、心当たりがある。

何十回も見直して「よっしゃー完成だ!」と原稿を納品しても、一部書き直しになるなんてことはザラ。

だから時折、8割くらい書ききった時点で、「こんな感じで書いてるのですがどうですか」と編集者に一度相談するのだ。

そのときならまだ方向転換が効くし、編集者のアイディアを記事に活かすこともできる。

そうやってうまくいったことは少なくない。

 

「まちがっててもいいから速くするのが正義!」と言われると、「そうかなぁ」と同意しかねるけど、「どうせやり直すんだから細かいことは置いといてちゃちゃっと全体像を提示しよう」と言われれば、「そりゃそうだ」と腹落ちする。

実際に評価されるのは、「アイデアを思いついた人」でも、「最初に完璧なものをつくった人」でもなく、「最初にアイデアをかたちにした人」なのだから。

 

即レス、マルチタスクは不要。全力でスタートダッシュしろ

不信感:なんで即レスが仕事できる人の条件なの? マルチタスクって本当に効率的? いろんなことに手を出すのがいいことなの?

 

それに対する答えは、「2:8の法則」という時間術のなかにあった。

 

要約すると、

①10日かかる仕事を振られたら、「その仕事にどれくらい時間がかかるか確かめるために2日ください」と言う

②その2日で、8割完成したプロトタイプ(試作、原型)をつくる

③それができなければスケジュール見直しを交渉する

ということらしい。

 

つまり、「10日でやるべきタスクは最初の2日間で8割終わらせろ」。

筆者はそのスタートダッシュ期間、飲みの誘いはもちろん断り、メールも電話も無視、可能な限り会議を避ける。

雑談なんてのももってのほか、仕事以外のことをいっさいしないという徹底ぶりだ。

 

なぜなら、「マルチタスクこそ、仕事が進まない理由の最たるもの」だから。

 メールの返信が早くてもメインの仕事が遅い人の評価は高くありません。単に仕事が遅い人だなあという印象を持たれます。逆にメールの返信が遅くてもメインの仕事が早い人の評価は高いです。仕事ができるのだから、多少メールの返信が遅くても気になりません。

この話が示しているのは、「あなたの仕事はメールを素早く返信することではなく、仕事を終わらせることである」ということです。(……)

通常の20倍の能力を発揮して、メールチェックに挑む必要があるかどうか考えてみてください。

フルスロットルのスタートダッシュ中、ほかのことにエネルギーを使ってはもったいない。そのあいだはとにかく一点集中。

そして前述した「全体像」をだれよりも早く描き、やり直す前提でとりあえずかたちにする。

それが「良い方法」だというのだ。

 

1日の仕事も、朝に8割終わらせるのがいいらしい。

放置していた電話やメール、打ち合わせなんかは、8割終わったあとのんびりやる。

最初にあらかた仕事を片付ければ、「どうにか終わらせないと」と徹夜することもない。

なるほど、常に即レス&マルチタスクで集中力を分散するより、こっちのほうが仕事がうまくいきそうだ。

 

最速で仕事を終わらせず、次に備えた余裕を持て

不信感:効率化しても、次から次に仕事がきてまわりからの期待も大きくなれば疲弊するだけでは? 際限なく「上」を求められたらたまったものじゃないよ。

 

そんなときのために、著者は「仕事は最速で終わらせてはいけない」と説く。

 そうして2日で仕事の8割を終わらせたあなたは、このペースなら3日で終わるのではないかと考えます。(……)

スタートダッシュで仕事の8割が終わったからといって、そのままのスピードで仕事を終わらせてはいけません。3日間頑張って完全に消耗した挙句、間断なく仕事を振られるようだったら3日目は休んでいたほうがましです。

仕事を早く終わらせるよりも、仕事を安定して続けることを意識すべきです。結果、焦って仕事をしていたときよりも早く、しかも高い完成度で終わるようになるのです。

スタートダッシュするのは、高速でどんどん仕事を終わらせるためではない。

時間的、精神的、体力的に余裕を持つためのものなのだ。

つねにフルスロットルで働くことなんて、だれにも出来はしないのだから。

 

余力を残しておけば、次の仕事だってふたたびはやく終わらせることができる。

そのために、「仕事は最速で終わらせてはいけない」。

「さくっと終わらせてのんびり休む」「どんどん次の仕事に取り掛かろう」という極端な仕事術より、「緩急をつけて安定して働く」というほうが現実的で、まわりからの信頼を得られるだろう。

 

結局のところ、「あなたの仕事はあなたの仕事を終わらせること」である

こういった仕事術、時間術が書かれた本書だが、わたしが気に入ったのはむしろ、そのテクニックよりもその「姿勢」にある。

そもそも、なぜ時間をうまく使うべきなのか。

 

時間を節約したら自由に遊べるから?

効率化したらいっぱい成果をあげられるから?

仕事が早いとお金持ちになれるから?

 

ちがう。全部ちがう。

本当に大切なことは、「自分に任せられた仕事をやり遂げること」なのだ。

 10時に友人と渋谷のハチ公前で待ち合わせするときのことを想像してみてください。(……)

私はこういうとき、9時半にはハチ公広場から横断歩道を渡ったところにあるTSUTAYAのスターバックスで優雅にコーヒーを飲んでいます。(……)

10時にハチ公前に間に合うようにする方法ではなく、9時半にスターバックスにいる方法を考えるというわけです。そうすれば自然と電車に乗る時刻も早くなりますし、電車が遅延したとしてもほとんどの場合間に合います。

この渋谷の待ち合わせの話が示唆することは、締め切り前に締め切りがあると考えなければならないということです。逆説的なようですが、締め切りに間に合わせようと考えていても、締め切りには間に合いません。しかし、締め切り前に締め切りがあると考えると間に合います。締め切りを狙ってはいけないのです。

多くの人は、締め切りまでに提出できればいいと考える。

だからどんどん後倒しにして、「ラストスパートをかければ間に合う」と残業し、徹夜するのだ。

でもそれって、責任感がある人の仕事方法なんだろうか?

 

もちろん、やむをえない場合もあるだろう。

でもそれで本当に、いいパフォーマンスができるのか?

もう少し早めに取り組めなかったのか?

事前にスケジュール交渉できなかったのか?

 

そういう努力をせず、帳尻合わせで残業して、ヒィヒィ言ってやっとこさ完成したものを、胸を張って提出できるのか?

必死でどうにか仕事を終わらせた翌日、良いパフォーマンスができるのか?

 

それは平社員だろうが、社長だろうが、フリーランスだろうが、学生アルバイトだろうが、みんな同じだ。

自分に任された仕事があり、それを引き受けた自分がいる。

だからやる。やり遂げる。それが大事なんだ。

 

でもそれは、1回きりじゃ意味がない。

継続的に、安定してやり遂げるからこそ、その人は信頼される。

効率をよくするのも、納期を守るのも、ちゃんと体を休めるのも。

そのすべては、自分に任された自分の仕事をきっちりとやり遂げるため。

だからラストスパートに期待するのではなく、スタートダッシュを確実にキメるのだ。

 

だから著者はなんどもなんども、「あなたの仕事は、あなたの仕事を終わらせること」だと書いている。

そうそう、それが大事なんだよ。

小手先のテクニックより、そのテクニックを、なぜ、なんのために使うかが大事なんだ。

目的はたったひとつ、「仕事を終わらせること」。

 

いい本に出会うと、自分でもびっくりするぐらいモチベーションが一気に上がるものだ。

いまならめちゃくちゃいい記事が書けそうな気がする(書けるとはいっていない)。

まずは明日、朝一のスタートダッシュでさくっと仕事を8割終わらせよう。さぁ、今日寝るのが楽しみだ。

 

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

 

Photo by:Marcin Wichary