当サイトに寄稿しているマダムユキさんの記事が、おもしろい。とにかくキレッキレで、笑ってしまう。
とくに多くの人に読まれていたのは、「キラキラ起業」に関する記事だ。
明示されてはいないが、よくある「平凡なわたしが起業して社長になりました」系ビジネスのことだろう。それに続こうと群がる人(主に女性)たちを、これでもか!とこき下ろしている。
例として、『キラキラ起業に取り組む主婦たちは、競うように子供ネタをブログやSNSに投稿していた。』という記事で挙げられている、ハンドメイド作家たちの話を紹介したい。
器用な生き方のできない女たちは、その不器用さにつけ込まれて搾取されやすい。中途半端な野心や承認欲求を持て余していれば尚更だ。
「子育てをしながら在宅で仕事がしたい」
「趣味を活かして収入を得たい」
「商売を始めるからには、ちゃんと稼ぎたい」
そうした思いを抱え、しかし作品のクオリティーでは勝負できず、地道な努力も嫌う大半のハンドメイド作家たちは、売れたい思いが一途であればあるほど王道ではなく邪道を目指し、作家の道どころか人の道さえ踏み外していくことになる。
彼女たちは、キラキラ起業の高額セミナーで指南された通りに、Facebookを公開に設定し、毎日かかさず自撮りを投稿して、アメブロへのリンクを流していた。
いい年をした大人の素直とバカは同義語である。
結果として、「ハンドメイド作家として成功した者は一人も居らず、ほとんどはハンドメイドをやめており、残った一部の人はキラキラ起業コンサルになって、細々と活動を続けている」らしい。
この話を聞いて、多くの人は「意味のないセミナーに通う情弱」「搾取されているのに気づかない信者」と鼻で笑うだろう。
でもね、思うんですよ。
この界隈が売っている・買っているのは「ビジネスノウハウ」や「起業による社会的成功」なんかではなく、単純に「社会に関わった実感」と「やってる感」だということに。
キラキラ起業とまったく同じ、若者たちのブログ界隈
実はこれ、数年前にわたしが一時期身を置いていたブログ界隈でも、同じことが起こっていた。
本当に、まったく同じことが。
イケダハヤトさんやはあちゅうさんのような、当時20代半ば~後半のトップブロガーが頂点に君臨し、その下に20代半ば、大学生ブロガーが続く。
ブログサロンやセミナーで語られるのは、「文章の書き方」「googleで上位表示されるコツ」「フォロワーの増やし方」など。
ググれば似たような情報がいくらでも出てくる内容で、オリジナリティはない。
まぁ、本人たちもググってブログ運営を学んだんだから、当然といえば当然だ。
マダムユキさんは『私はこれまで、折に触れてキラキラ起業を叩いてきた。それがインチキだからである。』という記事のなかで、こう書いている。
人数が多いため、彼女たちが販売している商品に価値がなくても、セミナーやコンサルに中身がなくても、その経済圏の中では商売が成り立つのである。
商売が成り立つと言っても、お互いにお互いの商品やサービスを購入しあって、仲間内でぐるぐるお金を回しあっているだけだ。
自分の未完成な商品を購入してもらうお礼に、相手の未熟なサービスを購入するという「お付き合い」で成り立つ経済の為、彼女たちの財布にお金が居着くことはない。
現金が入っては出ていく状態を、彼女たちは「経済を回す」とか、「お金を循環させる」と呼んでいる。
(……)
彼女は、「奮起して」「懸命に努力した結果」、キラキラ起業女子サークルの中でカモられる側からサギる側に回れたということだ。
ブログ界隈も、まったく同じ。
そこそこの人数がいるので、お互いの記事をシェアしあうだけで、ある程度ページビューが稼げる。
お互いのセミナーに行き、その情報をSNSで発信して広めあえば、イベントは成り立つ。
そして、それらを「自己投資」「お金は使うことで入ってくる」などと言うのだ。
ほとんどの人は3か月もすればブログの更新が止まるが、一部の人は新たにブログサロンや有料ブログコンサルを立ち上げ、「サギる側」にジョブチェンする。
いや本当、まったく同じだよ。
商品はビジネスノウハウではなく、「社会」と「実感」
マダムユキさんが綴った女性たちの「キラキラ起業」と、わたしが一時身を置いた20代の若者たちの「ブログ界隈」。
どちらも、「情弱ビジネス」だとか「信者ビジネス」だとか呼ばれ、あまり評判がよくはない。
まぁ、フォロワー3000人のブロガーが「プロブロガー」を名乗ってトークライブをやったり、月10万PVで有料ブログコンサルをやる世界だからね。
そりゃ、ハタから見たら、「カネを取れる内容か?」と疑問視されるだろう。
そうそう、以前、炎上しがちなとある有名女性ブロガーのサロンに参加したとき、月6000円もするのに過疎っていてまともに機能していない実態を記事にして、即ブロックされたことがあった。
別のブロガーサロンでも、運営者の「薬を飲まなければガンは治る」的なツイートに否定的なコメントをしたら、これまたブロックされた。
現在進行形でカネ払ってる客であっても、おかまいなしだ。
ブロックに対して抗議しても、「気に入らないならサロンから抜けろ」だからね。客に対する態度じゃないでしょ。
「中身がないサービスを売る」「自分が気に入らない人間は客であっても即追放」という点で、第三者からは「健全なビジネス」には見えない。
そもそもこの界隈のブロガーは、収入の半分がサロンやセミナーといった「身内のカネ」だったりするしね(もう半分はアフィリエイト)。
だから、対外的に「まっとう」なビジネスをしている人から、いろいろと言われるわけだ。
でもね、数々のブログサロンに入って思ったわけですよ。
彼・彼女たちが売っているのは、ビジネスノウハウではなく、「参加できる社会」と「やってる感」なんだと。
自分を否定する人がいない居心地のいい場所にお布施をする人たち
「キラキラ起業」っぽい本を何冊か読んでみたところ、「お母さん・奥さんとしか呼ばれず、社会から取り残されるような焦り」だとか、「友だちが結婚しているなか自分は独身、この先ひとりでやっていける不安」、「出産後社会復帰したいけど高卒でパソコンも使えず門前払い」のようなプロローグではじまるのが定番のようだった。
そして、「そんなわたしでも起業できました!」と続くのだ。
ブログ界隈でも、「新卒で入社した会社をすぐに辞めた」「みんな一緒の日本社会はおかしい」「うつ状態だった」「好きなことだけして生きていく」「まわりに理解されなくていい」などなど、みんな似たようなことを言っていた。
で、「そんなわたしでもブログで生活できています!」と言うわけだ。
「一般社会に参加したいけどうまくいかず、だからといってくすぶってるのもイヤ。だれかに認めてもらいたい」という人たちに、「ここは居心地いいですよ~」という環境を提供しているが、キラキラ起業であり、ブログ界隈なのだ。
「こうしましょうね」と言われ、そのとおりにしたら、まわりが褒めてくれる。
うまくいかなくても、「チャレンジすることが大事」と励ましてもらえる。
「このイベントに参加して」「これを作って」「これをシェアして」とお願いされるので、そのとおりにすれば、行動したという充実感を味わえる。
そこには、「客からクレームが来てるぞ」「もっと早く資料を作れ」と言ってくる上司もいないし、「大学は辞めないほうがいい」「やるならまず資格を取るべき」と正論で水を差してくるツマラナイ人もいない。
現実に引き戻す人がいない「仲良し社会」で「やってる感」を出すことで、日常生活で叶えられなかったことを叶えた気になれるのが、これら界隈の「魅力」なのだ。
「日常生活で満たされない承認欲求を満たす」というビジネス
日常生活で「だれかの役に立っている」という実感がある人からすれば、それらはただのオママゴトにしか見えないのだろう。
「情弱たちからカネを巻き上げているやばい界隈」と、白い目で見るかもしれない。
でも「なにかしたい」「認められたい」という欲求を持て余している人にとって、専門性や技術がなくても受け入れてくれる「仲良し社会」という居場所、そしてすぐにできるレベルの宿題を与えてくれる「やってる感」は、心地いいのだ。
思い返せば、わたしがブログサロンにお世話になっていたのも、ドイツに移住するもうまくいかず、現地社会から完全に孤立していたときだった。
毎日記事を書くだけで「がんばってるね」と労ってもらえて、記事がちょっと拡散されたら「すごい!」と褒めてもらえるのは、たしかに心地がいい。
ビジネスとして「価格に見合ったセミナー内容か」「そのノウハウによって結果を出せるのか」という視点で見たら、「否」。
だって、それが目的じゃないんだもの。
キラキラ起業やブログ界隈は、「参加者が楽しんでいるか」「夢を語っているか」「運営者や登壇者に近づきたいと思っているか」で価値が決まっているのだから。
マダムユキさんのように、いくら正論で「技術が足りない」「世間とはかけ離れた評価を捏造しているだけ」「本物の物作りのプロになればいい」と言ったところで、煙たがられるだけ。
わたしがブログサロンオーナーたちからブロックされたように、「仲良し社会」に「一般社会」の尺度を持ち出すのは、マナー違反なのだ。
日常生活では満たされない承認欲求を持て余している彼・彼女たちは、仲良し社会でやってる感を味わって、きっと幸せなのだろう。
他人がなんと言おうと、「日常生活で満たされない承認欲求を満たす」のは、立派なビジネスジャンルなのだ。
それがまわりからどう見えるかは、また別として。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo by Anthony DELANOIX