深夜、おれは眠りたくない。

もっとインターネットをさまよっていたい、テレビのよくわからない番組を見ていたい。

時計はどんどん進む。

 

いよいよ、それそろ寝なくては、という段階になって、おれは処方されている抗精神病薬と超短期型睡眠薬を飲む。

そして、おれは口唇にワセリンを塗って、いびきを防ぐためのマウスピースを噛んで眠りに入る。

素直に眠りに入られるとは限らない。それ以前に、酒を飲んでうとうとしていることがほとんどだからだ。

 

おれは精神病から睡眠薬を処方されているが、睡眠時無呼吸症候群という診断も受けている。

入院検査ではっきりしているものだ。

おれの睡眠にマウスピースは欠かせない。

スマートウォッチを身に着けて、入眠、浅い睡眠、深い睡眠、覚醒を確かめもしている(どれだけ当てになるのかしらないが)。

 

考えてみると、おれは双極性障害のためと、睡眠時無呼吸症候群のために、日々の睡眠をハックしている。

おれは、睡眠障害者といえるのではないか。

 

というわけで、西野精治著『睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する』という本を手にとってみる。睡眠と科学。

先に述べたように、睡眠・覚醒が科学的研究の対象になったのは70年前のこと、まだ100年も経っていない分野です。

学問としても成熟しておらず謎だらけと言っていいでしょう。睡眠についてわかっていることは、まだ1割にも満たないのではないかとわたしは思っているほどです。

ええー、そうなの。レム睡眠とノンレム睡眠が発見されてからそんなものなの。

でもって、人間の睡眠について研究されているのは、まだまだ新しい分野なの。いやはや。

 

まあ、考えてみれば、人が、夜になって眠る、というのは当たり前のことだ。

でも、当たり前でない人もいる。

本書によれば、鎌倉時代初期に書かれた『病草紙』に不眠症が記されているという。

そりゃあまあ、人間、そんなに変わったものじゃないだろう。

 

「睡眠は「死」なのではないか?」という疑問

睡眠というと思い出すのは、死に似ていいる。

おれも弟も小学校に入ったかどうかのころ、弟が父にこう問いかけた。

「眠っている前の自分と目がさめたあとの自分は同じ人間なのか?」と。

父は、「それはいい質問だ」と言ったが、どう答えたのか覚えてはいない。

 

ただ、それ以来、おれは眠る前の自分と、目覚めたあとの自分が同一の人間であるか、同じ意識を持った人間か、自信がもてなくなった。

睡眠は「死」なのではないか。

朝起きたおれはいくらかの記憶を引き継いだだけの、新しい人間なのではないか。

 

それに輪をかけたがのが、古いSF映画だ。

死にかけている悪役が、自分の意識をべつの肉体(機械?)に移す。

その転移が終わったあと、新しい肉体が、死にかけている自分を殺す。

 

これはなんだ?

自分の自我のようなものを新しい肉体にコピーできたとしたら、そのコピー元はどうなるのか。

コピー元に意識があるのに、新しい自分に殺される。

とすれば、その個体は、やはり殺されてしまうのではないか、ということだ。

たぶん、アーノルド・シュワルツェネッガーが出ていた映画だと思う。

 

いずれにせよ、眠る前のおれという意識は、睡眠によって途切れて、新しく起きるおれは別物ではないのか。

そういう、一種の恐怖だ。

おれは眠ることが少し怖くなった。

おれはおれの自我に拘泥する。ある種の仏教の宗派にとっては「喝!」ということになるのかもしれないが。

 

睡眠時無呼吸症候群(すいみんじ むこきゅう しょうこうぐん)

というわけでおれは、自分が睡眠に入ることは、少し怖いことになった。

 

そして、おれにはさらに睡眠について問題を抱えることになった。

そんなに夜ふかししていないのに、日中に強烈な眠気に襲われるようになったのだ。

「なんだか午後眠い」というレベルではない。

ストンと電源が落ちるように、意識が落ちるのだ。

それまで稼働していたパソコンが、電源を落としたように、真っ暗になる。

 

これが続いたので、おれは、睡眠専門外来を訪れた。

入院して検査した。結果は睡眠時無呼吸症候群だった。

 

上記『睡眠障害』にはこのような記述があった。

日本では肥満気味の人ばかりでなく、女性でも、子どもでも発症しています。これは、アジア系人種特有の骨格が原因ではないかとされています。下顎が欧米人より小さく奥まっているため、骨格的にもともと気道が狭くなっているのです。

おれはべつに自分が肥満気味であることを否定したいというわけで、これを引用するのではない。

むしろ、それほど肥満でもないのに、睡眠時無呼吸症候群になってしまいっている、ということを伝えたい。

 

顎が小さく、簡単に息が詰まってしまう。

そのあたり、首をひいてみると息がしにくいなとか思ったら、その可能性はありそうなので、もしも日中に意識を失うようなことがあったら、専門外来を訪れてほしいと思う。

 

いずれにせよ、おれは睡眠時無呼吸症候群の当事者となった。

おれはスリープスプリントというマウスピースをつけて眠ることになった。

スリープスプリントがだめになったあと、いびき防止用のマウスピースをAmazonで買って使っているがが、日中に落ちることがないので、これでいいかな、と思っている。

これはおれに限ってのことなので、あなたにはおすすめしない。

 

中高のころのおれ

しかし、思い出すと、おれの中高の時代の睡眠も無茶苦茶だった。

学校から帰ってきて、午後5時とかには寝てしまう。

そして、深夜2時とかに起きて、飯を食って、深夜テレビを見ながら朝を迎えて、そのまま学校に通っていたのだ。

その当時に睡眠外来に通っていてもよかったかもしれない。

でも、若いおれは、それで学校生活を送れていたのだから驚きではある。

 

とはいえ、学校でも寝ていたのかな。

一度だけ、授業中に金縛りのようなことになって困ったことがあった。

意識ははっきりしているのに、体が動かない。

もし、教師に当てられてもいたらどうなったことだろうか。よくわからない。

 

あと、ついでに思い出すのはS君という同級生である。

授業中眠ってしまうのが恒例になっていた。

ついには、昼休み、弁当を食べている最中に箸を持って寝ていたことがあった。

今思えば、彼も睡眠障害を患っていたに違いない。よほどの夜ふかしでもしていない限り。

 

六時間眠っても

あとはなんだろうか、『睡眠障害』という本にはこんな記述があった。

ペンシルバニア大学などの研究チームが行った研究で、知らないうちに蓄積されていく睡眠負債の怖さがよくわかる実験があります。

その実験によると、「6時間睡眠を2周間続けると、集中力や注意力は2日間徹夜した状態とほぼ同じレベルまで衰える」ということが明らかになりました。

おれはなんとなく、時計が半周する6時間眠れていれば十分だろうと思っていたのだが、それじゃあ全然足りないのだな。

これには驚いた。2日間徹夜って、これはそうとうなやばい状況じゃないの。

そこまでポテンシャルが落ちるというのが、驚きではあった。

 

だいたい人間、どれだけ眠りゃいいんだ。

え、7.5時間なの。できるような、できないような。

 

それにしても、眠りたくない、眠っていたい

しかしなんだろうか、おれは夜、眠りたくない。

ネットにアクセスしていたいということもあるし、本を読んでいたいということもある。

 

なんにせよ、自分の意識を途絶えさせたくない、続けていたいという思いが強い。

前述のように、おれには、おれが眠ってしまっては、おれというものが死に、疑似の自意識が朝から動き始めるのではないのかという妄想がついてまわる。

 

とはいえ、あっという間に昼夜逆転してしまうとはいえ、やはりおれはある程度は眠り、賃労働に赴かなければならない。

これは辛い。少し長い連休などあると、おれは14時間~16時間くらい平気で眠りこけてしまう。

ロングスリーパーというやつだろうか。

 

「おれの睡眠時間は14時間必要です」と面接かなにかで言えるだろうか。言えない。たぶん。

夜勤などというと、さらに睡眠が狂うらしいが、おれとて睡眠時無呼吸症候群と双極性障害を抱えて、つらいものがある。

 

「ともかく、早寝を実践すればいいのでは?」という声もあるだろう。

それは正しい。だが、やはりおれはおれの自意識を失うのが怖い。

寝て、起きたくらいでは、おまえはおまえだろ、という意見はよく分かる。

よく分かりつつも、おもれはそのときまで引きずってきた意識を持続させたいという思いにとらわれる。

 

そしておれは、いやいやながら布団に入り、眠る。

眠り、アラームに起こされる。

起こされておれは怒って、もう30分眠らせろと携帯端末に再入力する。

おれはそのとき、浅い夢を見ている。レム睡眠というやつだろう。

それでも30分後にはまたアラームが鳴り……。おれは起きる。

 

あんなに眠りたくなかったのに、起床時となると、こんなにも眠りたい。

これはもう、おおよそ、おそらく、おおぜいの人間に納得できることじゃないかと思う。

あんなに眠りを忌避していたのに、朝になると眠りに拘泥したくなる。この矛盾。

 

……って、そうでもねえよ、という人もいるのかな。

夜、さっぱりと寝て、朝、すっきりと起きる。

そういう人もいるのかな。たぶん、優秀なビジネス・パーソンだ。

おれには想像できない。

 

夜はだらだらと酒でも飲みながら起きつづけ、朝は布団から出たくない。

おれとしては、睡眠にだらしない人間が多いのではないかと思いつつも、できるビジネス・パーソンはそうでもないのかな、などとも想像する。

 

あなたはどっちだろうか。

おれは超短期型睡眠薬のアモバンを飲み、口にはマウスピースをはめる。

それでも、ときどき昼間に落ちることがある。

そんなものに頼らなくても日中しゃっきりしていたいと思うし、もしもできるなら好きなときに寝てしまってもいい環境を望む。

 

おれは猫が好きだが、寝子となって一生を終えてもいいと思っている。

……って、寝る前の自分と起きたあとの自分の同一性という問題は残るのだが。

 

ああ、それにしても猫というやつは、本当に好きに眠って、好きに起きるよな。

おれもそれなり猫を飼っていたからわかるけど、あれはなんというか、眠りの理想のように思える。

人間がいくら文明を築き上げたところで、猫にはかなわないというところがある。それは認めてもらえないだろうか。

 

まあ、おれは猫にはなれない。

睡眠薬を飲んで、強制的にシャットダウンする。

おれは睡眠薬を飲むたびに、自身で毒を飲んで死ぬイメージをする。その予行演習のような気がする。

 

おれは布団に潜り込んで、あまり興味のないラジオ番組を聞いて眠りに入る。

あまり興味がないのがいい。

そして、おれは明日のおれにバトンを渡す。

バトンを渡されたおれは、前夜に聞いたラジオをどのくらい覚えていたか考えて、考えてもしょうがないので、シャワーを浴びて会社に行く。

 

それだけのことだ。

 

 

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(2021/08/4更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:黄金頭

横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。

趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。

双極性障害II型。

ブログ:関内関外日記

Twitter:黄金頭

Photo : Kenta Hayashi